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7-2過去は襲いかかる

ミーナとアイリーンが去り、残されたギルバートは呆然と立ち尽くしていた。

あの邪悪にほくそ笑むアイリーンの顔を思い出して、ギルバートは頭を抱える。


「(…まさか、あの女がアイリーン・アダムスだったとは…!)」


クラスの男子たちがよく名前を出す女子生徒として、彼女の名前だけは知っていた。実際、ジャックたちに問い詰められていた時も、彼女の名前がよく挙がっていたから自分も出したのだ。

アイリーンと同じくらいガーベラの名前も挙がっていたが、彼女はミーナの古くからの友人のためギルバートは避けたのだ。それがまさか、いつから親しくしていたかはしらないが、アイリーンもミーナの友人だったとは。


「(…関わりのない人物に疎いとはいえ、迂闊すぎた…)」


ギルバートはそう後悔するが、あの時焦って嘘をついたことがそもそもの間違いなのである。

ギルバートは自分の落ち度に学校であることを忘れて呻きたくなる。がしかし、男としてなんとか背筋を伸ばして堪える。


「(冷静なってに今の状況を整理しよう。つまり今俺は、婚約者の友人に思いを寄せている、ということにミーナの中でなっているのか……)」


状況を整理したらさらに冷静でいられなくなった。ギルバートは発作が起こりそうになるが、またなんとか表面上は堪える。


「(しかもあのアイリーンとかいう女、俺…というよりも男を毛嫌いしていた。俺のついた嘘を逆手に取って、ミーナと俺を引き離すつもりだ…!)」


そもそも、アイリーンの名前を勝手に出した自分にもちろん非があるが、それにしたってあのアイリーンの邪悪さはなんとかならないだろうか、とギルバートは思う。


「(…問題は山積みだが、とにかくまずは、話の誤解を解きたい…)」


ギルバートは、アイリーン問題を一旦端に置き、前の跡取りのこと以外は用無し問題についてを何とかしようと決めて、とりあえずミーナと話せる機会はないかと考えた。













教室に戻ると、レーガが自分の席で頭を抱えていた。ギルバートが声をかけると、目を輝かせてレーガが見上げた。


「ギルバート、お願い、課題でどうしてもわからないところがあって…」


やり残した課題が他にもあるのにって思ったら焦っちゃって…、と眉を下げるレーガに、ギルバートはひどく同情してしまった。


「…わかるぞ、解決できない問題が積もれば積もるほど憂鬱になる…」

「あれ、どうしたのギルバート…」

「ああいや…、俺でよければ力になる」


ギルバートはそういうと、レーガの躓く部分の解説を始めた。



しばらく一緒に問題をたどれば、レーガはなんとか自分でできるところまで進められたようで、ありがとう、とギルバートに笑顔でお礼を言った。


「そうだこれ、よかったら。今日はフィナンシェを焼いたんだ」


って、ギルバートへのお礼にはならないけど、とレーガは苦笑いをしながら紙袋を差し出した。ありがとう、と言いながらそれを受け取ると、ギルバートは、あ、と声を漏らした。


「(…とりあえず、これを手土産にして、前の話の続きをするか…)…いや、ありがとう。知人…、が喜ぶよ」

「ううん、いつも助けてくれてありがとう」


レーガはそう柔らかく笑う。そんなレーガにつられて笑った後、放課後に必ずミーナを探し出して話をするぞ、とギルバートは決意した。













放課後、ギルバートは校舎内を歩いてミーナを探した。

よく中庭にいるから、そこにいないだろうかと向かっていると、前方からはアイリーンが歩いてくるのが見えた。

アイリーンは、あら、と声をもらすとこちらへ笑顔で向かってきた。ギルバートはあからさまに顔をしかめたあと、Uターンして彼女を避けるように歩き出した。しかし、駆け寄ってきたアイリーンに行く先を遮られてしまった。

