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6-2変われないのなら

ランチタイムにカフェテリアにて、ギルバートは激怒しながら昼食をかき込むジェームズを前に、彼に知られないように安堵のため息をついた。


「信じられない!なんて意志の弱い女なんだ!」


ジェームズは、なあ?とギルバートに同意を求めた。ギルバートは、え?と声を漏らしたあと、ああ…、と呟いた。


「仕方ないだろ。他人がとやかく言うことじゃない」


ギルバートはパンをちぎりながら、にやける口元を押さえてそう言う。そんなギルバートに目ざとく気がついたジェームズが怪訝な顔をした。


「お前、なんか喜んでないか?」

「は?」


ギルバートは動揺しながら、別に、ととぼけた。


あのパーティーの日、弟の前でだけ泣いていたミーナにギルバートはひどく動揺した。彼女の心に自分が入り込む隙間があるのかと不安になった。


しかし先ほど、いつものように食べるミーナを見て、彼女のなかでオリバーのためにしていた努力とやらの区切りがついたようで、ギルバートは非常に嬉しかった。

ぜひオリバーのことはあのパーティーで忘れていただいて、自分との結婚の方へ考えを切り替えてもらいたい、とギルバートは考えていた。


そんなことを目論むギルバートの向かい側で、ジェームズはまだぐちぐちと怒っていた。ギルバートはそんな彼に眉をひそめた。


「もういいだろ、そんなにお前が気にすることじゃないじゃないか。俺は別に彼女の体型を気にしたことがないから、お前がそこまで言うのが不思議でならん」


ギルバートはそうジェームズに言った。ギルバートはミーナのことを誰よりも可愛いと思っているため、ここまで彼女に不満をいうジェームズの気持ちがギルバートにはわからなかった。

ジェームズは、ギルバートの方をきっ、と睨んだ。


「気にしろ!あんなにだらしない体の女、お前と並んだときに釣り合わないぞ!周りだってお前たちの釣り合わなさに笑ってるんだ!俺は親友として、そんな状況が気に食わん!それと、普通に個人的にあの体型が気に食わん!」

「…それだって他人にとやかく言われることじゃないだろ。ミーナが気にしてなければ何も問題ない。…というか、いい加減人の婚約者のことを執拗に見るのをやめろ。俺は再三、見るなと言っているんだ!お前は雲が風に流されるのを眺めていればいいんだ…っ!」

「…お前、ああいうだらしない体の女が好きなのか?アイリーンが好きじゃないと弁明していたが、つまり彼女は細すぎてそういう対象として見られないと、そういうことなのか?」

「人を女性の体しか見てない男のように言うな!」


ギルバートはため息をついて、パンを口に運んだ。まだなにやら怒っているジェームズをよそに、ギルバートは、とにかくこれからが勝負だと意気込んだ。








ギルバートは、1人で教室を移動するために歩いていた。

すると、ジャックたちに囲まれるレーガを見かけた。ジャックはにやにやと笑いながら、小柄なレーガの頭を軽く押して遊んでいた。レーガは何も言えずにされるがままになっている。そんな様子を、ジャックの取り巻きたちが笑う。

ギルバートは、過去にこいつらがミーナにしてきた仕打ちを思い出して腸が煮えくり返る。

ギルバートは歩みを速めると、彼らの輪に入った。ジャックの取り巻きたちは、ギルバートの登場に笑うのをやめた。

ジャックはレーガから手を離すと、嫌な笑みを浮かべてギルバートの傍にやってきた。


「何か用か?ヒーローごっこでもしようって?」

「行くぞ、レーガ」


ギルバートはそう言ってレーガを呼んだ。レーガは、う、うん…、と言うとギルバートの傍に来た。ギルバートはレーガを連れてジャックたちのそばから離れた。ジャックはまだ何か言っていたが、ギルバートは耳に入れなかった。


レーガはギルバートの隣を歩きながら不安そうに眉を下げた。


「ありがとう、…でもジャック、怒ってないかな?」

「怒る?」

「ギルバートに助けられちゃったから、腹いせにまた僕になにかしそうって、思って…」

「…」


ギルバートは、昔から変わらないジャックに呆れる。ギルバートは、ならしばらく俺といたらいい、とレーガに言った。レーガは目を輝かせて、いいの…?と安堵の表情で言った。ギルバートは、もちろん、と当然のように頷いた。


