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準備運動

一番驚いていたのは飛ばされた辻本人。メアリーの一部始終を見ていた兄妹は、ついに我慢の限界か。と見守っていた。


「め、メアリー嬢!?なんだその力は、そんなに強かったのか!?」

「うるさい! 黙って聞いていれば勝手な都合を押し付けて! 五分でこの場の全員制圧してとっとと帰ります!」


怒り狂うメアリーが走り出す。辻を守るように競技者達が飛び出していくと、砂山を蹴って派手に吹き飛んでいく砂粒のように人が飛んだ。

宙を舞う競技者は殴られ、蹴られてから初めて攻撃された事に気が付いた。辛うじて見えていた兄妹も対峙していた場合は反応できるかという速度。


兄は梅干しでも食べているのかというほど酸っぱそうな渋い顔、アンは妙に嬉しそうな顔をしていた。酸っぱそうな顔をしたまま疑問を投げ掛ける。


「ウィリアムさん。メアリーさんって立場的にはヒーラーなのでは? …何あれバーサーカー?人が卓球玉より軽く飛んでる。」

「確かにヒーラーですが、うちの発掘隊で最も強いのは彼女ですから。ほら、死なないように一応手袋も着けてますからダメージ事態は落下の衝撃くらいです。気絶で済みますよ。安心してください。お二人の安全は私が守らせていただきます。…後本人に直接言うと全力で殴られますよ。死ぬほど痛いです。」


それは困ると不満げな兄の前方で辻の声が響く。


「ええい! そこの銀髪が、あの白騎士だ! 皆! 奴を狙え! ぐえ!」


声に反応するようにメアリーは出所に真っ直ぐ進む。対処していた多くの者は目の色を変え、三人の方へと向かってくる。こうも急に乱戦になるとは思わず、ウィリアムは二人を守る様に構える。


「ウィリアムさん!僕もアンもこのくらいなら護衛も要りません。自分達で対応しますよ!早く終わらせてしまいましょう!」

「そうですか?ではお言葉に甘えて、一応近くにはおりますので危険そうであれば手をお貸しします。」


三人に襲い掛かる競技者達を三様に返り討ちにする。

ウィリアムは身体能力強化のみで、相手の攻撃を受け流し別の者を巻き込み。

兄は腰に隠す懐刀に左手を添えて、右手に土のアームガードと刃を潰したハイランドブロードソードを生成すると競技者の畑で立ち回り始める。

アンは可能性を使い。右から左に手を払えばそれに合わせて競技者達が殴り飛ばされるように処理された。勿論気絶させる程度の力加減。


兄妹に危険がないようウィリアムは注意していたが二人の戦闘能力の高さに驚きの表情が見える。

兄の剣術が発掘物由来とは気が付いていないが、この場にいる競技者の強さはSからDの五段階中、真ん中のBランク程。それでも一般人では手も足も出ない強さを持っている筈。それを同じ剣術で、尚且つ乱戦の中制圧するのは技術的にも評価が高い。

アンの可能性は風の自然系に見えなくもないが、圧力(プレッシャー)の強さに違和感を感じる。しかし可能性の異様さはスカウト時殆どの場合で評価が高くなる。希少であればある程、相対した場合攻略が困難になる為だ。


本採用以降の事柄は聞いていなかったが、ウィリアムは完全に後方支援の予定だった。しかし思わぬ戦闘力に笑みが溢れ、集中する敵の多さにそれが消えた。

確実に競技者の数は減っていく中でわかっていく事もあり、襲われている四人の中で明らかな殺意の籠った者がいるのはウィリアムだけ。

他にもウィリアム以外を狙う者は明らかに殺意が無く、手を抜く者さえいる。故にめんどくさそうな溜め息が漏れる。


そこに気が付いたアンは、手を抜いて戦う者の一人を狙い。見えない力で地面に押し付け拘束、うつ伏せになった競技者の背中に馬乗りになった。一番動かないで戦っていたアンはそのまま継続して戦う。


「ちょっと聞きたいんだけど、どうしてこうもやる気に違いがあるのかな? アナタは乗り気じゃないんでしょ? 教えてよ。」


馬乗りされた競技者は少し考えた後、周囲を見回してから口を開く。


「言えない」

「あら、あらあらあら…」


アンはそれはそれは楽しそうに笑顔になる。顔は競技者には見えていないが、彼にとって良い方向へと向かうことの無い表情。

軽く辺りを見回し、一番近くにいる兄も二番目に近いウィリアムも通りすぎ、デコピンで飛んでいく羽虫のように人を殴り飛ばすメアリーを見つける。


競技者には見えない角度だった。アンは見えるよう競技者の体を浮かせた。あげられた本人も、どんな可能性かを知らないウィリアムも驚くのは無理もない。風をほぼ感じない。浮いて、メアリーの見える角度に調整して、また下ろす。不思議な光景。