ギルバートは怪訝な顔でアイリーンを見下ろすと、咳払いをした。


「…汚い男に何か用でも?」

「あら、いつミーナや周りの人が私たちを見て、2人の仲を勝手に類推してくれるかわからないじゃない」


そう言って微笑むアイリーンに、ギルバートは眉をひくひくさせる。


「…君はミーナの友人だと思っていたが?友人の婚約者と恋仲だという噂が立っても構わないとでも?」

「周りが勝手に噂する分にはどうでもいいわ。ミーナは、私が、あなたに何の気持ちもないと言えば信じてくれるから。そうしたら、ミーナの中で、友人の婚約者に執拗に思いを寄せる不誠実な男の完成ね」


ふふ、と微笑むアイリーンに、ギルバートは鳥肌が立つ。


「…君はミーナの友人だろ?婚約者が友人を好きだなんて思っていたら悩ませてしまうじゃないか。そこは構わないのか?」

「構わないわよ。男にミーナが泣かされるよりずっとマシ。そのうち、こんな男に負の感情も正の感情も、抱くこと自体無駄だって気がつくわ」

「なんで俺がミーナを泣かせる前提なんだよっ…!」

「…あなた、よく噂を聞くわよ。先週は下級生の女の子に、その前は上級生に呼び出されて、随分人気があるみたいじゃない」


アイリーンはそう言って冷たい目をギルバートに向ける。ギルバートは、…だったら何だよ、と言った。アイリーンは、ふんっ、と鼻で笑った。


「そういう女性関係が緩い男はね、いくつになっても、結婚したって変わらないのよ。ミーナは純粋で良い子なの。あんたに騙されて泣かされるに決まってる!」

「…ちょっと待て、なんで俺がとっかえひっかえ女性と交際している設定になってるんだ?」

「事実そうでしょう?」

「事実無根の全くのデタラメだ!そんな過去はない!俺は男だぞ?無闇矢鱈に女性と交流はしないし、そんなのはだらしのない軟派な奴のすることだ!」

「どうだか。そんな派手な見た目しておいて、そんな話通らないわよ」

「…俺の見た目は関係ないだろ…!」


ギルバートはぎりぎりと歯ぎしりをする。必死に訴えるギルバートをしばらく黙って見つめた後、アイリーンは、それじゃあ聞くけど、と言った。


「それならなぜ、私を好きだなんて嘘をついたの?」


アイリーンにそう聞かれてギルバートは言葉に詰まる。いっそ嘘だったと白状しようかと思ったが、アイリーン伝いに、自分が不誠実な嘘をついていたことがミーナにばれたら、と思うと言えず、ギルバートは、い、いや…、と否定した。


「おっ、俺は嘘はつかないぞ…ほ、本当に、す、すきだったん…だ…今は違うけど!」

「…私の顔と名前が一致しないのに?」

「……」

「…正直に言いなさいよ。私のことが好きだと言ってその気にさせて、周りからよく話題になる私にも手出ししようとして、軽い気持ちで言ったんでしょう」


他の人は知らないけど、私はそんな手に乗らないから!とアイリーンは怒る。しかしギルバートは、予想外の彼女の返しにあ然とする。


「なっ…ち、ちがう、仮にそうだとしても、そんなまどろっこしいこと誰がするか!」

「じゃあなによ、理由を言いなさいよ」

「………」

「………ほうら、図星なんじゃない」


詰んだ、とギルバートは思う。このまま、好きな人不誠実な嘘をついたという男らしくない行為を白日のもとに晒すか、この女の思惑通りに婚約者の友人に迫る見境のない男になるかの二択を今迫られている、とギルバートは察する。


