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桜色・迷い道  作者: ゆほ
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桜の想い

先週、営業が客と花見をするから一緒に来ないかと言われた。


なるべく義妹の亜美つぐみが就寝してから帰宅したかったので、その誘いに乗った。


桜はほとんど咲いてなく寒い中外で酒を飲んているような状態だったから早めのお開きとなった。何人かは2次会へと流れて行ったようだったが、俺はそれには行かなかった。


駅のホームで電車を待っているとメールの着信があったことに気付いた。亜美からだった。



「クラスの男子から告白された。気になってる人がいるからと断ろうとしたら、その人と付き合っているわけじゃないなら試しに自分と付き合って欲しいと言われた。どうしたらいい?」



「ザル」もしくは「枠」と呼ばれるほど酒に強い俺なのに、このメールを読んだ時は二日酔いの状態で騒音の中に立っているような感覚に陥った。


亜美は「相談」をしてきた。だからここは「お兄ちゃん」として答えた方がいいだろうと思った。だがそう思って返信を打とうとするとその指が動かなくなる。


「お兄ちゃん」としてなら、「本気でも試しで付き合えないと言って、気になる人とやらにアタックしろ!」と言えばいいのかもしれないが、恐らく100%確実に亜美の気になる人は「俺」なのだ。


そして亜美は俺が亜美を意識していたことを気付いている。自分が気づいてしまったことで俺が亜美との距離を保とうとしていることに傷ついている。




あの日まで亜美は俺の「妹」だった。8歳差だったのが良かったのだろう。忙しい親父や母さんの代わりのようなこともしてやった。おやつなんか作ってやると本当に喜んでくれた。調子に乗ってプリンに挑戦したときは失敗したが、それでも二人で笑って食べた。宿題もみた。風呂にも入れた。雷が怖いと言ったときは添い寝もした。


突然できた「妹」だったけど、兄妹としては全く問題ない日々だった。



母子家庭時代、保育所に預けられていた亜美はよく絵を描いて母さんを待っていらしい。初めて見せられた絵は、絵のことが良く分からない俺にも子供が描くには少しもの寂しいと感じさせる作品だった。ところが親父がその繊細な仕上がりに「才能があるかもしれない」とはしゃぎ出して、新しい生活が始まったばかりだというのに亜美を造形教室に入れた。


そこに通い出してから、そして忙しさは以前と全く変わらない両親と、兄が揃った生活が始まった亜美の絵は次第に明るく活発なものに変っていった。


色々な技術も習得したのだろう、なにより絵を描くことが好きだったのだ、去年亜美は美術大学付属の高校に入学した。




卒業・入学まであと1ヶ月という頃、出来上がった制服を亜美が着て見せてくれた。


その姿をみて俺は動揺した。


偶然だが亜美の制服の配色が俺の母校とほぼ同じだったのだ。エンブレムやリボンの形なんかは違うが、亜美を見ているとまるで好きになった同級生が目の前にいるような感じがして心臓が激しく動いた。



最初は亜美は見覚えのある制服を着ているせいだと思った。でも違った。次の日から亜美を見るたびに同じような感覚に陥った。


そうだ。


俺は亜美を好きなんだ。



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