「さあ、しっかりメアリーさんを見て。動きが見れないならしっかり動体視力のみを強化して。しないと手は離さないよ。」


ガッチリと頭と瞼を固定され見るしかない状況を作られた。頭は何て事はないが瞬きが出来ないのは辛い。黙って従う。

出来る限りの強化でメアリーの動きが見えるようになる。ただ目だけに集中した強化では、見るだけで。戦闘になった際に、体はまるで反応できないだろう。


「見えてきたかな? 瞬きしながらしっかり見ててね。ほら! 顔面を殴られた人が吹っ飛んだ! こっちは顔面だけどその場に崩れ落ちた! あっちはみぞおち!」


競技者の顔色はみるみる悪くなっていく。


「どう?見えると如何に恐ろしい事が起きてるかわかるよね。

 最初の吹っ飛んでった人は顔面陥没後高所からの落下。次にその場で倒れた人は首を捻って衝撃を減らそうとしたけど、出来なくて骨が折れる。最後はあの威力で内蔵が無事かな?


 アナタはどれがいいかな? ついさっき体験したと思うけど、私は人ひとり浮かして飛ばすくらいわけないんだよね。今からあっちに飛ばしたらどうなるかなあ~?」


競技者を片手まで処理しながらアンは少し声色を高くしながら話続ける。視線に気が付き、喧騒で聞き取りづらくも何となく行為を察したメアリーも素早くシャドーボクシングの要領で、拳を素振りを見せた。

背中合わせとなるウィリアムは兄に疑問を投げかける。


「お兄様。品行方正とは?」

「アンと一緒にしないでください!」


再び離れていく二人を尻目に、拘束された競技者の背中から降りたアンはカウントダウンしながらヘラヘラ。メアリーが殴り飛ばした相手の怪我を完璧に治癒していることを伝えないのは、解っているかもしれないが、脅しとしての効果を高める為。理解はできるが性格が悪い。


「白騎士を殺したら追加で報酬が貰えるんだ!」

「んん? 殺すと?」

「そうだよ! 金で雇われたやつとか、白騎士を倒して名声を挙げたいやつとか! 皆理由はまちまちだ!」


少しの沈黙。辻の勧誘からは想像も出来ない競技者達への指令。アンは自分の周りを一周ぐるりと飛ばすと、競技者を自分よりも高い位置で止める。

酷く怯える競技者へ問う。


「正確にはどんな命令?」

「『白騎士は必殺、他の奴らはどちらでも。白騎士の首に1億円払う』と。」

「ふーん。他には?」

「俺はもう知らない! どこかでやられてしまった先輩に誘われただけなんだ! アンタらに勝てない、実力が足りてない事はすぐにわかったから! 頼む! あの女のところへ飛ばさないでくれ!」

「はいはい。沢山話してくれたから望み通りにしてあげるよ。」


アンの返事と共に拘束された競技者は息が出来なくなった。苦しさに踠きながらも意識は徐々に消えていった。

とっくの昔に逃げ出した者、戦意の喪失し既に剣を棄て降伏した者(拳骨で気絶済み)を抜いて、百五十人強いた競技者は三十人そこら。倒れる者の中には辻の姿さえある。


生まれたての小鹿のように起き上がろうとする首謀者の姿はどうでもよく、残りの競技者で未だに剣すら抜いていない者が十人程がいる。目にも闘志が宿り、有象無象が減るのを待っているようだ。もう一人くらい話を聞こうと考えたが、あっという間に競技者は片付け終わってしまった。メアリーの宣言から三分が経過していた。


先陣を切り最も多くの競技者を気絶させたメアリーは少しばかり足を止めた。疲れたわけではなく、品定めである。

彼女のお眼鏡にかなう事は稀だ。ウィリアムを始め現在屋敷で待つアビゲイルくらいのもので、一対一で自身を越える者を探し求めている。

その望みが如何に高いかは彼女自身も理解している。今回も居そうにない。


目標のために培った観察眼。可能性は差し引いて、相手の戦闘能力を測るその目の精度は特別に高い。見たところ近接戦闘タイプのアンが手加減をしてあげているのは気にならないが、兄の筋肉の着き方的に、研鑽された剣術が出てくるのは非常に理解しがたい。剣を使うにしても得物があまりに大きすぎる。

