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異世界恋愛+α(短編)

横柄婚約者の命令でヒールを演じていた私。望外の幸せを手に入れる事が出来ました。

作者: いのりん

本作が読者様の心をフォールできますように

 北風が吹き、窓の外には風花が舞っています。


 冷えた心で悪役の仮面を被った私は、手に持ったワイングラスの中身をお相手にぶちまけした。


 そして、台本通りこう言い放ちます。



「おっほっほ、よくおにあいよ!」


 我ながら酷い台詞です。



「きゃあ!ひ、ひどい……」

「なんて事をするんだ!大丈夫かいズルダ!」


「きー、わたしというものがいながら、その小娘をかばうのね!」


 うう、周囲の視線が痛い……

 何でこんなことをしているかと言うと、先日、婚約者であるワルコン第二王子陣営から、ある注文をされたからです。




「悪役令嬢になれ……ですか?」

「そうだ!」




 本日まで私、ルーダ・ルチャリブレのこなしてきた役割は二つ。

 『後継ぎレース敗北者への残念賞トロフィー』、そして『荒れる婚約者ワルコン様がやらかす数々の狼藉への尻拭い』でした。


 そう、私は家格のさほど高くない伯爵令嬢でありながら王族の婚約者に抜擢されたのです。

 しかしそれは、三人の王子による後継者争いで、第一王子アックスがほぼ勝ち確となった折に、ワルコン様陣営が『降参します』の意を示すため、家格の低い者を婚約者に欲したため……


 だったのですが、なんとその後、第一王子が人倫にもとる不正をしていたことが判明。

 即位前に失脚、幽閉となりました。


 それで、第三王子のリンピオ様と次期王座を争っている現在、家格の低い私が婚約者というのがワルコン様陣営のネックとなりました。それで婚約者を侯爵令嬢のズルダ様に変更したくなった模様。


 しかし、王子の都合で婚約破棄だと外聞が悪い。だからお前が悪役になり、破棄されるのもやむなしという空気を作れと……実に勝手なものですね。



 しかし、父が恭順の意思を示した以上、私もこう答えるしかありません。



「はい、わかりました」




 プラスに考えるなら、この人と結婚せずに済むのはありがたいですしね。

 しかし......ワルコン様がズルダ様と結婚すれば、後ろ盾の強さの差からおそらくこの人が国王になってしまいますか。


 少々お若くても、お人柄がよく有能なリンピオ王子が国王になればこの国の将来は安泰でしょう。でも、このワルコンが次期国王だと……大丈夫でしょうか、この国の未来。





「わあ!ルーダさまがまた来てくれた!」

「いつも御支援をありがとうございます」


 本日は、昔からの習慣、孤児院ボランティアです。

 最近行く回数が増えました。

 この時間が大きな癒しになっているからです。


 社交界で悪役の仮面をかぶり始めてもう2月になります。

 慣れない役を演じ、侮蔑の視線を向けられるのはストレスです。

 でも、ワルコン様陣営との取り決めで、貴族の友人達にお芝居をしていることを明かすことはできません。



 その点、政争と関係ない孤児院であれば、ありのままの自分でいられますし、子供達や院長さんの好意的な視線は荒んだ心を癒してくれます。


 この時期は常に雪積のある王都ですが、ここにいる間だけは心に温かいものを感じる事ができます。


 と、そこで普段見かけない方がいました。私より少し年配の体格の良い美丈夫で身綺麗な格好をしています。

 しかし、社交界ではお見かけしたことない方ですね。商人さんでしょうか?




「ごきげんよう。私はルーダと申します」



 とりあえずこちらからご挨拶。身分はこちらが上であっても、年長者には敬意を払わねば。


「ああ、これはどうもはじめまして。私はアントニオと申します。あの......貴女はルチャリブレ伯爵令嬢ですよね?初対面と思いますが、なぜそちらからご挨拶を?」


「ボランティア中に権力なんて関係ないですしね。見たところ商人様か何かの様にお見受けしますが、今日はどんなご用件で?」


「……父が、この孤児院の出身でして。今は仕事がら遠い土地に住んでいますが、所用で王都に来たもので一度ボランティアに訪れてとみようと思ったのです。」


 それから、二人でボランティアに励みながらお話をしました。アントニオさんはとても聡明で、優しい、紳士的な方でした。きっとやり手の商人さんなのでしょうね。





「鎮魂祭で婚約破棄を宣言……」

「そうだ、民衆に俺が正義のワルコン様だと印象づける良い機会だからな!」


 かつて国のために戦って下さった戦没者の皆様のための式典でそれは、流石に不謹慎すぎませんか?