「(どちらにしろ、ミーナに不誠実だと思われるのは避けられない…。どうしたら…)」

「…あっ、それもしかして…!」


アイリーンが、ギルバートの手にある紙袋を指さした。


「それもしかして、前と同じ人が作ったお菓子?」

「まあ…」

「食べたい!前に食べたお菓子がもう一度食べたくて、夢にまで出てきたの!!」


アイリーンは目を輝かせて紙袋を見つめる。ギルバートは眉をひそめて、断る、と言った。


「これはミーナに渡すやつだ」

「なによ、何個か入ってるんでしょ?1つくらいいいじゃない!」

「…俺を蹴落とそうとする奴に施しをやる馬鹿がどこにいるんだ」

「……」


アイリーンは恨めしそうにギルバートを睨んだあと、わかったわよ、とため息をついた。


「変な工作はしない。…これでいい?」

「…なら分けてやる」


ギルバートは、案外ちょろかったアイリーンに安堵しつつ、中身を数個彼女に渡した。アイリーンは目を輝かせて、わーい!と軽く飛び跳ねた。


「ありがとう、ギルバート!」

「…礼はいい。それより、わかってるんだろうな」

「何を?」

「はっ?」


アイリーンは、ふふん、と意地悪く目を細めると、ばいばい、と手を振って颯爽と去っていった。その背中に、あーっ!とギルバートは叫ぶ。


「(あいつ…!こんなの食い逃げじゃないか…っ!)」


ギルバートは握り拳に怒りの力を込めながら、なんでこんな厄介なやつと関わってしまったんだと頭を抱えた。








アイリーンから被害を受けつつ、ギルバートはなんとかミーナを探し出すことができた。

中庭のベンチに座り、静かに空を眺めるミーナの背中を見つめる。ミーナの姿を見つけて、ギルバートは安堵して、こんなところにいた、と声が漏れた。

声に反応したらしいミーナは少し体を揺らしたあと、ギルバートのほうを振り向いた。


「…ギルバート…」


相変わらず自分を見て不安そうな顔をするミーナに、ギルバートは傷つく。前まではいつも笑って迎え入れてくれていたのに。


「(…だめだ、現状を改善するために、ここから頑張るしかないんだ)」


ギルバートはそう意気込むと、ミーナに紙袋を渡した。ミーナは少し不思議そうな顔で紙袋を見つめた。


「…これ…」

「前の話の続きがしたくて、…時間あるか」


ギルバートは少しぎこちなく言ってしまった。前回の終わり方が終わり方だったから、どんな顔をしていいのかがわからなかったのだ。

案の定、ミーナは顔をこわばらせて目を伏せてしまった。

ミーナは何も言わずに紙袋の中身を見た。そして、目を少し丸くしたあと、不機嫌そうな顔をした。


「…ねえ、食べ物で釣ろうとしてるの?」


あんまり見たことのないミーナの顔に、ギルバートは意表を突かれる。ミーナは不満そうに唇を小さくとがらせて、中身を見ている。


「(…こういう顔もするんだ…可愛い…)…え?甘いもの好きだろ?」

「好きだけど…」


ミーナはそう言うと少しずつ頬を赤くした。ギルバートは、ミーナがなにに照れているのかわからずに困惑するが、それ以上に彼女が可愛くて頭が混乱する。


「(…いかん、そういう場合ではない)」


ギルバートは軽く咳払いをするとミーナの隣に座った。そして、食べないのか、と聞いた。


「…うん…」


ミーナは浮かない様子で答えた。そんなミーナに、ん?とギルバートは目を光らせる。


「まさか君、また減量を始めたのか?」 


彼女が以前、オリバーのために頑張っていたのを思い出して、トラウマのようにギルバートは怯える。しかしミーナは、えっ?と素っ頓狂な声を上げた。


「は、はじめてない、はじめてないよ…」


ミーナはそう答えると、紙袋からフィナンシェを取り出して、がぶりとかぶりついた。

食べるのをためらっていたと思ったら急に勢いよく食べ始めたミーナに、喉につまらないかギルバートは内心慌てる。しかし、おいしそうに咀嚼するミーナを見ていたら、ギルバートは気がついたら目元が緩んでいた。


