第10話:勇者、神殿で検定される
王都・大神殿。
白い塔と石畳の階段の前で、リクはパン粉だらけの服装のまま立ち尽くしていた。
リク:「……やっぱ帰っていいかな」
ミナが胸を張る。
ミナ:「ダメです!神殿さんが呼んでるんですから!」
隣で神殿騎士団長セラフィナが冷たい声で告げた。
セラフィナ:「静かに。ここより先は神域。ふざけた態度は許されません」
リクは小声でぼやく。
リク:「黒髪ポニテ怖い……目も緑で鋭いし……」
セラフィナ:「聞こえています」
リク:「すみませんでした!!」
石造りの廊下を抜け、巨大な丸天井の部屋に通された。
床には淡く光る魔法陣、水晶柱、祈る神官たちの列。
セラフィナが中央に立つ。
セラフィナ:「これより、魔力検定を行います」
リク:「……魔力検定ってなに?」
ミナ:「私も気になります!」
セラフィナはわずかに眉を動かし、淡々と説明した。
セラフィナ:「魔力検定とは――
人が魔法を扱えるかどうか、その適性と数値を測定するための神殿の公式儀式です。
内容は三つに分かれます。
1. 魔力量測定
体内に流れる魔力の総量を測る。多ければ多いほど高度な魔法が扱える。
2. 属性・術式適性の検査
火・水・風・土・雷・光・闇など、どの属性に魔力が共鳴しやすいかを判定する。
同時に魔法陣の構築など、術式処理能力があるかも測る。
3. 精霊干渉値の算出
精霊と契約・交信する可能性を測る項目。
普通の人間は精霊との干渉値はほぼゼロ。
精霊使い・巫女・伝承の賢者など、一部だけが高い数値を示す。
合格すれば、魔法士の資格が与えられ、神殿・王都・騎士団で魔法を正式に使えるようになる。
……以上です」
リク:「へえ……意外とちゃんとしてるんだな」
ミナ:「私、これ受けたことありません!」
セラフィナ:「あなたは不法に魔法を使っています」
ミナ:「す、すみません!」
神官がリクを促した。
神官:「勇者リク殿。水晶柱に手を置き、意識を集中してください。怒っていても構いません」
リク:「怒り前提なんだねもう……」
リクが手を置く――
魔法陣が淡く光り、水晶の中に数字が浮かんだ。
> 【魔力量:非常に低い】
【術式適性:ゼロ】
【属性:該当なし】
神官たちがざわつき始めたそのとき――
> 【精霊干渉値:測定不能(上限突破)】
【※警告:器の形が人間規格から逸脱】
パンッ!
水晶の横に、おっさん精霊たちが出現。
髭、煙草、肩にタオル、木製ジョッキ。完全に休憩所。
『おーい勇者!呼んだか!?』
『昼寝してたのに、飯か?火使うか?』
『まずは契約だろ?酒とつまみ用意しろよ?』
リク:「なんで精霊全員おっさんなんだよ!!」
ミナ:「……勇者様、誰と話しているんですか?」
リク:「誰って、この目の前に居る小さなおっさんだけど!?」
ミナ:「勇者様、小さなおじさんが見えるのは子供の頃だけですよ」
ミナは目を潤ませて哀れそうにリクの方に手を置いた。
リク:「え、みんなこのおっさん達見えないの?」
神官:「まさか、そなた精霊が見えるのか!?いや、そんなまさか……」
セラフィナ:「今まで精霊が見えた人間など1人も存在しない。巫女や精霊使いだってどんなに優秀でも声が聞こえるまでのはず……他の結果は神殿の歴史で、最悪の適性結果だし到底信じるなどできません」
その時、ノアが柱の影から静かに姿を現した。
銀の髪が光に揺れ、灰青の瞳だけがすべてを見透かすように。
『――勇者リク。あなたの魔法は、
術式による魔法ではありません。
精霊との交渉による魔法。』
リク:「交渉ってつまり……お願い?」
『お願い。時に説得。時に取引。時に土下座です』
「俺だけ魔法が社会人スキル求められてる!!」
ノアは続けた。
『神はこれを試練と呼ぶでしょう。
あなたに問うのです。――何を救いたいのか、と』
リクは苦笑しながら呟いた。
「まずはパン屋の窯かな……」
そして。
パンと神と精霊と――勇者の物語は、次の段階へ進み始める。