「…そうだ、お礼に…」


レーガはそう言うとカバンから紙袋を取り出してギルバートに渡した。ギルバートは、お礼なんていい、と断わったが、気持ちだから!とレーガはギルバートに渡した。


「僕、お菓子作りが得意なんだ。よかったら食べてよ」

「お菓子…」


ギルバートはレーガの善意に困惑する。ギルバートは甘いものをほとんど食べられないのだ。かといって、レーガがくれたものを突き返すわけには行かない。

そんなことを考えたとき、ギルバートはミーナの顔が浮かんだ。


「(…そうだミーナ、彼女は甘いものが好きだ)」


ギルバートはそう閃くと、小さく微笑んだ。ダイエットも無事終わったみたいだし、これを渡したら喜ぶだろう。


「(それに、白い結婚について話し合わないといけないし、これを渡して話すきっかけをつくるか…)…ありがとう。でもすまない、俺は甘いものが食べられないんだ。だから、甘いものが好きな…知人、に渡してもいいかな」

「そうなんだ!喜んで食べてくれる人に渡してもらえたら僕はうれしいよ」


レーガはそう言って朗らかに笑った。ギルバートはそんなレーガを見て、ありがとう、とまた伝えた。









放課後、ギルバートはミーナを探した。すると、カフェテリアにて例の友人と勉強をしているミーナを見つけた。


「(…友人といるのなら、仕方がないか…)」


ギルバートは、お菓子だけ渡して、話は別の機会にしようと諦めてミーナに近づいた。

すると、ミーナよりもさきにミーナの友人と目が合った。友人の視線をたどったミーナと、ギルバートは目が合った。そして、あ…、と声を漏らすと、やたら他人行儀な態度で会釈をされた。


「(…なんだその、余所余所しい感じは…!)」


ギルバートは不服に思うが、顔には出さず、軽く咳払いをした。


「すぐ帰る。差し入れを持ってきただけだ」


ギルバートはそう早口で言った。そうしないと、ミーナに前のように逃げられる気がしたからだ。

ギルバートが紙袋を手渡すと、ミーナは両手で受け取り、ありがとう、と言って中身を開けた。そして、目を輝かせて、小さい感嘆の声を漏らした。見ているだけで、喜んでいるのがわかるミーナに、ギルバートは嬉しくてつられて笑いそうになる、がしかし、なんとか堪える。


