第9話:神殿からの召集
朝。
パン屋「白麦亭」は、半分焦げたまま煙を上げていた。
床は煤だらけ、天井は黒く焼け、リクの髪も少しチリチリしている。
リク:「……昨日の火事、幻覚じゃなかったんだな」
ミナがパンを握りしめて頷く。
ミナ:「でも!奇跡の炎によってパンは守られました!」
リク:「一部燃えたよね!?窯ふたつ死んだよね!?」
そこへ新聞配達の少年が駆けてきた。
『今朝の号外です!』と渡された紙にはこう書かれていた。
> 《勇者リク、聖炎を操りパンを守る!神の奇跡再び!》
《炎すらパンの味方にした男と称賛の声》
リク:「いやおかしいだろ!?パンが神域入りしてる!?」
そんな中――ゴウン、ゴウン、と街道を馬車が近づいてきた。
白い旗。金の紋章。神殿騎士団だ。
馬車から降り立ったのは、銀の鎧に純白のマントを纏った女騎士。
鋭い緑の瞳、黒かを高く結った姿。
セラフィナ:「王都大神殿直属、第三神殿騎士団隊長、セラフィナ・ルクレール。勇者リク殿に召喚命令を伝えに参上した」
リクはパンくずだらけの格好で返した。
リク:「えっと……朝食中なんだけど」
ミナが前へ一歩出る。
ミナ:「勇者様は今、クロワッサンを焼くので忙しいです!帰ってください!」
リク:「門前で退かせるなよ!?国家権力だよ!?」
だがセラフィナは眉ひとつ動かさず、召喚状を読み上げた。
> 《勇者リク。神殿最高会議の決定により、あなたには神前にての証明を受けていただきます。拒否権はありません》
リク:「証明って、何を?」
セラフィナ:「あなたが真の勇者か、ただの噂か、です」
ミナ:「ただの噂じゃありません!もっとややこしい被害者です!」
リク:「フォローになってないから!」
その空気を破るように――
パン屋の看板の上に、ノアがいつの間にか座っていた。
ノア:『……決まったようですね。神はそろそろ、勇者リクに問いを与えます』
セラフィナ:「観測者ノア、お前も動いていたか」
リク:「問いって何だよ」
ノアは静かにリクを見る。
ノア:『あなたが何を救いたいのか。
人か、国か、パンか。
――自分自身か』
風が止まる。パン屋の煙突から、かすかな灰が舞った。
リクはぼそっと呟いた。
リク:「……パン以外の選択肢、重くない?」
ミナ:「パンは平和の象徴です!」
リク:「お前はちょっと黙れ!」
――こうして、勇者リクはパン粉だらけのまま、神殿へ向かうことになった。
世界はまたひとつ、勝手に物語を進めていく。




