5.ある……壊れゆく宇宙船の中での選択の結末
爆発する宇宙船の中でアタシは生き延びる方法を探していた。
「姉さん。ビデオレターが届いたわよ」
アタシは……今、低軌道ステーションのホスピタルセクションで治療カプセルの中にいる。
どうしたかって?
ターナーの『プレゼント』が効いたのさ。
頼んだ『プレゼント』は……何のことはない。ただのウォータータンク。
低軌道ステーションにあった大型の補給用のタンク。
それにブースターを付けてアタシが乗っていた船の目の前で大気圏に突入させた。
突入した衝撃と高熱でタンクの中の水は蒸発。一時的に濃厚となった大気の御陰で……船は減速し、ついでに救助可能な軌道に乗ってくれた。
それだけ。
『プレゼント』が3個もあった御陰で……衝撃が凄く、船はバラバラになる寸前みたいだったけど……なんとか無事だった。
高温となった大気がプラズマ流となってブリッジに浸入しなかったのは……アタシの日頃の心掛けが良かった所為だろう。
兎に角、なんとか生き延びた。
でも……大気圏突入の衝撃と高温と、直後に宇宙空間に弾かれた後の低温に晒された御陰で……船のフレームは歪み、亀裂が走り……ブリッジも宇宙空間とハッチなしで行き来できる状態となってしまっていた。
気密服を着ていたアタシは助かったけど……横にいたハズのあのアンドロイドは気がついた時にはいなくなっていた。
……宇宙空間に放り出されてしまったのか。
生き延びたアタシは……アンドロイドを捜し、やがて諦めて退避ブロックで時を過ごした。
脱出用ポッド? そんなのは大気圏突入時の衝撃で何処かへ飛んで消えていたさ。
居住区域に備え付けられた退避ブロックは広く、それなりには快適だった。
大型船らしく10人近くが2週間程度は過ごせるだけの非常食と水もあった。非常用のエネルギー供給装置も生きていた。
でも酸素と水と食料は節約した。
いつ助けに来るのか。判らなかったからね。
孤独に耐え……気がつくとあのアンドロイドを探していた。
ドレスの切れ端ぐらい残って無いかと思って……ブリッジは数日おきに何度も探した。
何もなくて……亀裂から宇宙を眺め、部屋に戻る日々。
結果として……2ヶ月で助けは来た。
「それにしても……随分痩せたわね」
「なぁにちょっとダイエットが過ぎただけさ。で? ビデオレターって?」
カプセル横のモニターで再生されたのは……下の妹の姿。
可愛い赤ん坊を抱いている。
『ほら。姉さんと同じ髪の色。そっくりでしょ?』
やめてくれ。アタシはそんな可愛くはない。
『悪いけど……姉さんと同じ名前にしようと思っているの。いいでしょ?』
どうかな? こんなにアッチコッチに突っ走る姪っ子なんて……手がかかると思うぞ。
それに下手をしたら『地球の運命と……』なんてコトになってもアタシは知らない。
「で? どうするの? 姉さん。また船に乗るの?」
ビデオレターを再生し終わった妹が尋ねてきた。
そうさ。アタシは宇宙に生きる。
孤独が似合っているのさ。
「でも……あの時話していた相手って誰なの? ターナーさんが心配していたわよ。あの船にはエマージェンシーサポートアンドロイドなんて乗ってなかったって……」
ターナーのいうコトなんてアテにするな。
宇宙酔いする体質なのに低軌道ステーションで働くヤツなんてろくなヤツじゃない。
「それに……救助信号を発してくれたのって……誰なんでしょうね?」
「何の話?」
妹の話によると……船の状況からアタシが生きているとは思っていなかったらしい。
助けにはいけない距離でも船の状況は観察できる。観察の結果として救助する必要はないと思われていた時……正確にはターナーと御偉方が言い争っていた時に……救難信号が届いたのだという。
『船に生存者在り。救助願う』……と。
「それはきっと……」
アタシは言いかけて……不意に涙が溢れてきた。
「ん。何でもない」
あのアンドロイドだと言っても妹は納得しないだろう。
存在しないアンドロイドなんだから。
でも……そうだな。
自分の船を持ったら相棒としてアンドロイドを乗せよう。
アンティークっぽいフリフリの黒のドレスと黒のレースの日傘は……やめておこうか?
いや。洒落ていて可愛いかも知れない。
読んで頂いてありがとうございます。
「ラプラスの魔女」としては「続編」的な作となります。
キャラは「101人の瑠璃」の中から1人使ってます。
トンデモな物質名は、元々は「アコライト・ソフィア」の杖の材質として考えていたモノです。




