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移動洋館オシリス

兄弟が新東京を離れて五日。新神奈川はその日曇り、夕方と言うこともあり時間よりも暗い印象を受ける。

この中継都市は発掘物の新幹線を走らせるだけの駅ではない。現在ではメジャーな催し、剣術の聖地として知られる。

スポーツ全般に言えるのだが、《可能性》で身体能力に差が大きくある現代では、かなり細分化されておりこれが大人気!と言うのがあまり無い。更に、拳銃などの飛び道具が対象物に殆ど当たらない、ダメージになりづらいと散々な評価を受けており。近接武器の中でも刀や剣等の武道が盛んである。人気の催しの中でも新神奈川は大きな会場で日々研鑽が重ねられていた。


活気に溢れかえる新神奈川の北西に百キロ。そこには森を引き裂くような巨大な川がある。さながらユーコン川を彷彿とさせる奥多摩湖から流れる川。その川を越えた位置に三階建てのフランス風洋館が立つ。三階部は屋根もかねており、薄い青緑。二階から一階までの外壁は白塗り。

その洋館に向かい川を背に、二人の女性が歩いていた。一人は青髪で、腰まで届く髪を一つに束ねたポニーテール。身長は百五十センチ程で、背はアンよりも少しだけ小さく、胸やお尻などは大きい。服装はスーツ。黒いシャツに黒いジャケット、黒いパンツ姿と統一されている。手には調味料だけでぎっしりの買い物紙袋。


「アビーちゃん。そろそろ持つの交代しましょうか。」

「いえいえ!メアリーさんに持たせるわけにはいきません!私が持ちます!」


メアリーと呼ばれた女性は金髪で、より長い髪の毛を大きな三つ編みにして背中程までに調整している。身長は百七十センチとこちらも兄に近く、兄より少し小さく、凹凸はほぼ無い。服装は統一されているのかアビーと呼ばれた荷物を持つ女性と同じ。


「私が一度も持っていないのは申し訳がないのだけど…」

「いや!あの川を濡れずに越えられたのはメアリーさんのお陰ですから!何よりもイチリンさんがもっと都市に近いところに停めてくれたら良かっただけです!」

「雇い主様の事を考えると妥当な停車位置だと判断できます。それにイチリン様は私達とは違い、雇い主様直属ですから。文句なら社長に直接してみては?」

「メアリーさんだって副社長じゃないですか!」


笑顔のメアリーと涙目のアビーが非常に簡易的な柵を通り、庭とは呼べないほど荒れた道を歩く。二人は談笑を続けながら幾つもの視線を確かに感じていた。洋館の玄関まで到着する。既に灯る外灯に照らされながら、鉄製で重い扉の簡素なドアノッカーを二回叩く。


「…もしかして私達を見てる人、増えました?」

「あら、良くわかりましたね。昨日の買い物行く時からの新手ですね。しかも二週間前から山の上で私達を見てる方とは違い。大まかな位置しかわかりません。私達の雇用は切れることは無さそうで安心ですね。」

「それ社長に聞かれたら大目玉です…社長にはもうお伝えを?」


ギギギと金属を引きずる音と共に扉が開く。玄関ホールはまさに豪華絢爛。埃一つない掃除の行き届いた部屋に絵画や壺の数々が並び、客人を迎え入れるための簡単な一人がけソファーや小さな机も用意されている。

その入り口を開けたのは百八十センチを越える銀髪でスパイキーショートの男。


「お帰りなさい二人とも。その疑問には答えておきましょう。わかっていますよ。因みにメアリーの言葉も聞こえています。」


あちゃーと目を瞑るアビーを撫でながらメアリーは微笑み、扉を閉めると目の前の男に声をかけた。


「ウィリアムさん。監視の目は昨日の買い出しから減っていないようですね。」

「ええ、私も走って探してみたのですが、山の方は到着する前に痕跡ごと逃げられ、川向の方は移動中に方向感覚を乱されてたどり着くことができません。」

「あ、あの!それってあり得るんですか!?社長が直接行かれてどっちも捕まえられないなんて…」


メアリーやアビーは同じように黒いスーツ姿のウィリアムや社長と呼ばれた男の後を着いていくように並んで歩く。洋館は入って直ぐ、ホールの中央階段が二階へと向かえる。三人は階段には寄らず、左手の通路を歩く。長めの廊下は幾つもの窓があり坂下の川が良く見える。


「それは勿論。私より強い人なんて沢山います。それこそ屋敷にはイチリン様を筆頭にもう一人いますからね。ただ、今回の方々は強いと言うのは少し違うかもしれません。」

「え?どうゆうことですか?」

「発掘物が非常に濃厚です。山側は確実でしょう。

人一人の位置を別の場所に飛ばす。または同質量の物体を入れ換える《可能性》を秘めた発掘物。

現在まで人の《可能性》で瞬間移動の能力は聞いたことありませんし、以前発掘物一覧表で記載されていたのを記憶しています。

川向はわかりません。方向感覚を乱すと言うのは聞いたことも見たこともないので、どちらにせよそういった《可能性》でしょう。」


廊下を突き当たり、厨房にて調味料の受け渡しを行う。相手はクラシカルメイドさん。黒地の長袖でロングスカートと同じ長さの真っ白で、薄い綿のエプロンをしている。髪は見えないようにひっつめてキャップの中に、身嗜みや姿勢も良く教育されている。


