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監視誘導付きお散歩

高めの建物に囲まれた大通りに面するカフェから四人が歩き始めて十分程、風はやや強くなり、空には暗い雲の割合が増えてきた。

雨が降っているわけではない為か人通りが減ることはない。


ただ建物の上や一階に並ぶ店舗等からも視線を感じる。監視の目は増え続けていく。


「お兄様。一つお聞きしたいのですがよろしいでしょうか?」

「心当たりはありませんよ。基本的に都市では品行方正で通ってますので。」

「素晴らしい心がけです。しかしながら聞きたいのは都市への侵入経路です。どんな検問所にしても村出身であれば身分証明書が無いので入れないはずです。昨日確認したのですが、この十年で私の把握している裏ルートも全て潰されており、お二人のお力添え頂ければと思いまして。」


そっちか~。と目を細くする兄は少しの間を空けずに返事をする。


「勿論新しい経路が開拓されてます。僕らみたいな壁外生まれは逞しいですからね。」

「そうですか。そのルートを使用した方が向こうも対策がやり辛いと思われます。ご案内お願いできますか?」

「それは今後の通行者のためにお断りしたいですね。入り辛くなってしまいますから。」


「それは…大変申し訳ありませんでした。ただ、この追跡者。私に心当たりがございます。」


本当に面倒くさそうな気持ちが言葉に詰まったウィリアムは続ける。ほんのり溜め息を添えて


「先程の老人を覚えていますか? 恐らくは彼の差し金でございましょう。」

「誰なんですか? 昔の仕事仲間って言ってましたけど?」


アンの質問にメアリーがニヒルを笑い答える。


「騎士時代に所属ていた団体のオーナーさんですよ~。私も会ったことあるんですけど、とっっっっても嫌いなんです~。」


こぶしこぶし。と三人の心が一つになる。隠せぬ怒りを右手に込めるメアリーは愚痴がこぼれる。


「さっきも偶々遭遇してしまいましたが、まさか改めてウィリアムさんをスカウトするとは思いませんでした。なんなんでしょうね? 図々しいにも程がある。」

「おおう…お兄ちゃん。メアリーさんが何言ってるのか私わからない。」

「ああ、大丈夫。僕もわからないから」


困り顔で頭を左右に降りながらウィリアムは二人の疑問に答える


「彼は辻風磨(つじふうま)、メアリーの言った通り昔の上司です。彼の都合で私は競技者を辞めたのですが、十年たって復帰を持ちかけられました。「もう一度私の所に来ないか? お前にとっても良い話だ」と。彼の実力や年齢的にも私たちの求める未来には到達できないと判断し、話は聞かなかったのです。約束の時間でもありましたし。


まさかこの様な行動をしてくるとは思いもしませんでした。彼は私のいない十年もこの街居た、地理的優位は彼方にございます。ご兄妹の新神奈川への侵入ルートを参考に逃走を図りたかったのです。先ほどの提案、大変失礼いたしました。」


怒りで文句を垂れ続けるメアリーは、大通りから飲食店などで賑わう道へと入る。

その後もメアリーに付き従いくねくねと道を変えながら歩く。その足取りに迷いはない。


「だとしても、撒くってレベルの人数じゃないんですけど…なんか百人くらいいそう。道も人海戦術で誘導されてるし先回り何て言葉も可愛いくらい。もはや予知。」

「そうでございますね。私が去った後の団体がどうなったかは把握しておりませんが、未だこの規模の人を動かすことができるとは。こう…なんといいますか。経営に難ありという形で私を再勧誘と予想でしたが…」


「…お兄ちゃん。私達だけ別れて、外で合流すればいいんじゃない?」

「…それは一緒に歩いてる僕らが無事に都市を離れたらの話ね。このまま着いていった方が僕らの力を見せれそうじゃない?」


まだそんなこと言ってるのか。アンは口には出さなかったが不満垂れたれの顔である。

そんな表情見向きもせず兄は、先程の事を思い出す。散れた頭とだいぶ曲がった腰。その割にはすれ違った際の顔の高さは同じ。元はかなり身長があったのだろう。右足を引き摺るのにも拘らず、かなり太めの重量がありそうな杖を使う老人。

服装は黒を基調とした高級そうなスーツ。かなり使い込まれた物ではあるが、手入れを怠らず着ているのが一目で解る。新しいのを買う余裕がないのか。それともそれだけ大事なものか。


「どうやら彼が連れていきたい場所は私が既知としている場所のようですし、少し時間がかかります。彼の可能性も含めて少し昔話をしましょう」


メアリーの後に続く中、ウィリアムはざっくり自分の過去と相手の情報を兄妹達に話した。メアリーに拾われた後、数年の修行を経て当時無名の無流派団体·原石(オリジン)へ加入。件の追跡の首謀者であろう。辻に世話になったという。そこで年に一度の大会を三連覇し、とある理由で団体から離脱。その後のやり取りは一切なし。


