8月だけの、片思い ②
ご覧いただきありがとうございます。
本作は、実話をもとに再構成した「叩き上げ公務員」の半生を描くサクセスストーリーです。
学歴もコネもなく、定時制高校からスタートした主人公。
決して順風満帆ではなかった彼が、どのような葛藤や壁を乗り越え、霞ヶ関の本省、そして幹部へと駆け上がっていったのか。
実際の官僚機構や他省庁でのリアルな泥臭さ、そして人生後半での新たな挑戦までを丁寧に描いていきます。
働くすべての人、そして逆境から這い上がりたい人に届く作品になれば幸いです。
ぜひ最後までお付き合いください!
「川野くん、コンビニのお姉さんのところに行くぞ」
「吉田さん、手に持ってる紙は何ですか?」
「これ? うちの店の新聞折り込みチラシだよ。声をかけるって言ったって、いきなりナンパするわけないやろ」
浩一は、吉田の後について、いつものコンビニへと足を踏み入れた。
吉田はレジに立つアルバイト店員に爽やかに挨拶すると、ごく自然な手つきでチラシを渡し、「今度ぜひ食べに来てください」と店をアピールしてみせた。
「吉田さん、めちゃくちゃ自然でしたね」
店を出た後、浩一が感心して言うと、吉田は胸を張った。
「これで店と俺たちのPRがバッチリできたな」
「ですね」
「短大生の笹本敦子さんと、四大生の望月由美さんか」
「僕、笹本さんには、時々アイスをおまけしてもらってます」
「おまけって?」
「シングル頼んでるのに、たまにダブルにしてくれたり……」
「へぇ、ええなぁ!」
それから数日後の昼過ぎ。店のドアが開き、笹本敦子が姿を見せた。
「いらっしゃいませ!」
「来ちゃった」
「ありがとうございます! あ、今日、吉田さんは休みなんです」
「いいのいいの。いつもアイス買いに来てくれてるから、私も一度来ないとと思って」
敦子は笑顔でそう言うと、注文を済ませてテーブル席へついた。
「川野くんも一緒に食べようよ」
「僕は……まだバイト中ですから」
「店長ー! 川野くん、ちょっとお借りしていいですか?」
「いいよー。ちょうどランチタイム抜けて暇な時間だし」
奥から店長の軽い返事が飛んできた。
「ほら、店長のお許しも出たから座って。川野くんって、本当にアイス好きなんだね」
「まぁ……暑いですから」
本当は、彼女に会いに行く口実として毎日のようにアイスを買いに行っていたのだが、口が裂けても言えない。
「I高校に通ってるんだよね。学校、楽しい?」
「まぁまぁ、普通です。笹本さんは、神戸の短大生なんですか?」
「『敦っちゃん』でいいよ。3つお姉さんだけどね」
「……敦っちゃん。裏の駐車場に止めてある赤い車って、敦っちゃんの物ですか?」
「そうだよ。知ってる? ホンダのシティ」
「知ってます! いつもピカピカに磨いてあるなぁと思ってて」
「本当? ありがとう! ……ねぇ、川野くんって、すごく綺麗な澄んだ目をしてるね」
「えっ……そうですか? あんまり言われたことないです」
「それに、チェッカーズの藤井郁弥に似てるって言われない?」
「……時々言われます」
「私、郁弥大好きなんだよね」
ふいに顔を覗き込まれ、浩一の耳まで一気に熱くなった。
「あはは、なんで川野くんが赤くなってるの?」
悪戯っぽく笑う敦子との心地よい時間は、夢のようにあっという間に過ぎ去っていった。
ご覧いただきありがとうございました。
赤いホンダのシティに、チェッカーズの藤井郁弥。
年上の短大生に「目が綺麗だね」と覗き込まれて真っ赤になる15歳の浩一の姿は、どこか懐かしく、甘酸っぱい気持ちになります。
挫折や過酷な現実に揉まれながらも、こうした人との温かい出会いの中で少しずつ成長していく浩一。
ぜひ次回も温かく見守っていただけますと幸いです!




