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永遠の翼 〜変えられない運命に、祝福を〜  作者: 咲良 柚葉
第一章【円卓の騎士編】

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第五話:強き者の困惑

カグヤたちがこの世界に入ってから、数日が過ぎていた。今は王都に宿を取って、侵入者の痕跡を探している。だが、未だに侵入者の痕跡は発見出来ていない。


「この侵入者、何がしたいんだ?」


別世界に侵入しようとする連中は、当たり前だがやりたい事があって入ってくる。その為、侵入したらすぐにでも行動に移す者が圧倒的に多い。


「何かを待っているのかもな」


何か、とは何だろう。

ヒスイの言葉に、カグヤは円卓の騎士の物語を思い返してみる。だが、これと言って思い当たる出来事はない。この時期はまだ平和で、決定的な出来事は起こらないはずだった。

カグヤたちの目の前では、今日も稽古に励むランスロットと騎士たちが打ち合いをしている。

何事もない、ここ数日すっかり見慣れてしまった光景。

 


今日も何事もなく過ぎていくのかと思われた。だが、何かが起こるのは、いつも突然だ。

ガチャガチャと甲冑を鳴らしながら一人の騎士が走り込んでくる。


その瞬間、微かに空気が震えた──。

ほんの僅かな違和感。まるで、目に見えない何かがこの空間に触れたような。

 

カグヤは無言で空を見上げる。傾きかけた太陽と少しだけ色味が深くなった空。それ以外には何も無い。


「──ランスロット卿!」

「どうした?」

「山岳の砦に賊が現れ、交戦中との事です!」


突如走り込んできた騎士の報告を聞き、騎士たちが俄に騒がしくなる。ランスロットが話を聞いている間に、他の騎士たちは指示されるまでもなく出陣の準備を始める。常日頃から訓練された、統率された動きだ。


「出立の準備が整いました!」

「よし! 砦へ向かう!!」


副官の連れた馬に騎乗しながら、ランスロットは隊に向かって声を張り上げる。

ランスロットの掛け声に応え、騎士たちが一斉に動き出す。

騎士たちが統率の取れた動きで駈けていくのを、カグヤは無言のまま見送る。たぶん、大きな戦争に比べれば些細な今回のような小競り合いは少なからずあったのだろう。ただ、小さすぎて文献には残されていないだけ。


「────⋯⋯」

「カグヤ?」

「⋯⋯嫌な予感がする」

「──おまえの勘は良く当たるからな⋯⋯」


ヒスイの言葉にカグヤ自身も苦笑するしかない。本当にカグヤの勘はよく当たるのだ。

二人は頷き合うと同時に大地を蹴って駆け出した。




××××××××××




剣戟の音が至る所で響く。

普段なら、そこまで手こずることもなく制圧させられるはずの相手。それなのに、体が思うように動かない。先程まではいつも通りだった。


 ──ヒュン。


風を切る音が聞こえ、既のところで矢を叩き落したランスロットは、妙な違和感を感じていた。全身にまとわりつく様な何とも言えない不快感。それが動きを妨げる。いつもの流れるような動きが出来ない。

その時だった。


「──くっ!」


死角から飛んで来た矢を避ける事が出来ず、鎧の薄い繋ぎ目を狙い済ましたかのように抉られた。

常ならば避けられていたはずなのに。

疑問は尽きないが、今考え込んでいる余裕はない。好機とみたのか、畳み掛けるようにランスロットの頭上に矢が降り注ぐ。


────避けきれない。


そうランスロットが覚悟した時だった。

自らの横を駆け抜ける黒い影が二つ。その影は、降り注ぐ矢の悉くを叩き落とした。二人は自由に動き回っているのに、その動きが被ることもぶつかることもない。その動きはまるで舞を舞っているかのように優雅で、風のように鋭い。ランスロットは現状も忘れてその光景に見惚れた。


「──ランスロット!」


自分の名を呼ぶ声にハッと我に返った。

賊はあれだけの矢が叩き落とされるとは思っていなかったのだろう、呆然としている。

まさに、今が好機。

ランスロットは声を張り上げ、指示を飛ばす。その声で賊も我に返ったが、統率された騎士たちの敵では無い。あっという間に制圧されていく。

 

あれだけ重かった身体にまとわりつく違和感は、いつの間にか無くなっていた。

そして先程の二つの影も、いつの間にか居なくなっていた。


「賊を全て捕らえました!!」

「──よし! 城へ帰還する!」


数名の監視を残し、捕らえた賊と共に城へと帰還する。

怪我の治療を受けながら部下からの報告を聞き、警戒を強めるために警備の増強を図ることになった。


事後処理を終え、ランスロットはある場所へと向かっていた。本当は安静にしていなければならないのだが、どうしても会わなければいけない人物がいた。

 

先程一瞬だけ見えたあの影は、数日前に我が城下に訪れた旅人だという二人組。


彼らはこの城の近くにある湖が気に入っているらしく、よく湖のほとりにいることが多い。


「カグヤ」

「──ランスロット?」


湖のほとりに立ち、静かに水面を眺めていたカグヤが振り返る。

その瞳は何故ここにいるのだと問いかけているようだった。

 

