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―――The second story「悩殺」―――

今日は土曜日で、授業は午前で終わるから勉強には支障はあまりなさそうだ。

俺は午前中グッスリ寝ていて、だいぶ体調は良くなった。

もうそろそろ緋流が帰ってきそうな時間だな。

と思っていると、メールが来た。もちろん緋流からだ。


[頼む、早く俺のお宝本を隠してくれ!]


お宝本?………あぁ、緋流の持ってるいかがわしい本のことか。

いきなりどうしたんだろう?


[どうして?]


とだけ返信した。すると30秒もたたないうちにメールが来た。


[夕月と小鳥遊が来るからだ!

早くしろ!!

あと1分で部屋に着く]


………って本当にヤバいじゃん!!

とりあえず何処にあるかを探さないと。

隠せっていうことはすぐに見つかるところなんだろう。

………えっと、机の上にあるんですけど………

よくあんなところに置けるよな。

俺が寝てたらどうしてたんだろう。

そんなことより夕月さんたちが来る前に隠してあげないと

俺は緋流のベットの布団の下にしまっておいた。

ちなみに俺たちは二段ベットで、緋流が上だ。

「ふぅ~これでよしっと。」

布団に潜り、みんなが来るのを待とうとしたら、10秒も経たないうちにドアが開き、

「お邪魔しまーす!」

「お邪魔します………」

と対照的な声が聞こえた。

間に合ってよかった。

あと少しでも遅かったらとても危険なことになってた………

前から思ってたんだけど、夕月さんはボーイッシュで、小鳥遊さんは文学少女だから、二人が一緒にいると何だか不思議な感じだ。

「彼方、隠してくれたか?」

と緋流が小声で訊いてきた。

やっぱり心配なんだろう。

俺もこんな状態だったらこうしてんだろうな。

「もちろん。お前の―――」

「助かったよ。これで安心だ。」

布団の下に入れといた、と言おうとしたのに無理やり話し始めた。すると、

ガンッという音と共に緋流がベットの天井に頭を打った。

それと同時にバサッという音も聞こえた。

ま、まさかね。本が落ちることなんてないよな。

「これってもしかして、不知火君の?」

夕月さんの手にはあの本があった。

「あぁ、俺のだけど………いや、俺のじゃない!きっと俺のじゃない。俺のじゃないでいてほしい………」

あいつ自爆しやがった………というか最後のなんてただの願望だったし………

「何で俺なんかが産まれてきたんだろう。今死ねばこの罪を許されるだろうか………」

あの子ショックのあまりおかしなこと呟いてるな………

夕月さんは本をパラパラと捲っているけど、女の子もあんなの読むのかな?

まぁ、そんなわけないよな。

そして、夕月さんは本を置いて

「これからはメガネかけてお兄ちゃんって呼んだ方がいい?」

と笑顔で言った。

段々と緋流の顔が蒼くなっていき、

「うわぁぁぁぁぁあああああ!!!」

と叫んで部屋を飛び出してしまった。

その本の表紙には『妹系メガネっ子特集』と書いてあった。

そういえばあいつロリコンだったな………

可哀想なやつだ。同情してやるよ。

「なんで出て行っちゃったの?」

夕月さんは自分がどれだけ緋流の心にダメージを与えたのか分かっていないようだ。

「男子はあれを持っているのが女子にバレたらかなり恥ずかしいし、内容まで見られたら精神崩壊するだろうね。」

多分緋流が思っていることを言ってみた。

だが、夕月さんは首を傾げている。まだ疑問があるようだ。

「私、不知火君の好きな子になりたいから訊いたんだけどな。」

えぇっと、つまり夕月さんは緋流の好きなタイプを演じようとしていたのかな?

それで、こんな感じがいいの?と訊こうとしたらあんな感じになったのか。

夕月さんらしいな。

そう思いながら本を隠してあげた。

今更遅いけど………

二人の方を見てふと思った。

なんだか表紙に載っていた子って誰かに似ていたんだよな………っていた!!

凄い小鳥遊さんに似てたよ!

メガネかけてるところとか、背が少し低いところが似てるし、おとなしそうな雰囲気も似てる!

「?どうかしました?」

私の顔に何かついてますか?とでも言いたそうな顔をしていた。

「い、いやなんでもないよ。」

「そうですか。」

とだけ言ってまた黙ってしまった。

本当に静かだよな。

よく木陰で読書している姿が見えてきそうだ。

「そういえば、紗倉君もああいう本もってるの?」

「えっ?い、いや、あんな本なんて、持ってないよ!」

不意に夕月さんが訊いてきて強い言い方で否定してしまった。

「怪しいですね。本当に持ってないんでしょうか?」

小鳥遊さんまで乗ってきた?!