「これ…」

「友人からもらった。2人で食べるといい」


ギルバートがミーナに言うと、えーっ!いいの?と興奮した様子の友人がギルバートの方を見たあと、すぐにミーナの手にある紙袋の中身をのぞいた。

ミーナはそんな友人に微笑むと、中に入っていたケーキを1つ渡した。

友人はケーキを受け取ると、ケーキの方を凝視しながら、ありがとうギルバート!と取ってつけたように言うとケーキを食べ始めた。

そんな友人を微笑ましそうに見るばかりで食べないミーナに、ギルバートは首をかしげる。


「…食べないのか?」


ギルバートはミーナに尋ねた。尋ねながら、まさか、やっぱりダイエットを続ける気では…という危機感がした。


「減量は終わったと聞いていたんだが…」


まさかやっぱりオリバーが…、と不安から焦り出すギルバート。しかしミーナは、え、ええ、う、うん、と言うとカップケーキを手に取って口元まで持っていった。


「頂くね」


ミーナはそう言うとぱくりとケーキを一口食べた。丸い目をさらに丸くして、おいしい…、としみじみ言うミーナ。そんなミーナが可愛くて、ギルバートは心臓を掴まれる。


「(…結局、普段のこういう姿が一番可愛い…)」


ギルバートはそうしみじみ思う。ドレス姿ももちろん可愛い。けれど、日常の姿だって可愛い。


「(…いや、甲乙つけられない…。難しい、どちらが良いかと言われると困る…それはすぐには判断できない…)」

「ねえ、あなたは食べたの?」


ミーナの友人がそうギルバートに尋ねた。ギルバートは、はっとしたあと、いや、と頭を振った。


「俺は甘いものは食べない」

「ええっ?!そんな変な人存在するんだ…」


ミーナの友人は不可解なものを見るような目でギルバートを見た。ギルバートは怪訝そうに彼女を見返す。

ミーナの友人はケーキを頬張り、なるほどねー、と言った。


「だからそんなに細いのね」

「え?」


ギルバートは彼女の言葉にきょとんとする。ミーナの友人はそんなギルバートにきょとんとする。


「何を不思議そうにしているの?」

「いや…細い?俺が?」

「細いわよ。…自覚ないの?」


ミーナの友人は、何を言っているのかわからない、という顔をする。

ギルバートは、ショックから周りの音がどんどん遠くなるのを感じる。


「(…細い…俺は…細いのか……)」










ギルバートは部屋に戻ると、ソファーに座っていたレーガにお菓子のお礼を言った。レーガは、ううん、と微笑んだ。


「食べた人、喜んでくれてた?」

「ああ、喜ぶを通り越して感動していた」

「わあ、嬉しい」


レーガは照れたようにはにかんだ。そんなレーガを見つめたあと、ギルバートは、1つ良いか、と真剣な顔で尋ねた。レーガは、なあに?と首を傾げた。


「…俺は、細いのか?」

「え?」


レーガはきょとんとしたあと、うん、と頷いた。


「すごくスマートだと思うよ。顔が小さくて、手足が長くって、背が高くてすっごくスタイルがいいよ!顔もすっごくかっこいいし!」


手放しに褒めてくれるレーガの声が、今のギルバートには届かなかった。

ギルバートは無心で自分の胸や腰回りを触る。


「(これは細いのか…?自分ではわからん、が、どうやら細いらしい…)」


ギルバートは自分の体を確認したあと、悔しそうにベッドに倒れ込んだ。レーガは、えっ!大丈夫?!と慌てた。ギルバートはベッドに顔を埋めながらシーツを強く握りしめた。


「(そもそも、オリバーは背が高くて体格がいい。ミーナはそういう男が好きなのかもしれない…!)」


ギルバートは無念さから歯を食いしばる。あのパーティーの日に体格のいいオリバーと並んだ貧弱な自分を想像して、それを見てミーナがどう思っていたか想像するだけで悔しかった。


「(トレーニングをして体を大きくするしかないか…。身長は勝てないにしろ、自分にもできることがある…!)」


ギルバートはベッドから顔を上げると、ベッドに座って腕を組み考え込み、体形改善することを決めた。ミーナにオリバーのことを一日でも早く忘れてもらうためにも、白い結婚の撤回をしてもらうためにも、自分を変えよう、とギルバートは決意をした。









こうして、ギルバートのトレーニングは始まった。普段から体は鍛えていたけれど、体を大きくしようとすることは初めてだったので、ジェームズに教えを仰いだ。すると、ジェームズは、えっ!と仰天した。


「お前が…か?」

「…何か文句でもあるか?」

「いや、筋肉仲間が増えるのは喜ばしいんだが…、お前には無理だと思うぞ」

「なっ、なんでだよ」

「食が細いから」


ジェームズに指摘され、ギルバートは言葉に詰まる。そうは言ったもののジェームズは、まあ教えてやるから、と快くギルバートへの指導を引き受けてくれた。

そのため、ギルバートはジェームズに教えてもらった通りのトレーニングを始めた。









増量トレーニングと並行して、ギルバートは、ミーナと話すチャンスを伺っていた。

しかし明らかに、ミーナは自分を避けていた。ギルバートはミーナの様子に不可解な気持ちになる。自分と婚約してから明らかに彼女の様子がおかしい。


しかしなんとか、ギルバートは逃げようとするミーナに無理矢理、話す約束を取り付けることがてきた










ギルバートは中庭でミーナを待っていた。すると、不安げなミーナがやってきた。


「お、お待たせしました…」

「いや、いま来たところだ」


ギルバートは、それなりの時間待っていたがそう答えた。そして、ミーナに座るよう促して、彼女の隣に自分も座った。

ギルバートは、で、話なんだが…、と話し始めたが、隣で体を硬くして座るミーナに、また不可解な気持ちになる。

もともと、彼女はこんなふうではなかった。もっと朗らかで、いつも笑っていた。自分と婚約が決まってからだ、こんなふうになってしまったのは。そんなに自分との結婚が嫌なのか、オリバーが良いのか、と考えるとギルバートは痛いほどの胸騒ぎが起きた。