「先程は助かった、礼を言う」


そう声をかけると、カグヤは一瞬だけ固まり、目を瞬かせた。


「⋯⋯⋯⋯なんのこと?」

「あれは、間違いなく君だった」


断言すれば、カグヤが観念したように深いため息をついて空を見上げた。


「⋯⋯⋯⋯見えてたんだ」

「素晴らしい剣技だった、私は君に命を救われた」

「⋯⋯大袈裟だよ」


カグヤはそう笑ったが、本当に終わったと思ったのだ。頭上に矢が降り注いできたのを見た瞬間、色々な顔が浮かんでは消えた。背中を預けて戦う騎士団の仲間たち、生涯仕えると決めた友であり主君である男の顔など。

だが、特にランスロットが驚いたのは、あの短い一瞬に過ったある強い想いだった。


「私は、いつ死んでも悔いは無いと思っていた」

「────」


ランスロットは、いつ死んでも悔いは無いと思って生きてきた。そう、思い込んでいた。

だが、あの時強く想ったのは──。


まだ死ねない。

死にたくない、だった。


「あの瞬間、死を覚悟した瞬間頭に浮かんだのは“生きたい”だったんだ」

「死にたくないと思うのは、人として当然じゃない?」

「────そう、なのかもしれないな⋯⋯だが私は、日々を悔いなく生きているつもりだった。生を全うして、自分が死ぬ時が来ても慌てないだろうと、そう思っていたのだ──それなのに⋯⋯」


今のランスロットの様子を一言で現すなら、困惑だろうか。

多分、彼にとっては初めて感じた感情なのだろう。だから、すぐには気持ちの折り合いがつけられずにいる。


今まで、彼は『忠義』に生きてきた。主君のために命を賭して戦って、戦いの中で死ぬのが当たり前だと思っていたのだろう。


「生きたいと思うことは、悪いことじゃないよ」


カグヤは、ランスロットが人らしい葛藤をみせたことが嬉しかった。初めて会った時から、彼は素晴らしい人間で、間違ったことを何一つしないような、清廉潔白な人にみえた。そう、振舞っているように感じた。

でも今は、とても人間らしい。


「戦いは死と隣り合わせ、それが怖くない人なんていないよ」


ランスロットは強すぎて、今まで危機らしい危機が訪れなかったのだろう。だから彼は、“恐怖”を分からなかったのかもしれない。それが今日、死を明確に感じて、初めて恐怖を知った。


「だが、それは弱さ⋯⋯ではないのか?」

「──違うよ」


キッパリと断言する。


「人の弱さを知らない強さは、きっと長くは続かない。人の弱さを知っている人が、本当に強い人なんだよ」


カグヤが振り返り、ランスロットを真っ直ぐ見つめる。


「あなたは強いよ、ランスロット。弱さを知って、まだまだ強くなる」


そう言い切る真っ直ぐな瞳は、しかし少しだけ悲しそうでもあった。

何故そんな眼をするのか、ランスロットには理解出来ない。だが、どうしても尋ねることが出来なかった。


「──君たちは、何者だ?」


 ふと零れた問い。


ただの旅人とは、到底思えない。

あの戦場での動き、そしてあの時感じた違和感。“何か”があの場を支配していた感覚。

カグヤが一瞬沈黙し、また口を開きかけた時。

別の声が響いた。


「旅人だよ」


声をかけられるまで、気配に気づかなかった。

その事実に、ランスロットは確信する。やはりあの時見た影の片割れが、ヒスイだったのだと。


「──ヒスイ」


木陰から現れたヒスイは、カグヤを護るようにランスロットの前に立つ。

ランスロットとヒスイの視線が交錯する。


「ただ勘の鋭いだけの、な」


軽い調子で投げかけられた言葉は、しかし少しだけ拒絶を含んでいた。

これ以上は深入りするな、ランスロットにはヒスイの視線がそう言っているように感じられた。

ランスロットはフッと息を吐く。二人と事を構えたい訳ではない。なので話題を変えた。


「今日の戦い、違和感があった」

「あぁ、誰かがあの場に“干渉”した」


ヒスイの言葉に、ランスロットの視線がスッと細く、鋭くなる。


「ただの賊ではない?」

「いや、あいつらはただの駒だろうな」


ヒスイの声は静かだが、確信を含んでいる。


「本命は、別にいる」


不意に強い風が三人の間を吹き抜け、水面の波紋を大きく広げる。


まるで、見えない何かがこの世界に介入しようとしているように。

カグヤは、空を見上げる。


「動き出したね」


その呟きは、誰かに向けたものではない。


平和なはずの時代。

記録にも残らない、小さな小競り合い。


だが、確実に──。

誰かが、この円卓の物語に“介入”しようとしている。


まだ誰も知らないところで、水面の波紋のように広がり始めていた。



 

自分なりの解釈で書いている部分があります⋯。

ご理解いただけると嬉しいですm(_ _)m

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