真相知りたさに丁度良い強さの者を宛がおうとしていたのだ。


「メアリー。残りはA級程の強さです。早めに終わらせましょう。手伝ってくださったアン様の仕入れた情報はなにやら面倒事の気配ありです。辻さんは明らかに誰かの息がかかってます。」

「話は聞こえてなかったけど協力できて良かったです。仕方がありませんね。手早く…あら?」


示し合わせたかのように残りの競技者は武器を手に駆け出した。殆どが並ぶ夫婦に向かってくる。たった一人が兄に向かって走り出したのだ。ウィリアムは別方向へ駆ける者を止めようと踵を浮かせたが、ほんの小さな静止のハンドサインを見て自身への向けられた殺意に対応するために構えた。


「得物の無い者とは打ち合わない。いざ! 俺と死合え!」


丁度良さそうな奴が丁度望んだ行為をしてくれるなら、その結果をしっかりと見たいもの。手伝って貰えるならギリギリ許容まで。

この場の女性陣は軒並み性格が悪かった。


向けられた声に反応して振り向けば、どこぞのモニターで見たことある身の丈程の大剣を片手で構える大男。先程より数段強いのを感じとる間もなく、詰め寄った男は兄に向かってその鉄の塊を振りかぶった。


「ちょっ! 速っ!」


踏み込みの速さ、土塊で作った剣では受けられない。退いて避ける判断を遅らせた兄は、判断で大きく体を反らす。しかし、風圧も相まって兄は背中を地面に着かされる。次手は逃げ。その考えをぶち壊すように、男はその場で一回転剣の重さ、遠心力も合間りその速度は受けの一択に余儀なくされた。


舌打ちの時間も無く、兄は土塊の剣を手放し腰の懐刀を盾に選択していた武術を短剣術へと切り替えた。『不壊』の可能性にて刃を受けとめたが、その威力は殺しきれず地面へと押し込まれる。


兄の獲物にそれを見た四人(・・)の目が大きく開かれる。


一瞬の驚きに硬直した大剣使いの隙を逃さず、その場から離脱。逆手に握りれた懐刀を順手に持ち帰ると愚痴る。


「これ今見せる予定じゃなかったんですからね。」

「贋作武人の懐刀か。とんでもない代物だな。」

「そちらもとんでもない技ですね。回転斬りの速度が技の繋ぎとして成立してる。普段ならもう少し見たいところですが…」


兄の動きは先程までとは大きく異なっていた。『贋作武人の懐刀』は知らない者がいない程、有名な発掘物の一つ。その代表的な能力は過去の所持者の武術のインプットとアウトプット。

持つだけで達人の技を使うことができる。中遠距離の戦闘を得意とする兄の弱点を埋める切り札の一つ。


一期一会で終わると考えたレオンとの戦闘ではすぐ出したが、長い付き合いになる予定のウィリアム達には本契約までは黙っていたかった。その為、最初は記憶されている三十三の武術の一つであるハイランドブロードソード剣術を使用。これならば左手で懐刀を触りながら立ち回れる。


ただ無駄な努力で終った為、短剣術を解禁。兄と相性のいい武術は三つあり、その中の一つ。二百年程前に一代限りの超マイナー武術『キリル短剣術』を選択。兄は好んでよく使い、懐刀の可能性を使わずとも、体に馴染ませて使えるようにしていた。

このようなことは必要はないとされているが、兄は使う度により体がスムーズに動く気がして自己鍛練をしている。


決まった型は特になく。一対一、集団戦、対自然動物と攻守共に臨機応変な対応が可能。兄の信頼を置く理由の一つだ。


大剣使いの瞬きに合わせ、ぬるりと動き始めると、大剣の間合いを抜け懐刀の得意な間合いへと詰めた。あまりの早業に反応が遅れ、引きながらの腕力のみで振られた一撃は、懐刀の刃を滑るように流される。

回転するにも体幹はスタートから定まらず、受け流されたことにより難易度は更に高まる。上腕をなぞるように付けられた斬り傷は深く大剣の操作を失った。


手から離れた剣を目で追うこともできず、刃を土塊で覆い警棒のように長さを増し刃が隠されたそれで顎先に衝撃を送られ意識を手放す。崩れ落ちる大男を見下ろす兄は、土を落とした懐刀を後ろ腰へと戻すと背中を擦った。