ギルバートはそれを取り払うように軽く咳払いをした。


「…の前に、なんなんだ最近の君は」

「え?」

「露骨に俺を避けている。…俺が君に何かしたか?」


ギルバートはじっとミーナを見つめた。ミーナはギルバートの方は見ずにとぼけるように首をかしげる。


「そうかなあ、そんなつもりなかったんだけど…」


はぐらかす彼女に、ギルバートはむっとする。いっそ嫌なら嫌と言ってくれたらいい、とすら思った。

…がしかしすぐに、ミーナにそんなことを面と面向かって言われたらしばらく立ち直れない、とギルバートは思い直し、やっぱりやめてください、と心の中で懇願した。


「…いいや避けている。婚約者に対してする態度じゃない」


ギルバートはそうミーナに言い放った。もう2人は決められた婚約者同士であることを強調して、ミーナに意識付けようとした。

しかしミーナは、明らかにむっとした顔になった。ギルバートは、彼女が怒るのをあまり見たことがなくて少し動揺した。


「べつに、婚約者だからといって、格別に親しくする必要はないと思う。ましてや私たち、形だけの結婚になる予定なのに」


ミーナにそう言い返されて、ギルバートは言葉に詰まる。しかしくじけず、ギルバートはミーナを見つめる。


「そ、それを俺は認めていないと言っている!」

「私別に、ギルバートとちゃんと結婚生活を送りたいとか、そんなこと望まないから。あなただって好きにしたらいいのよ。そのほうがお互い楽だから」


ミーナの言葉が、ギルバートの心臓をぶっ刺した。これは立ち直れない、とギルバートは確信する。


「(お、俺と結婚生活を、お、送る気がない…?!せっかくミーナと結婚できたのに形だけ…?それでミーナは俺以外の男と…?あ、ありえない、そんなこと断じて許されない…!お互い楽?!俺は完全に地獄だ!!)」


ギルバートはなんとか意識を立て直し、軽く咳払いをした。


「…結婚はな、家同士がするものだ。俺たちだけの問題じゃない。安易に白い結婚だと言うけれど、それは果たして家族に対して誠実だろうか?」


ギルバートはなんとか言い返すことができた。前から家族の面から説得しようと決めていたのだ、とギルバートは思い出す。

ギルバートの読み通り、ミーナは家族ということに、表情を曇らせる。


「(…ここで、畳み込む…!)」


ギルバートはミーナの前で片膝をつくと、ミーナを見つめた。深刻な表情のミーナを見て、ギルバートは胸が痛む。

別に脅したいとか、傷つけたいわけじゃない。ただギルバートは、ミーナと普通の結婚がしたいだけなのだ。それなのに、好きな相手にこんな顔をさせて男のくせに何をやっているんだ、とギルバートは心のなかで歯を食いしばる。


「…卒業したら俺たちは結婚するんだ。君の気持ちもわかるけれど、白い結婚なんかに逃げないで、家のためにもその事実に向き合ってくれないか」


ギルバートはそう言いながら、嘘をついている自分が向き合うとかよく相手に言えたものだと後ろめたくなる。

でもとにかく今は、ミーナをなんとか説得したかったのだ。


するとミーナは、はっと息を呑んで、口元に手を当てた。ミーナは深呼吸を繰り返して、苦しそうにしている。

ギルバートは少し心配そうにミーナを見つめた。覗き込んだ彼女の瞳は、苦しそうに揺れていた。


「…ミーナ?」

「…わかった、大丈夫、大丈夫よ。家のこと、そうよ当然よ。大丈夫。後継ぎのことはきちんと考えるから。だから何も問題ない。大丈夫。私のことは気にしないで」


ミーナはそう言うと立ち上がり、その場を逃げるように去ってしまった。

ギルバートは、彼女を追いかける力がなく、そのままベンチに額を思い切りぶつけながら顔を伏せた。


「(…違う…違う違う…!)」


ギルバートは伝わらないもどかしさにのた打ち回りたくてたまらなくなる。後継ぎが欲しいだけとかそういう話ではない。ただミーナが好きで、だから普通に結婚生活を送りたいだけなのだ。