過去の新しい物好きの性格からは考えられない風貌に、再勧誘の理由を金銭面や団体の復活と予想。能力面でも首謀者と予想でき、元競技者である辻の可能性は風。そのコントロールは凄まじく、風を操り索敵から、音を風に乗せて運ぶことで遠くの者との対話が可能。情報統制に長け、正に現在四人の行くルートを狭めて誘導する手口は十八番だと話す。


「ふむ…自信過剰でしたね。動員されているコネクション数には驚かされます。未だ発言権あるのですね。」

「凡その相手は知れてるのは僕らも理解しましたが、結果どう対処されます? 正直逃げるも可能性的に、倒すも騒ぎを聞き付けた公務員的に難しそうなんですが…」

「新規ルートでの逃走を諦めるのであれば相手の出方を伺うのが一番でしょう。どうしても話しをしたいと見受けます。」


めんどくさそう。ウィリアムの横顔を見た兄妹の考えは的中。その顔を見ながらアンが続けて


「平行線の問答、その最後は想像するのも簡単です。」

「アン様の考えは正しいです。近くにかなり流れの早く深い川があります。最終手段は逃走ですね…武力制圧の方が簡単だと思いますが。話くらいは聞いてみましょう。」


その時、周りの気配が大きく変化。ルートを絞るように配置されていた視線や気配が次々と減っていく。最低限の人数を残し先へと移動しているようだ。

メアリーもウィリアムも歩みを止める様子はない。どうやら目的地はもう目と鼻の先らしい。


通行人が減った道を一つ曲がる。現れたのは大きな川、その並びに少し古ぼけたサーカステントを連想させる建物が見えた。ズラリと大小様々な剣をもつ百人を越える競技者。身の丈程の長さと太さを持つ大剣、美しい波紋を持つ刀、二対一刀の短剣。刃物の見本市と言って差し支えない。その先頭には昼間に間違えなくすれ違った老人、辻風磨の姿がある。


「ここは?」

「私が参加していた団体のホームです。この場は大通りからの視線も切れますし、戦闘が起きても演習として話がつきます。この都市の公務員達の心配もないでしょう。演習等で爆発音にも慣れてますし。」


なるほど、と口に出した兄妹は納得し周りを見る。テントと建物は離れ、広いスペースがある。五階建ての背の高いアパートが、兄妹と夫婦の四人と団体様を人の目からしっかりと隠し、彼らを見下ろすのは入道雲だけ。アパートには不自然なほど人気がない。

この都市にしたことの無い二人には知る由もないが、アパート群の住人は殆どが競技者。現在四人を囲む者達も多く住む。アパートに住んでいてもバイトや別の団体へ出張訓練に出ている。


先頭の辻から二百メートル程手前で止まると、わらわらと更に五十人ほどが逃げ道を塞ぐ様に四人の背後に増える。槍、鎖鎌、モーニングスターと毛色の違う団体だ。騎士って何だっけ。と兄は口に出しかけていた。

まるで人数を意に介さず、ウィリアムが先に声をかけた。


「さて、辻さん。先程と返事は変わりませんが、ここまでされるのであればお話はお聞きします。」

「それは助かる。話し合いで終われば、私の方も無茶をしないで済む。」

「私も急いでおりますので、早速ですが用件をどうぞ。」


その言葉に辻だけが四人の前まで歩いてくる。


「永遠の命と永遠の若さ。両方を手に入れる方法がもう目の前にあるんだ。」


この言葉に四人は最早呆れ顔である。不老になる方法は確立されていない。しかし、死を恐れるというのは今も変わらず、こういった詐欺はなくなることはない。ましてや不死はあり得ないとされている。

目指す行為事態バカにすることはないが、辻の口から出てきた「方法」やら「目の前」何て言葉はこの上無く信用に値しない。


昔の上司が詐欺に合い。ここまで耄碌していることに悲しみを覚えたウィリアムは言葉が漏れる。


「命ならまだしも若さまでとは…」

「あ! いや! ボケているわけではなく! あるお方の力をお借りするんだ!」

「すいません。本当に先を急いでいまして、その話はまた20年後とかに帰ってくるかもしれないときにお願いします。」


聞く価値無しと判断直後、踵を返し来た道を帰ろうとするウィリアムの腕を辻が慌てて掴む。


「私の条件がウィリアムを連れてくることなのだよ!」

「なぜ私なんですか。お断りします。時間を割いて向かう余裕はございません。」


断るウィリアムが振り替えると同時に、バコンと非常に鈍い音がする。その音は拳が何かを殴った音には聞こえない。最早何かの爆発音に近い。再度振り返って見た光景は、辻がかなりの勢いで二百メートル後方へと吹き飛ぶ所だった。やたらと重い杖を狙ってメアリーが殴り飛ばしたのだ。

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