今マイダス
〈夏風邪に桃缶冷やす甘露かな 涙次〉
【ⅰ】
テオ「兄貴、『人狼は銀、アンドロイドは金』つて知つてます?」カンテラ「朝から謎かけかい?」‐「金の彈丸でなら、アンドロイドを仕留められるつて、魔界ぢや専らの噂らしいつスよ」‐「噂は噂だな。事實無根だよ」‐「やつぱデマか。何処かにデマゴーグがゐる譯だ」‐「まあ、對ピストルを想定した稽古は、牧野相手に付けてゐる。心配は要らないよ」
【ⅱ】
とは云へ、さうなつて來るとその「デマゴーグ」とやらが誰、何処のどいつなのか知りたくなるのは人情であらう。カンテラ、「シュー・シャイン」を魔界に派遣し、調べさせた。「だうやら『金無垢』と云ふのが噂の出どころらしいですね」‐「『金無垢』? 聞かぬ名だが」‐「所謂『ニュー・タイプ』ですね。魔界の金商人。兎に角金づくめの【魔】です」‐「金の彈丸で俺を狙はせて、金の賣り上げをアップしやうつて事なのかな?」
【ⅲ】
もつと踏み込んだ調査、は涙坐に任せるしかない。涙坐は、客(の【魔】)の振りをして、「金無垢」に接近した。「あんたも金の彈丸ですか」‐「さうよ。カンテラには怨みがあるの」‐「一つでいゝんですか」‐「一つあれば用は足りるわ」‐「5萬圓、です」(案外、零細な商賣なんだな)他の【魔】に訊くと、魔界は金本位制ではないので、金を賣つて食つて行くのは大變だと云ふ。(ぢや何故金に拘るのかしら...)
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〈黑ミサを名乘るバンドの再結成クルスを下げて何を思ふか 平手みき〉
【ⅳ】
危険を承知で、更に一歩、涙坐は踏み込んだ。「『金無垢』さんの秘密を教へてくれたら、お禮は彈むわよ」‐「だう彈む?」‐「それはね、うふゝ」‐涙坐は精一杯の悩殺光線を發射した(彼女はさう云ふキャラではない)。段々スパイらしくなつて來た彼女、的を射た回答を得た。「奴は今マイダス王なのさ。触つた物が全て金になつちまふ。特殊な手袋をして、その症状を抑へてはゐるが」‐「あら、ありがと。ぢやね」‐「あ、あ、お禮!」涙坐、投げキッス迄で、後はさらりと躱し、人間界に戻つて來た‐
【ⅴ】
カンテラに魔界のヒットマンたちが殺到した。カンテラはその第一彈を、わざと(急處を外して、だが)その身で受けた。「アンドロイドには金の...」なるデマを否定する為である。脇腹にちと疼痛がしたが、「はつは、俺は金の彈丸ぐらいぢや死なん」‐【魔】の敵陣、総崩れ、である。
【ⅵ】
さて、「金無垢」だ。だがそのカンテラを、じろさんが止めた。「ピンチヒッター、此井功二郎、脊番号02」‐「私闘だよ。惡いよ」‐「水臭へなあ。金尾くんが『プロジェクト』に当たつたんだが、カネ、下りるつてよ」じろさん、「金無垢」の手袋を剥ぎ取り、拐帯して帰つて來た... 流石に触れたもの全てが金を化したのでは、【魔】と云へど、生きてゆけまい。
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〈兜蟲子らの腕の汗ミネラル摂る 涙次〉
つー譯で、今マイダス・「金無垢」は退治られた。カンテラの傷は安保さんの手当てゞ、程なくして治つた。仲間つていゝもんですね。ぢやまた。