ヨイショ放棄
あれから1週間が経過した。
クレハ嬢が王子とお茶会をしたそうで、その時の話をしてくれた。月に一回は必ず行われるもので、いちおうお茶会はちゃんと成されたらしい。ただ、クレハ嬢のほうが岩塩対応になったので王子は始終ずっと困惑していたとか。可哀想。
というのも、王子はクレハ嬢を見た瞬間に溜息をついたそうだ。明らかに「やれやれ」と義務感を漂わせていたらしい。これにはクレハ嬢もぶちギレ、口を閉ざしたそうだ。
「あの人は自分から話ができないのよ。今までのお茶会も、私が会話をリードしていたんだって気付いたわ」
「ああー」
「挨拶以外で話しかけないことにしたの。向こうも全然話さないから黙ってお茶を飲んだだけよ。あんなにつまらないお茶会は初めてだった」
接客業を叩き込んだ子達とクラブでお喋りしているのだ、そりゃあ王子との会話はつまらなかっただろう。あの子達だってただウェイウェイしてるわけじゃないのよ?
お客様に気に入られるよう身嗜みや美容には人一倍敏感だし、人を不快にさせないよう空気を読む力もある。頭の回転が速くて会話が盛り上がるようにしてるし、なにより褒めの圧が強い。
「自分がどれだけ身勝手なことをしているか理解していないから、罪悪感もないのよ。だから機嫌を取ろうともしないの」
「浮気すると逆に優しくなるムーヴがないんだ。ダメだこりゃ」
王子が特待生と距離を置いていたらクレハ嬢が大人の対応をしたのだろうけれど…彼は現在進行系で怒らせている最中だ。王子にキレているクレハ嬢は今までしてきたヨイショを放棄した。上げ膳据え膳だった王子がヨイショできるわけもない。
地獄のような時間が過ぎて、そろそろ帰る時間というときにやっと王子は口を開いた。
「最後の最後に『怒ってる?』って聞くものだから『何か心当たりがあるのでしょうか?』って聞き返してやったわ」
「殿下、それはあまりにも愚か…!」
女の「怒ってる?」は「悪いことしたと思うけど許せよな」という傲慢で、男の「怒ってる?」は「なんか知らんが機嫌直せよな」という怠慢…というのは持論である。真偽は知らない。
実際、女というのはホルモンバランスとかで勝手に機嫌が悪くなるので、彼氏にまったく非がないのに彼女が怒ることはよくあるのだ。今回は違うけど。
「この状態で自分は悪くないと思える殿下、図太さでてっぺん取るつもりですかね?」
「本当よ。私がクラブに通う前から再三注意したこと全部忘れてるんだわ」
殿下はァ、反省なんかしませェん!
これは『ママに叱られるのは嫌だ』と同義だ。悪いことをしたから罪悪感を抱いたのではなく、叱られるのが嫌だから反省したフリをしている子供みたいなもの。
クレハ嬢からすれば、さぞや腹が立つだろう。王子は自分の何処が悪いのか理解していないのだから。てか、そのムーヴって幼子だから許されるのであって中学生以上がやると痛いからな?年齢とともに痛さ二次関数上がりだからな?
「特待生が実は男の可能性とか…」
特待生が女装男子であって男同士の友情が成り立っている場合は咎められない。心が男だけど体が女の可能性もあるが…あんなブリブリの格好をしておいてソレはないだろうな。
特待生は装飾品から見てわかるほどの地雷女だよ。日本の地雷女はあんな分かりやすい格好してないのにな。
クレハ嬢ははんっと鼻で笑った。
「ないわよ。お忍びで来た他国の王族の可能性も調べたけれど何もなかったわ。これで陛下の隠し子なんて言われた日には、よほど後ろ暗い理由があるのだと邪推できるほどよ」
「経歴に怪しそうなとこ無かったんですね」
ゲームのヒロインだと、実は王族の隠し子みたいな設定があったりするのだけれど。クレハ嬢は先回りして調べていたらしい。その可能性は潰えたわけで、平民と仲良くする王子という揺るぎない事実ができるわけで。
マジで王子に庇う理由がないな?
「早くクラブに行きたいわ…」
うーん…。彼女を差し置いてオタサーの姫と遊びに行く男と、彼氏がいるけどホストに行く女ってどっちがマシなんでしょうね。後者はのめり込み具合にもよると思うけれど。
今回はまあ、私が手を回しているから王子が圧倒的に分が悪いんだけどね。悪い、じゃないですよ。分が悪いね。