「うるさいわね!次期国王に逆らう気!」

「そうだそうだ、ズルダの言う通りだぞ!」


 あ、不満が声に出ていましたか。

 しかしこんなのが将来の国王夫妻…?はぁ。


「ああ、そうだ。婚約破棄を宣言した後、サクラを依頼している孤児院のガキ達が雪玉を投げてくるけど、避けるんじゃないぞ!」

「え〜初耳!それ、私だったら恥ずかしくて、もう外あるけないですよキャハハ」

「大丈夫大丈夫、先日、父上とコイツの父親の間で、婚約破棄成立後すぐにボンバイエ辺境伯の息子と結婚させるのが決まったから。どうせ王都からはサヨウナラ!」

「えー、その家の現当主って社交界に全然出てこない、平民出身の粗野な乱暴ものじゃないですかー」



 はっ?えっ?!



 ボンバイエ辺境伯のご子息と結婚!?



 えらく急な決定ですね?

 当時者の私、初耳なんですが……


 父親も孤児院の皆んなも、権力者に逆らえないのはわかりますが、ちょっと裏切られた気分。悲しいです……





 王子達はああ言っていましたが、ボンバイエ辺境伯家は、魔境に隣接した領地をおさめ日々魔物の脅威から国を守護してくれている武家の名門であり、国防の要です。


 実力主義のお家で、現当主は戦で数々の武功を立てた功績で婿入りした元英雄。

 国防に忙しく社交の場には殆ど参列できないものの、ご子息もまた勇猛な武人だと聞いたことがあります。


 だからこそ、婚約破棄された悪役令嬢を下賜される様な形になり、申し訳ないと思います。国王様だってボンバイエ家には恩があるでしょうに......全く、この国はこれでいいんでしょうか?


 思わず大雪で鎮魂祭が中止になればいいのにと願ってしまいました。

 でもそれは戦没者さまに不謹慎でしたね。


 そのせいか、本日は晴天。

 絶好の婚約破棄日和となってしまいました。







「ルーダ・ルチャリブレ!貴様との婚約を破棄する!」


 ああ、本当にやりましたよワルコン。

 その後、公衆の面前でダラダラと私の罪状を読み上げます。一段高く設置され、四方から見られるステージの上でこの扱い、まったくとんだ見せ物ですね。



 この恥知らず。

 悪人め。

 

 そんな言葉が周囲から上がりはじめます。

 ああ、サクラだとわかっていても、心にきますね…



 と、そのタイミングで、台本通り雪玉が飛んできて直撃しました。







 王子の顔面に





 ぶはぁ。


 と呻き声をあげて鼻を押さえる王子。



 それを皮切りに、孤児院の子供達から次々と雪玉が投げ込まれます……が、私の周囲には一つも来ず、ワルコン様やズルダ様にばかり当たります。ズルダ様は悲鳴をあげていますね。





 いやいやいや?!

 貴方達何やっているんですか!


 流石にコントロールミスとか言い訳できませんよ!?



 しかし、どういったわけか王子を守る衛兵達も、庇ったり止めようとしたりしません。



 流れが変わったのはわかりますが……いったいこれはどう言うことでしょうか?




「だ、だが、慈悲として、ぶべ!…新しい縁を用意してやる!ボンバイエ辺境伯の、うぉ、令息、アントニオと結婚せよ!痛っ!」


 何かおかしいと思ったのは王子も同じようで、雪玉をくらいつつ台本を前倒しして話を纏めに入りました。あれ?そう言えばアントニオって何処かできいたような……



 と、そこで



「今の言葉、確かに拝命しました。今後ルーダは私が守り、必ず幸せにして見せます。」


 堂々とした声が響き、見た事のある美丈夫が壇上に上がってこられました。

 そのまま私のそばに来て囁きます。



「どうも、孤児院でお会いして以来ですね」




 その後のことを少しお話します。


 私を守ると言って登壇したアントニオ様は、その直後にワルコン様陣営の仕込んでいたやらせの全容を、公衆の面前で暴露しました。

 すると、大人達もワルコン様達を標的に雪玉を投げはじめる事態に!


