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2.ある宇宙鉱山技師の博打の結末

 1/2の確率

 1/2の博打



「ニュースです。昨年、発見された月の鉱石が全く新しい物理学を人類にもたらすこととなりました。発見された鉱石は発見者の名を……」

 若い科学者がTVのスィッチをオフにした。



 そして、TV横のベッドにいるオレに話しかけた。


「参りましたよ。アナタには。確かに発見したアナタには命名権がある。でも何も『ラプラス』なんて名前に改名しなくても良いでしょうに?」

「ふん。オレがオレ自身の名前を何にしようとオレの勝手だ」

「まぁ……そうですけどね」

 科学者は淹れたての珈琲……じゃない温めたての珈琲パックを差し出した。

 暖かさが心をくすぐる。

「それにしても……何故です? 発見されてから半年もの間、『採掘禁止だ。この鉱石は総てオレのモノだ。退院するまで誰にも採掘は認めない。分析も解析もオレが認めた相手にしか許可しない』って頑張ったのは? 御陰様で私がゆっくり解析できるようになりましたけど?」

 科学者は不思議そうにオレを見る。


 確率と未来の女神様だか魔女様に教わったと言ったところで冗談と笑い飛ばすだろう。


「ひょっとして……信号弾代わりに壊した月面車と分析機材のローンの請求審査でも終わるのを待っていたんですか? 救難時のため無償というコトになりましたけど」



 確かに……オレは月面車を分析装置諸共、全て破壊した。

 アノ場所に落ちてから数週間後に通るであろうラグランジェ・ステーションが月面走査する時間まで待ってだ。

 案の定、月面走査していた連中はオレの居場所を見つけた。

 そりゃそうだろう?

 月面の亀裂から水蒸気が噴き出したらすぐに見つける。

 もっとも……裏側を走査していたら見つからない。

 確率は1/2。

 オレは神が振るうサイコロによる博打に勝った。それだけだ。

 それでも……救助に来るまでは4日ほどかかったがね。



 何をして生き延びたのか?

 あの時オレがしたのは……分析装置でディモノクォーターニウム・トリセドニウムを熱分解した。それだけ。


 熱分解する時に『爆発しないでくれ』とだけは真剣に祈ったね。


 モノクォーターニウムは元々は水素だが性質は酸素と同じ。

 それで呼吸は数週間ほど保つことが出来た。

 本物の水素は月の砂には吸着されている。勿論、ディモノクォーターニウム・トリセドニウムにも吸着していた。

 ディモノクォーターニウムと水素を反応させて『水』を造った。

 人間、水だけ在れば1ヶ月は生き延びられる。骨と皮だけになるけどな。

 サバイバルの基礎知識がオレを救った。

 それだけだ。


 そうそう。造った『水』が重水と違って身体に吸収されることも祈った。

 これはダメ元だったな。


 兎に角、造った『水』を密閉タンクに出来るだけ溜めて……月面車のエンジンを破壊して水蒸気に換えた。

 流石にこれはタイマーを造ってオレは物陰に隠れた。

 いや、決行の数日前から隠れていた。

 『仕掛け』を作り上げた頃には、疲労困憊。

 ラグランジェ・ステーションが通る頃には指一本も動かせないほどに衰弱するのは目に見えていたからな。



「それにしても……随分と変わった容姿になってしまいましたね。いまなら『宇宙人』役で映画デビューできますよ?」


 訳のワカラン物質の『水』と『酸素』を摂った御陰で……髪はプラチナ色というかチタン色に染められてしまったが。

 まぁ、重金属摂取障害にならなかっただけでも拾いモノだろう。

 いや? なってしまったのは『軽金属(?)摂取傷害』か?


「そうだな。『ラプラスの魔人』としてスクリーン・デビューでもしてみるか」

「御自身で脚本、監督、主演、そしてスポンサーでの映画を数本作れますよ。政府が新鉱石『ラプラス』を高値で買い取ってくれるそうです。御陰で私も栄誉と『おこぼれ』に預かれそうですよ。アナタが私を新鉱石の管理者として任命してくれた御陰ですね」


 そうか。大金が懐に入ってくるのか。


「だったら……デビューは後だ」

「何に使うんです?」


 オレは笑った。

「決まっているだろ? 深宇宙探検だ。空間跳躍の出来る飛びっ切りの宇宙船を仕立ててやるさ」

「はははは。それは良いですね。でも数年は待って下さいよ。理論は出来ても技術として実現するのには時間がかかりますから」

 では、また来ます。と言い残して若い科学者は部屋を出て行った。



 オレはベッドに転がって感謝した。

 窓の向こうに浮かぶ地球。いや、地球を今見ている現実というヤツに。




 総ての未来と……いまある現実に。


 感謝した。



 読んで頂いてありがとうございます。

 キャラは「101人の瑠璃」の中から1人使ってます。

 トンデモな物質名は、元々は「アコライト・ソフィア」の杖の材質として考えていたモノです。

 さらにトンデモな性質についてはミクシィの中で書いている小説で設定したモノです。



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