「大変申し訳ありません! 護衛対象に怪我を負わせる失態を…」

「え!? あ! そりゃ痛いですけど全然大丈夫ですよ! 僕が願い出た事ですから!」


一人を片付ける間に同格以上の十人前後をさらりと倒す夫妻が駆け寄ってきた。一緒に近付いてくるアンは、少しだけ速い足取りでたどり着き兄の背中を擦った。負けるとは露にも思わなかったため手助けもなしだったのだろう。すぐさま続いたメアリーが、兄と倒れる男の傷を癒す。


「ありがとうございます。」

「いえ、お疲れさまでした。それにしても、まさかそれほどの逸品をお持ちとは…もしよろしければ依頼終了後に我々に売りませんか?」

「あー、遠慮しときます。死んでも所有権は渡しません。」

「それは残念です。」


発掘物に宿る『忠誠』の可能性は、所持者の同意があれば他者への譲渡ができる。このタイミングでの申し出は随分不自然。売買の話を断りやすい事この上ない。メアリーの若者に試練を与えたい欲が招いた結果のお詫び。兄は完璧にその事が解ったわけではないが、一応『入手を強行しないよ。』と言う意味合いと受け取った。


発掘物への深堀は今することではないので、ここで打ち切り。倒したのだから面倒事は解らずとも、本格化する前に逃げてしまおう。そう話していた矢先であった。


面倒事が本格化してしまったのだ。


突如としてこれまでに感じたことのない圧力(プレッシャー)が四人を襲う。夫婦には数日前に屋形近くの森で感じた強力な圧力を上回る。兄にとってはアンの真の実力を上回る。圧力はその可能性の練度以外にも、使用者の性格や精神状態でも気配を変える。

浴びた瞬間、満場一致の怪物判定。


出所に視線が集まる。テントの周囲を囲む建物の屋上。二つの影があった。間違いなく出所はどちらか、正解なんてどうでもいい。四人の中で一番強いメアリーの判断は。


「逃げます! 後ろの川へ!」

「僕が視線を切ります!」


逃げの一手である。

三人の前に出た兄が祈るよう手を合わせてから、両手を地面に着ける。三歩程前から超成長した樹木が乱れ咲き、瞬く間に巨大な森が創造されようとしていた。辻を含め気を失った競技者も巻き込むが、枝先に乗せるようにした。余裕のない中で一応出来得る考慮。その中で意識があり中途半端に避けた辻が木の幹に顔面を強打した事には誰も気が付かない。

範囲、成長速度は驚異的。二秒とかからぬ内にサーカステントの様な団体のホームを押し退け広がり、マンション群の高さを大幅に越える高さになろうとしていた。


「おーおー。何だか知らないけど急に呼ばれて目の前から森が迫ってくるよ。」

「これは嬉しい誤算だ。森に巻き込まれた奴で使える能力者がいる。確保しといてくれ。」

「え? どいつ?」


こんなものを不特定多数に見せるのは嫌だったのだろう。屋上に居た一人が飛び降り、森に触れる。その瞬間、まるでなにもなかったかのように森は姿を消した。開けた視界には誰も写らない。すぐ見えたのは枝先に持ち上げられた競技者が、屋上に居たもう一人により全員担がれ降りてくる姿。


視線が切れてから森が消えるまでものの三、四秒といった短い時間だが、川へと飛び込んだ四人は森が消えるのを視界に捉えていた。

着水音を聞き一人が川沿いまで歩いて確認。川底は深いが動く影は見えず、逃げられたのを理解したが、ニヤリと笑うと川を背にする。


「どっちも逃がさないぞ。あーなんて名前だったかな。その中にジジイ居るだろジジイ。叩き起こせ。」

「俺も今お爺さんなんだが?」

「違う。もっと草臥れた老い耄れ。生きてる?」


旧知の仲といった口振りで二十代半ば程の男が顎髭が胸辺りまで伸びる老人に向けて指示を出す。


若者が川を除きに来るまでの短い間。

水に飛び込んだ四人は左手を挙げた状態で巨大な一つの気泡の中にぶら下げられていた。それは水面から離れる為、川底へと沈んでいく。


「アン! 曲げて!」

「はーい。」


返事と共にアンは両手をドームの天井に向けた。特に大きな変化は見受けられないが、事が終わったのを伝えるようにサムズアップ。

可能性が使われていないのではないかと思うほど圧力を感じない。


「すいません。水泡は僕の可能性です。アンの可能性も使って僕らの姿を見れないようにしました。沈んだままの方が都合がいいかと思って、飛び込んだ時に入ってきた空気を水で包んでます。それでも出きるだけ深く潜ってます。」