買ってきたばかりの調味料を笑顔のメイドさんに任せて三人は再度来た廊下を戻る。


「少し早いですが二人はお休みください。昨夜から買い物をお願いしていますし、明日以降の発掘作業にも障ります。私はこのまま雇い主様の元へ向かい二人の帰還を報告に参ります。」

「発掘作業とか侵入者がいないとホントに暇な日が続きますね。」

「んん、アビー。貴女は最近メアリーと似てきて一言多いですよ。」


少しショックを受けたアビーと少し嬉しいのか期限の良さが伺えるメアリーは終業と分かりやすくネクタイを取り除く。アビーに至っては第一ボタンまで開けて体をほぐすように伸びをする。

ウィリアムは左腕に巻かれた安物の腕時計を確認すると借りている部屋へと戻ろうとするアビーを呼び止めた。


「そういえばメイド長が本日のデザートにシャーベットを作るのを手伝ってほしいと言っていました。報酬は多めの提供だそうですよ。」

「メイド長のシャーベット!それはもうすぐ手伝いに行きます!」

「冷凍室に居るようですよ!」


のんびりと戻ろうとしていた足取りはそれはもう駆け足へと変わる。声を大きく伝えると元気一杯の返事、少し困り顔で見送るウィリアムとメアリーは並んで歩く。


「ウィル。山側の人達だけど、私達が居なくなっても襲撃が無いってことは貴方の事を把握してるんじゃない?」

「顔出しNG で通ってましたからそれはないと願います。おそらく山側は殺して奪うではなく。盗みに入るタイプ、もしくは警戒の集中力が切れるまで待っているかです。二週間前以上は隙が生まれやすいですから下手すれば今日にでも来るかもしれません。…部屋に戻らないのですか?」

「私が雇い主様の所へ行くのに何か不満でも?」


メアリーのひと睨みに両手をあげて降参のポーズをとる。玄関前の階段を登り二階へ。

この洋館は

一階に玄関ホールや大広間を初め。食料庫や冷凍室、厨房や食堂。応接間や遊戯室。用具兼武器庫など。

二階は宝物庫や館の主の私室、執務室。書斎といわば主のプライベート空間に近い。廊下を屋敷を通路の途中に三階へ続く階段が左右二つある。

三階は使用人達の部屋。左半分を男性、右半分を女性と別けてある。


屋敷の主の方針で恋愛に関しては禁止していないが、あまりの忠誠心に直属の九人は一切男女の付き合いがない。外注である黒服の三人。その内ウィリアムとメアリーのみが夫婦と言う間柄である。因みにアビーは二人の娘ではない。


執務室の前に到着した夫婦。メアリーの方は一応終業はしているがネクタイを結び直す。互いに身嗜みを確認して扉をノックする。返事はなく執務室の扉は開かれた。

中から現れたのは頭だけ覗く小さな女の子。見た目は十代後半。短く切り揃えられた黒髪に眠たいのか半分閉じている。うす緑色の瞳が二人を確認すると扉を完全に開いた。

少女は白のワイシャツに黒のタンクトップジャケットと同じ色のパンツを履いており、腰にはリボルバーが二丁吊るされている。


「…おや、お二人お揃いですか。…どうぞ中へ、お館様がお待ちですよ。」

「ウィリアム・ハーシェル。並びにメアリー・ハーシェル。入室いたします。」


玄関ホールとは違い。執務室は非常にコンパクトな作り、豪華さは皆無。本棚の横に大きな机と椅子が四脚、上には日本地図があり赤ペンで幾つもの丸が描かれている。コンパスや定規が散乱する机以外家具はない。

赤いセーターを着た黒髪黒目の男が夫婦を向かえる。身長はウィリアムよりもほんの少し低い程度。優しい顔立ちで見た目は四十代かそれよりも若い。


「ああ、メアリーさんお帰りなさい。無事の帰還何よりですね。いつも言ってますが帰還の報告なら直接でなくてもいいですよ?」

「いつも言ってますが外注組ですので節度は必要です。」


はいはい。いつものことね。と言った意味の含まれた溜め息をつき机の地図を見る。


「この辺調味料調達ついでに発掘してるけどやっぱり都市に近すぎてなにもない。他にほしい物がないか夕飯時に皆に聞いて、なければ移動しよう。」


オシリスの話が終わるタイミングで眠そうにしていたイチリンの目が大きく開かれる。


「…許可のないものが屋敷内への侵入を検知。」

「イチリン。どうしてこうも俺が移動しようかっていうと必ず侵入者が現れると思う?俺が合図してるみたいじゃん。」

「…知名度考えてください。…あと、侵入者の検知と同時にアビーの認証がなくなった。」

「「え?」」


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