「また例の友達にもらったの?」


ミーナは、口のなかのものを飲み込むと、そうギルバートに尋ねた。ギルバートは、ああ、と頷いた。


「宿題を見たら、お礼にとくれたんだ」

「その友達、あなたが甘いものを食べられないこと知らないの?」

「いいや」

「…でも相手はくれるし、あなたももらうの?」

「まあ」


ギルバートは、ミーナにあげるためにもらっているとは言い出せずに目線を景色に移す。

ミーナは不思議そうな顔をしていたけれど、すぐに、ふーん、と言うとまた一口フィナンシェをかじり、それ以上は追及しなかった。


ギルバートはそんなミーナを横目で見たあと、少し緊張した気持ちで息を吸った。そして、ミーナの方は見られずに前を見たまま彼女に話しかけた。


「俺は今日、前の話の続きがしたくて」


ギルバートは、話す内容を考えてきたはずなのに、いざ彼女を前にして、頭がうまく回らなかった。


「俺は別に、君に跡継ぎだけを期待しているとか、そういう話がしたかったわけではなくて…」


ギルバートはそう言いながら言葉を詰まらせる。


自分は彼女とどうなりたいのだろうか。

自分も彼女も、家のためにいつかは必ず結婚しなくてはならない。そう考えたときに、彼女には他に好きな人がいることは知っていたとしても、彼女が自分以外の誰かと結婚することが考えられなかった。

自分はどうしようもなく彼女が好きで、同じ熱量とまでは言わなくとも、彼女にもちゃんと自分を見てほしいのだ。


ギルバートは、真面目な顔でやっとミーナの目を見つめた。


「俺は君と、前向きに、普通に結婚がしたいんだ」

「…え…」


ミーナは、ギルバートを見つめて固まる。ギルバートは真剣な眼差しでミーナを見つめながら、いやどの口が言うんだ…、と自己嫌悪した。


「(…俺は嘘をついているのに…、全く男らしくない情けない嘘を……)」


ギルバートは、後ろめたさから息が詰まる。しかし、なんとかミーナの目を見つめて言葉を続ける。


「結婚が一体何をするものかと聞かれたら、よくわからない。家同士のものだと言ってしまえばそれまでだ。けれど俺は、君に、家のためだけに結婚したと投げやりになってほしくない。かといって、特別なことは何も望んでいない。普通の毎日をこれから君と一緒に生きていきたいんだ。君とだから、そう思えるんだ。だから、」


好きとは言わずとも、これは好きだと言っているのとどう違うのか、ギルバートは言いながらよくわからなくなってきた。


すると、ギルバートの言葉を遮るように、ミーナがギルバートの手を握った。柔らかな彼女の手が自分に触れて、ギルバートは心臓が止まりそうになる。ミーナは真剣な眼差しでギルバートを見つめる。


「わかった、あなたの気持ちはよく、よくわかった」


ミーナの覚悟を決めた言い方に、ギルバートは息を呑む。ひた隠しにしていた気持ちが、とうとう彼女に知られてしまったか、と頭が真っ白になる。

ギルバートは、彼女の名前をうわ言のようにつぶやきながら、厳格な父親の顔が脳裏に浮かんだ。


ーー男のくせに何をしているんだ。


低く、感情の起伏のない声が聞こえてきて、ギルバートを責め立てる。ギルバートは体を硬くして父親の叱咤を全身で受け止める。


ーーそれでも男か?それがコートネイ家の跡取りのすることか?情けない。お前みたいなのが息子では先代に顔向けできない。


幼い頃から何度も言われた言葉にギルバートは身体が硬くなる。ごめんなさい、ごめんなさい父さん、許してください、と泣いて謝る子供の頃の自分が、男のくせに泣くな、と父親に見放される。


優しかった母親を幼い頃に失って、厳格な父親と2人で暮らす中で、幼いギルバートには子どもらしく泣ける場所すらなかった。父親に叱責されたとき、思うようにいかなかったとき、ただじっと、いつか悲しみが薄れていくまで、誰もいない片隅でひとりぼっちで蹲ることしかできなかった。


