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永遠の翼 〜変えられない運命に、祝福を〜  作者: 咲良 柚葉
第二章【三国志編】

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第九話:楔

「やはり、来たか」


祈祷師がゆっくりと立ち上がり、振り返る。

その顔に驚きはない。声も静かだった。来ると確信していたのだろう。


「この前はどうも。わざわざ待っていてくれるとは、熱烈な歓迎だな」


ヒスイは軽口で応じる。


「一人だけか」

「オレ一人では不満か?」


ヒスイの飄々とした態度に、祈祷師の気配がほんの一瞬だけ乱れた。

苛立ったのを、瞬時に鎮めたのだろう。

やはり、この人物は挑発に乗ってこない。

 

「────まぁ、いい。何度来ても無駄なことだ」


祈祷師の手には、これ見よがしに箱が握られている。

まるで、精霊はこの中だと言わんばかり。

だが、あの中に精霊がいないことはヒスイにも分かった。

精霊の気配は分からないが、空間の歪みは分かる。


「精霊は────お前の後ろか」

 

ヒスイの言葉に、祈祷師がほんの僅かにピクりと反応する。どうやら、当たりのようだ。


「それが分かったからと言って、どうする事も出来ないだろう」


祈祷師が手に持った箱を投げ捨てた。

ガシャンという音と共に、箱はアッサリ壊れた。

中には、案の定何も無い。空っぽだった。


「────試す価値は、ある」


ヒスイは、一歩踏み出す。

一瞬で距離を詰め、祈祷師の背後に、振りかぶった拳を振り抜いた。

何の感触もない。


「────だから、無駄だと言っただろう」


祈祷師が不敵に笑う。

すでに勝ちを確信しているのだろうか。まだ戦いは始まったばかりだ。


「それは、どうかな────!」


今度は、拳に重力を纏わせる。

その拳を何もない空間に再度叩き込む。すると今度は手応えがあった。

そのまま拳に力を込めていくと、空間が歪む。


「⋯止せ!」


祈祷師の制止の声を無視し、拳を振り抜く。

その瞬間、()()()()()が入り、硝子のように砕け散った。

すると、先ほどまで洞窟だった場所が消え失せ、周りの風景が変わる。

結界で幻影を見せていたようだ。


「──見つけた」


そこには────結晶があった。

空中に浮かんだ結晶は、祈祷師の力で浮かんでいるのだろう。

微かに結晶が小刻みに震えている。

中に何かいる事は間違いない。


「見つけたところで、お前にこれは壊せない」


祈祷師はすでに平静を取り戻したらしい。

もう少し焦ってくれるとやりやすいのだが、残念ながらそうはいかない。


「────チッ」


結晶に向けて振り抜いた拳。

鈍い音が響く。


だが、壊すまではいかなかった。

小さな欠片が削れただけ。

剥がれ落ちた欠片の隙間が一瞬だけ光った、ように感じた。

だが、すぐに光は消えてしまう。


「────残念だったな」


祈祷師が、勝ちを確信してニヤリと笑う。

ヒスイが壊せないならば、ここにいる他の誰にも壊せないと同義。

勝ち誇りたくなる気持ちも分からなくは無い。


「その程度で壊れるものか」


長い時間をかけて準備したのだろう事が、その言葉から透けて見えた。


「⋯壊すつもりなんて、最初からねぇよ」


ヒスイは思わせぶりに笑ってみせる。

負け惜しみにも取れるが、それにしては余裕があり過ぎる。

祈祷師の眉がピクりと反応した。


「⋯⋯何?」


壊す気がないならば何のために攻撃したのだ。

ある考えに思い至り、祈祷師の顔が初めて崩れた。


「やっと気づいたか?」


その答えに辿り着いただろう祈祷師に、ヒスイが笑ってみせる。

 

「あれは、“開けるため”の一撃だ」


開けるため、“何を”と問うまでもない。

祈祷師の顔に初めて焦りが広がった。


「────今だ!」


ヒスイが空に向かって声をあげた。


それと同時に、何かに反応するように結晶が揺れる。


「鎮まれ⋯⋯」


祈祷師が結晶を見上げ、印を結ぶ。

だが、今度は一向に結晶が大人しくならない。


「何故⋯」


そして、唐突に理解した。

先ほどのヒスイの一撃は、壊すためのものではなかったのだと────。


「⋯まさか」


欠けた部分から光が漏れる。

祈祷師は思考に気を取られ、反応が一瞬遅れた。


四方に亀裂が走る。

小さな小さなヒビだったのに、あっという間にその面積が広がった。


そして────。


パリンという音と共に、結晶が割れた。

そこから、清涼な風が溢れ出す。


ヒスイの周りを一周回ってから、空の彼方へ飛んでいく。

向かう先は、一つしかない。


────呼ばれたのだろう。


お待たせしました!

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