「先ずは、お二人の可能性を使って頂きありがとうございます。会話も出来て助かります。そのまま底までお願いします。」


川底に着くと、気泡は地面の水分まで吸い上げ、乾いた地面にドーム状の屋根を作る。アン、ウィリアム、メアリーの三人を掴んでいた水から力が抜け、ニメートルほどの自由落下の末着地。兄のみがゆっくりと降りてくるが、その左手は水で覆ったままドームと繋がっていた。


二点を繋ぐ水は天井から徐々に位置を変え、人の顔と同じくらいの高さを維持。


「この水のロープは横切らないようにしてください。ドーム潰れます。気泡で移動することも出来ましたが、これでよかったですか?」

「川底にいる事は良い選択かと。追ってくる様子もなさそうですし、この中なら辻さんにも見つかりません。上から見られてもアン様の可能性で見えなくなっていれば発見はかなり困難でしょう。」

「これからどうしますか? 私達の可能性は基本的に潜伏がメインですけど、辻ってお爺さんと相性最悪で上がったら即バレです。バレたらソッコーであのヤバそうな人が来ると考えると逃走が難しそうです。」


アンの言葉にウィリアムがにこやかな笑みを浮かべ返す。


「辻さんについては問題ありません。彼は雨が降れば風での索敵、長距離会話は出来なくなります。入道雲が見えましたので夕立まで待てば川から出ても問題ありません。あの二人組に関しては公務員に助けを求めましょう。相手にするのは危険すぎます。私も世間的には強い方だと思いますがメアリーが即撤退する程の…」


ウィリアムは黙り顎に手を当て考え始めた為、話が途中で止まる。

兄妹はそんな弱点がと。それなら川にずっといなくても済むと二人顔を見合わせた。周りの建物から大きな雲が見えたのを思い出した兄は、まだ時間がかかると気が付く。水のドームは八畳ワンルーム程の広さに加え天井は一番高いところで四メートル。四人で数時間なら問題ないが一応換気目的で兄は両手を合わせ地面に触れる。


土を固めて作られた簡素なテーブルを囲むように四脚の椅子が作られる。それと同時に巨大な森を作った先程とは違い、各々の椅子の横に、幾つもの歪んだ剣先のような深緑の葉がポコポコと生えてきた。アンは直ぐ様座り、少し間のある机に突っ伏し兄に水を要求。立ち上がって右手をテーブルに置くと机に四つのカップを作る。川の水は濾過や煮沸は面倒なので持っていた水筒から水を注ぐ。各所に配膳した兄は夫婦に休憩を勧める。


「時間がかかるのでしたらこちらの椅子使ってください。」

「あら、ありがとう。こんなことも出来るのですね。」


メアリーもアンに続き腰かける。水を要求した本人が飲むのを確認してからメアリーも続けて口をつける。


「それにしても凄い可能性ですね。見えなくする可能性ですか。」

「あ~…まあそうです。」


アンは歯切れの悪い返事をした。アンの可能性は知られれば対策が取りやすい部類のためあまり口外したくない。そういった意図を、気にせず質問したメアリーは直ぐに謝る。


「ごめんなさい。まだこれから一緒に働くとは決まってないのに、無神経でしたね。」

「可能性をお兄ちゃん以外に知られることがなかったので、変な反応してすいません。」


顎から手を離したウィリアムが休憩の場に対しお礼を言いながら座る。


「お兄様、アン様。私の可能性は超人系統。メアリーと同じで身体操作を日々訓練して、その殆どが受けや流しの防御面に振られております。カルシウムやリン酸、エナメル質の混合物と可能性の力で圧倒的な硬度の物質を作り出せます。それらを全身に纏った姿から多くの方々に白騎士と呼ばれる事になりました。形状は自由、しかし一度に多くを出すことはできません。出来て全身鎧四着と八振りの剣くらいです。」


ウィリアム? と困惑気味なメアリーの呼び声に答えず自身の可能性について語り続ける。


「製作した物質は四十八時間有効で一度形が決まったものは変更不可。有効時間を過ぎた物は急激に硬度が低下。普通の骨と変わらなくなります。時間内では私自身の破壊力的問題で物質の破壊は出来ません。

戦闘に関しては、妻に師事。修行で得た身体強化や操作を駆使し最短最速で相手を斬り伏せるのが私のスタイル。切り札以外の可能性はこんなところです。

正直先ほど提案した方法で事が運べば良いのですが、あの二人と戦闘になる可能性を捨てることは軽率。少なくとも現状で我々が出来ることの共有、可能性の相性を確認しておくべきと判断いたしました。本来私の可能性をお見せするべきでしたが、順番が逆になってしまいました。」

「いえ、そういうことであれば僕も共有させて貰います。」

「私も全然大丈夫です!」


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