 中には泥や石が混じった、けっこうえげつない物もあった様で、ワルコン様は鼻血を流し、ズルダ様は泥でぐちょぐちょになって……


 あれは実にひどかった。

 私だったら恥ずかしくて、もう外あるけないですよ。




 そして、全てが終わった後、アントニオ様が『リンピオ第三王子とも共謀して、あの日サクラも衛兵も全てこちら陣営に引き込んでいた』、『結婚話は、実はボンバイエ家から王家に打診したものだったんだ』と教えて下さいました。



 実は、父も降爵覚悟でいろいろと動いてくれていたらしく、国王様も結婚を二つ返事で了承して下さったとのこと。


 また、絶大な影響をもちつつも政治からは距離を置いていたボンバイエ家が第三王子の後盾についたことで、次期国王はリンピオ様に確定しました。






 あの日からまた少し時がたちました。

 諸々の手続きと引越しに追われた慌ただしさも終わり、今はアントニオ伯爵夫人として辺境領に住んでいます。


 ようやく、夫婦ゆっくりと、過日を振り返りつつ、日当たりのよい部屋で楽しくお茶をする余裕なんかもできました。



「あの日孤児院で働く君を見てね、風の噂で聞いていた話とは随分違うなって思ったんだ。それで、父の大ファンでもある国王様や国の重鎮達から裏事情を教えてもらったりしてね。」


「そうだったんですね、助けて下さり、改めてありがとうございました。でも、結婚までして頂いて申し訳ないです……せめてこれからの仕事ぶりでお役に立たせて下さいませ。」


「いやいや、義憤に駆られたのはその通りだけど、君と結婚したいと思ったのは、それが主な理由ではないよ。」


 へっ?と疑問の声を出した私に、にっこり笑ってアントニオ様は言います。


 初対面時、身分に関係なく礼儀正しく挨拶してきたのが好印象だったこと。

 悪役の仮面を外してボランティアに励んでいた時の私が、とても魅力的だったこと。

 過日、ワルコン様の愚行の後始末に奔走する私を見ていた聡明な貴族達が、演技を見抜き密かに私を支持してくれていたこと。



「我が家は王都に中々顔がだせず、粗野な乱暴者と思われている節もあるようだからね。君みたいな、優しくて周囲から好かれている結婚相手がいてくれて、むしろこっちが助かったんだ。王都の民や他の貴族との友好的な関係をつくる機会を、君がもたらしてくれた。」


「そういって頂けてありがたいですが……買い被りすぎではないですか?」


「ちなみに、場が乱れたあとで王子達にえげつない雪玉を投げていたのは、元々君の事を好ましく思っており、演技を見抜いて義憤に駆られていた貴族達だったようだね」


「そうなんですか?!」



 ははは、と笑うアントニオさまに釣られて、私も笑ってしまいました。



 今は温かい昼下がり。

 

 辺境領は王都よりも温暖な気候で、花が咲き鳥が歌う、とても暮らしやすい土地でした。当主さまもご健在、騎士団の皆様も精強で治安の良さも素晴らしい所です。





 強く、聡明で、優しい旦那様が守って下さるこの地ではもう、悪役の仮面をつける必要はありません。

 ヒール役はもう引退、これからは新妻としての幸せな生活が待っています。


 ふと窓の外をみると、春風に吹かれたハート形の花弁がひらひらと舞っていました。

ご拝読ありがとうございました。よろしければ、本作キャスト達への評価、感想など頂けますと幸いです。


また、下に転移魔法陣(リンク)張っており、そのまま別世界(壁に耳あり正直メアリー)に飛べます。本作が楽しめた方におすすめの作品です。

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― 新着の感想 ―
悪役と書いてヒールと読むし、ルチャリブレやボンバイエってプロレスやんけ! どうせなら王子を痛めつけるシーンにフライングクロスチョップやダイビングボディアタックを入れてもよかったとは思いますね。
最初に読んだときに、「アントニオ猪木のテーマ」が頭の中を巡り、内容が入ってきませんでした笑 その中で出てきた「ボンバイエ」 そして、あとがきの「転移魔法陣」 さすがでした!! メアリーちゃんも、…
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