第九話:破滅への布石
「さて、痕跡を探るか。二人は休んでろよ」
「⋯⋯いや、私は────くッ」
不意にランスロットの体が傾き、苦しげに胸を押さえて蹲る。
カグヤは優しく、背中をさすった。
「ゆっくり深呼吸して」
「───、────、─────ふぅ」
何度も深呼吸を繰り返し、ようやく呼吸が落ち着いた。
蹲っていた体勢から、ゆっくりと腰を下ろす。
「無理しないで、初めて祝福された武器を使ったんだから」
「⋯⋯⋯⋯すまない」
かく言うカグヤも消耗が激しいので、ヒスイの言葉に甘えて休ませてもらう。回復までには、あと少しだけ時間が必要だ。
「──君たちがいてくれて、助かった。私だけでは、あの獣を倒せなかった⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯」
あの魔獣は、侵入者が造り出して放ったものだ。
ランスロットたちだけでは、間違いなく闘えなかっただろう。
(侵入者は、あれで何をするつもりだった?)
先の砦戦が様子見だとしても、今回の魔獣は殺意が高い。騎士たちが死んでも構わなかった?
(いや、たぶん違う)
あれは、カグヤたち“監史者”へ差し向けられたもの。そう考えればしっくりくる。
侵入者は、カグヤたちが関与していることをすでに知っている。そして、ランスロットたちが危機に陥れば物語を守るために必ず助けることも。
(それじゃあ、今回の敵は────)
「カグヤ」
「見つけた?」
「あぁ⋯⋯」
カグヤは思考を一度中断する。
近づいてくるヒスイの表情が固い気がした。
「何かあった?」
「──いや、何でもない」
ヒスイは意味ありげにランスロットをチラリと見てから首を振る。
カグヤはそれ以上聞かなかった。
聞かずとも、ヒスイが言わんとしていることは伝わった。
「⋯⋯さて、体の調子はどう?」
「あぁ、問題ない」
ランスロットは何事も無かったかのように立ち上がった。先ほどフラついていたことなど無かったかのように。
でも、カグヤの目は誤魔化せない。
立ち上がる一瞬、少しだけ顔が引き攣ったのを見逃さなかった。
「油断は禁物」
「──分かっている」
少しだけ気まずそうに、ランスロットが呟く。
カグヤはそれを見て笑ってうなづいた。
そこに、先程の騎士──ガウェインが歩み寄る。
「ランスロット卿!」
「ガウェイン卿」
「くまなく捜索したが、同様の石は発見されなかった」
「──承知した」
「其方は?」
「問題ない」
報告を聞いて、ランスロットはホッと息をついた。
もうあの魔獣が出ないことが確認されて安心したのだろう。
カグヤは、すでにヒスイが探索して他の魔石がないことは把握済み。ヒスイの合流が遅れたのはそのためだ。
ガウェインがこちらをチラリと見る。
そろそろ潮時だろう。何か聞かれる前に退散した方が賢明だ。
「じゃあ、オレたちはそろそろ行くよ」
「またね」
「──あぁ」
ランスロットたちと別れ、少しだけ距離が離れると、カグヤがおもむろに口を開いた。
「それで、何が分かったの?」
「侵入者の向かう先」
「あの時言えばよかったのに」
「キャメロット城だ、なんて言えるわけないだろ」
ヒスイの言葉に、カグヤの動きが止まる。
キャメロット城──つまり、アーサー王がいる場所。
「狙いは、アーサー王?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
ヒスイは無言だったが、その顔は違うと言っていた。
侵入者が向かった場所はキャメロット城、そこに住まうのはアーサー王を筆頭に王家の人間。
もし侵入者の狙いがランスロットとするならば、アーサー王以外で関わりがあるとすると────。
「まさか⋯⋯」
「──たぶんな」
ランスロットが、道を踏み外す原因となる人物。
────王妃 グィネヴィア。
「行くぞ」
「うん」
つまり、あの魔獣は陽動。
あれだけのものを召喚しておいて、ただの捨て駒にするなんて。
カグヤには、侵入者の思考が理解出来なかった。
××××××××××
「ランスロット」
カグヤたちと別れ、ランスロットたちは城へ帰還した。
城へ戻ると、何故かアーサーが待ち構えていた。
「どうなさったのですか、このようなところで」
「お前を待っていた」
「私を?」
護衛を連れず歩きながら話すなど、何時ぶりだろうか。もう随分と、このようなことはなかった気がする。
「体は大丈夫か?」
「はい、問題ありません」
咄嗟にそう答えていた。本当は、体も心も疲弊していた。まだ本調子には程遠い。
だが、それをアーサーに言う訳にはいかない。戦えない臣下など意味が無い。
「あまり無茶をするな」
その言葉と鋭い視線を受け、アーサーにはバレバレだったことを悟った。
アーサーが護衛を連れていない理由は、こんな姿のランスロットを誰にも見せないため、だったのかもしれない。
「申し訳ございません」
ランスロットの素直な謝罪に、アーサーは一瞬だけ柔らかく笑った。それは、まだ友として隣にいたころによく見せていた懐かしい笑顔だった。
それからすぐに真剣な表情に戻る。
王としての顔に。
「今回の敵は、手強かったようだな?」
「はい」
「普通の武器では倒せなかったと聞いたが、今お前が持っている武器で倒したのか?」
報告を受けたのだろう。
アーサーは、事細かに知っていた。
ランスロットの武器が祝福されたと言うことも。
「一人では、倒せませんでした」
「────お前でも、無理だったのか?」
「⋯⋯⋯⋯はい」
あの獣は、恐ろしく強かった。祝福されていない状態で奴の爪を止めたとき、あまりの硬さに驚いた。その力にも。
あれを倒すのは、一人では無理だった。というよりも、騎士たちでは太刀打ち出来なかっただろう。
「その者たちに助けられたのだな」
ランスロットは、二度も助けられた。不思議な雰囲気を纏ったあの二人組に。
一度目は、死を覚悟した砦での戦い。
二度目は、先ほどの獣との戦い。
どちらも彼らがいなければ、生きてはいられなかっただろう。
「────えぇ、救われました」
「そうか」
それ以降、アーサーは何も言わなかった。
無言のまま歩き、アーサーの部屋まで歩いてきた。
「ここでよい、お前もゆっくり休め」
「はい」
アーサーと別れて歩き始めたが、ふと剣の柄に手を添えた。
剣が、呼んでいるような気がした。
何故そう思ったのかは分からない。だが、間違いないという確信があった。
「────カグヤ」
ランスロットは、剣の導くままに歩く。
徐々に、歩く速度が早くなる。
剣に急かされるように、ランスロットは走っていた。
アーサーとランスロットの会話は書いてて楽しかったです。