ギルバートはベンチに顔を伏せたまま動けずにしばらく固まっていた。


「(…なぜ…なぜだ……)」


ギルバートはそう頭を悩ませる。すると、どこからか視線を感じた。顔を上げると、ミーナの友人が冷めた目でギルバートを見下ろしていた。


「…」

「…」


一瞬彼女と目を合わせたあと、ギルバートは何事もなかったかのように立ち上がると、失敬、と言いその場を立ち去ろうとした。

すると、ミーナの友人が、ねえ、とギルバートを呼び止めた。


「あなた、ミーナが好きなわけ?」


ミーナの友人は、赤い瞳でギルバートを見据えた。ギルバートは、そんな彼女を鼻で笑った。


「そんなわけないだろ。俺は男だ。恋愛にうつつは抜かさないし、興味がない」

「でも子作りはすると」

「なっ…!」

「好きでもないけど、子作りはできるわけね」


ギルバートは無遠慮な彼女の言い方に言葉を詰まらせた。


「ひっ、人を変態みたいに言うな!」

「なら、ミーナのことは好きじゃないから手を出さないわけね。結婚したとしても」

「………」

「………」


ミーナの友人が軽蔑の目をギルバートに向ける。

彼女に反論しようとしたギルバートだけれど、弁明すればするほど自分が不利になると気が付き黙り込んだ。


「(…というか、別に俺はそういことばかり考えているわけではなく!そういことは日々の愛情の延長線上にあるべきであって、そもそも俺はその前段階にすら立たせてもらってないわけで…!)」

「…汚らわしい。男なんてみんな下心しかない獣よ」


ミーナの友人はそう低い声で吐き捨てた。ギルバートは、え、と声を漏らす。ミーナの友人は鋭い眼光でギルバートを射抜いた。


「あんたみたいな汚い男、ミーナに指一本触れさせないから」


ミーナの友人は、そうギルバートに威嚇すると、その場を去った。ギルバートはその背中を見つめながら、これまで自分の手を触ったりしてきた女と同一人物なのかと動揺した。










その翌日、ギルバートはなんとか昨日の話ができないかとミーナを探した、

すると、あっ、と誰かに声をかけられた。振り向くと、ミーナの友人がいた。昨日のことがあったので、ギルバートは露骨に顔をしかめた。


「…君か。まだ俺になにか?」

「ええ、用があるわ」


ミーナの友人はにっこりと微笑んだ。ギルバートは気味が悪くて顔をしかめる。このミーナの友人はどうやら自分を敵対視しているようだし、ここは早めに撤退しようと、ギルバートは歩き出そうとした。

突然ミーナの友人は、あっ、ミーナ!と手を振った。すると、向こう側から歩いてきていたミーナがこちらに気がついたように目を丸くした。


「(…ミーナ…)」


ギルバートは、1秒でも早く彼女と話がしたかったけれど、この厄介な友人がいてはできないと苦虫を噛み潰したような気持ちになる。

ミーナは友人の方へ、どこか申し訳なさそうな顔でやってきた。


「なんだか私、邪魔じゃないかしら…」


ミーナはなにに遠慮しているのかそんなことを言う。ギルバートが不思議そうにしていると、そんなわけないわ、と友人がミーナの方へ行く。ミーナはギルバートと友人を交互に見て、いいの?と友人に尋ねた。


「ギルバートと話があったんじゃないの、アイリーン」


ミーナがそう友人に話しかけるのを聞いて、ギルバートは固まる。そして、アイリーンと呼ばれた友人をギルバートは見た。


「……アイリーン・アダムス……」


ギルバートは震える唇でその名前を紡いだ。アイリーンは挑発するような目線をギルバートに送ると、ミーナの腕にしがみついた。


「いいのよミーナ、早くいきましょう」

「えっ、でも…」

「ギルバートに急に話しかけられて、私、怖かったの…」


そう甘えた声を出すアイリーン。ミーナは、えっ、と声を漏らして目を丸くする。アイリーンは、はやくいこ、とミーナの腕を引いてさっさと歩いていく。

ギルバートは2人の背中を見つめながら、呆然と立ち尽くす。しばらく固まったあと、自分とミーナを引き離したそうだったアイリーンが、ギルバートに言い寄られて困っている、という設定をミーナに吹き込む気だというのを察した。


ギルバートはアイリーンの魂胆に気が付き歯を食いしばる。と同時に、咄嗟に名前を出した相手がとんでもない人物だった自分の運のなさに頭を抱えた。




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