そんな幼いギルバートに、幼いミーナが優しく微笑む。



ーー大丈夫だよ。だからこれ以上、1人で苦しまなくて良い。




「私はコートネイ家の嫁として努めは果たします。だからあなたは自由にしたらいいの。私はそれでいい。それでいいから」


ギルバートは、自分に微笑みかけるミーナを呆然と見つめる。ミーナはギルバートと目を合わせて今一度微笑むと、彼から手を離した。そして、ギルバートを置いて1人で歩き出した。


「…ミーナ…」


ギルバートは、見えなくなった彼女の名前を呼ぶ。

懐かしい過去の余韻に、胸が痛いほど苦しくなる。ギルバートは眉をひそめて、ミーナ…、とまた名前を繰り返す。


「…絶対、絶対に何もわかってない……」


ギルバートはそう確信すると、その場に膝から崩れ落ちた。



 









その日の夜、意気消沈しているギルバートのもとにユーリがやってきた。どうやら勉強を教えてほしいらしい。ユーリが生気のないギルバートに、何かあったの、と面倒くさそうに尋ねたので、ギルバートは、いや別に、と返した。



ギルバートは、ユーリの持ってきた問題を確認すると、解説を始めた。ユーリは、ふんふん、と聞きながら、途中、えっ、と声を漏らした。


「ここって、この式を使うんじゃないの?」

「それでも良いが、お前なら応用したものを使ったほうが速く解けるだろ」


ギルバートはそう言って解説を続ける。

ユーリは非常に成績優秀で頭がよく、努力家のため、ギルバートは彼に教えるとき、彼が1つ下の学年だということをわかりつつも、可能なところはその学年では習わないようなやり方で教えるようにしていた。


ユーリもユーリで、そうするギルバートの親切心をわかっているため、素直に知らないことを吸収しようとしていた。ユーリは勉強を教わる時だけ素直になるから、ギルバートは、普段からこれくらい素直ならもっと可愛いのに、と内心思っていた。


「うーん、なるほど。わかった、ありがとう」


ユーリは、ノートを何度も読み返しつつそうギルバートにお礼を言った。ギルバートは、礼を言われるほどじゃない、と返す。


「相変わらず熱心だな」

「前のテストが思ったほど点が取れなかったから、次は頑張らないと」


ユーリの言葉に、そういえばもうすぐ定期テストだったとギルバートは思いだす。


「点が取れなかったって、前回1位だったんだろ?あんまり自分に厳しくしすぎるなよ」

「僕はもらわれっこだから、普通の人より頑張らなくちゃいけないから」


そう、ユーリはそう、ごく普通のことのように言った。ギルバートは、一瞬黙り込む。


ミーナの母親は、ミーナを産むときに生死をさまよった。そのために、ミーナの両親は次の子どもを産むことは諦めて、男子がたくさんいる遠縁の親戚から、ユーリを養子として受け入れたのだ。


ギルバートは、ユーリの頭をわしゃわしゃと豪快に撫でた。ユーリは怪訝そうにギルバートを見上げると、その手を乱暴に払った。


「やめてよ、同情ならしなくて結構」

「同情なんか誰がするか。弟の頭を撫でて何が悪い」


ギルバートがそう言うと、気があまりにも早すぎる、とユーリは辛辣に言い放つ。ギルバートは、なんだ、と怪訝そうにつぶやく。


「家族になる相手に対してなんだその言い草は」

「家族?あのさ、ねえさまはワイアット家から出てコートネイ家に行くわけなんだから、…」


ユーリはそこまで言って一瞬表情を暗くした。ゆるく唇を噛むと、小さく息を吐いた。


「…ねえさまは…、家を出ていくから、だから僕とギルバートは、家族にはならないよ」

「家族だよ」


ギルバートはまたユーリの頭を軽く叩いた。そして、ユーリの方を見て小さく笑った。


「俺はお前の兄だ。可愛がってやるぞ、弟」

「……」


ユーリは、居心地悪そうに目を伏せて口をとがらせると、本当に気持ち悪いんだけど、と言い放った。

ギルバートは、悪かったな、と軽く笑うと、くしゃくしゃになったユーリのミルクティー色の髪を直した。













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