確かに今の否定は怪しかったけど。

「本当に持ってないんだよ。」

「じゃあ、部屋の中、調べていい?」

夕月さんたちに信じてもらうには

「別にいいよ。そんなものはないんだし。」

こう言うしかない。

そう言った後、ふと緋流の顔が脳裏を過ぎった。

まさかあいつ、ほかにも本を持ってるんじゃないか?

だったらヤバい!

他のも見つかったら、部屋に帰ってこれないかもな。

「ちょっと待って。やっぱりやめてくれないか?」

「いいって言ったんだからもうやめないよ。それとも、自分で出すんだったらいいけど。」

そう言ってる間にも小鳥遊さんが押入れを捜索していた。

「出すも何もそんなの俺は持ってないんだって。」

「じゃあ何で止めるの?ないんだったらいいじゃん。」

「それは………」

その言葉に俺は何も返せなかった。

緋流よスマン。俺は精一杯のことはした許してくれ。

そう心の中で思い、緋流を見捨てたのだった……


それから数分後、二人が何かを見つけ出したようだった。

それもロリコンの緋流にはたまらない一冊だった。

二人も俺のじゃないことはわかったらしく、何も言わなかった。

「ゴメンね、紗倉君。本当に持ってなかったんだ。」

「疑ってすみませんでした。」

結局、二人は俺が持っていないことをわかったらしく、そう言った。

「別にいいよ。その代りに元あった場所に戻しておいて。またあんなことになちゃうから。」

「「はい。」」

それだけ言って二人は押入れの方に向かった。

最後はおとなしかったけれど、何でだろう?

俺のこと疑っていたことになのか、緋流の変態さに呆れたのか。

でも何であんな本を探したがるのか謎だ。

そんなことを思っていると二人が帰ってきた。

「不知火君ってどんな仕草にキュンとくるのかな?」

夕月さんはもう緋流には訊かない方がいいと思ったらしく、今度は俺に訊いてきた。

そういえば昨日、夕月さんのこと協力するって約束したんだったな。

「緋流はどうかわからないけど、男子は服の袖を掴まれて上目遣いで待ってとか言われるとキュンとくるけど。」

本当は俺がされたいだけなんだけど、そのあたりは秘密で。

う~んと言いながら夕月さんは何かを考えていた。

少し経つと、

「それくらいならできるかな。」

と呟いて立ち上がり、俺の近くまで歩いて来て、

「手伝って。」

とだけ少し恥ずかしそうな顔をしながら言ってきた。

「もちろんいいよ。」

と一言返事で返したものの、何をすればいいのか全くわからない。

でも、何でも手伝おうと心に決めて立ち上がった。

「じゃあ、さっき言ってたやつ練習したいから相手役やって。」

「もちろんいいよ………って相手役?!」

相手役だと!本当の彼氏だったらどれだけいいことか。

いやいや、そんなこと考えたら駄目だ。

俺は夕月さんを応援するって決めたんだぞ!

「うん、相手役。初めてだと失敗しちゃうかもしれないから。」

でも相手役だけだったらいいか。

夕月さんの望んでいることなんだし。

協力しないと!

そう自分に言い聞かせておいた。

でも、上目遣いなんてされたら俺はどうなってしまうんだろうか?

いや、今は実行あるのみだ!

「夕月さん、いつでもいいよ。」

そう言って俺は後ろを向いた。

「じ、じゃあ、やるよ。」

と後ろから声が聞こえた。

ヤバい。心臓が飛び出そうなくらいドクンドクンと鼓動を打っている。

少し経ってから袖を引っ張られた。

そして後ろを向いた。

そこには俺の見たがっていた光景があった。

下から全てを見通されるかと思うほど純粋で可愛げな夕月さんの上目遣いが。

本当に可愛い。

俺の頭の中はそれだけだった。

もう、このまま死んでもいいかも。

さらに俺の心臓は鼓動を強まった。

夕月さんや小鳥遊さんにも聞こえそうなくらいに。

そして、夕月さんは上目遣いのまま言った。

「待って………もっと一緒にいたいよ………」

それを聞いた瞬間に俺の心臓に何かが突き刺さったような感覚があった。

そして鼓動を止めた。

さっきまでの強さは何処かに行ってしまった。

そうか、これがキュン死というものなのか。

そう実感した時には世界が逆転し始めていた。

だんだん意識が遠退いていく。

「…くら…どうし…だ…じょ…」

夕月さんの声が聞こえた。二人に心配かけちゃうな。

俺はそう思いながら優しく柔らかな光に包まれていった……


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