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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

kurokuro 短編小説集

凡才と天才

作者: kurokuro

 北見 茜 《天才》 高校二年生


 南 静香 《凡才》 高校二年生


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


この世界には 《天才》 と呼ばれる人達が存在する。


 《天才》 は特別な能力を持って産まれる。


例を挙げるなら、超常的な運動神経。圧倒的なカリスマ性。神秘的なビジュアル。等々、普通の人間が産まれた瞬間には持てない能力を持ってして、産まれる。


それが 《天才》 


対して何の能力も持たずして産まれた存在。


それが 《凡才》


一般。普通。凡庸。例を挙げることすらできない、価値の無い人間。それが━━━私である。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 「だから、違~う!」


平日の公園に響き渡る否定。夕焼けのエモさも覆す程の否定。誰の声か。私である。


 「あのねぇ 《凡才》 はそんなことしないの!」


私は目の前に居る女の子に、そう告げる。


 「う~ん。難しいね」


目の前の女の子が、人差し指でほっぺを押しながら、返す。


 「・・・ 《凡才》 はそんな動きしない」


 「え~そうかな?」


 「しねぇよ」


北見 茜 高校二年生でありながら、売れっ子・・・アイドルではなく、女優でもうない、YouTuberでも、いや、YouTuberは若干・・・とにかく、中学生の時にオファーを受け、ドラマに出演した後から、テレビに出まくってる、いわゆる、タレント、芸能人ってヤツだ。


そんな、北見 茜 がなぜ目の前に居るのか。理由は簡単である。それは━━━


 「手厳しいな~それでこそ私の彼女だ」


違うな? 決して違うな? 天と地がひっくり返っても無いな? ペンギンが空を泳ぐ位には無いな?


 「ふざけてないで、続きをするぞ」


私と 北見 茜 彼女との関係は、幼稚園の頃からの付き合いである。幼小中高を共にする、言うなれば腐れ縁。かわいく言うなら、ニコイチ。果物で言うなら、さくらんぼである。だからと言って、仲が言い訳ではない。あくまでも、同じ環境に居ただけである。

それに、私と彼女との間には、大きな “差” がある。

彼女は、主人公である。

対して私は、脇役にも成れない存在。学園系の漫画なら、主人公のクラスに居るモブですらない。セリフも無く、描写すらされない存在。

それが、私。 南 静香


そんな私が今、彼女と行っているのが━━━


制作発表段階から、SNSでは約一週間トレンドになり、報道番組を全てかっさらい、さらには、原作漫画も追加で三億部発行される程の話題にもなった、超人気作品の実写ドラマ。そんな、ドラマのヒロインに抜擢されたのが、彼女。 北見 茜 である。


ここで、そんな作品紹介をしよう。ヒロインである 《藤坂 氷美》 が都内の高校に入学するところから、物語りは始まる。 才能が全ての世界で、虐げられる存在である 《凡才》 の氷美が同じく 《凡才》 の 《朝野 進》 に恋をし、さらには 《天才》 の 《彩世 拓》 も加わり、学園を巻き込んだ切ない恋愛をする物語りである。


世間ではリアリティーがあると評判で、アニメも日本を変えた覇権作品と言われた程である。


さて、話を戻すと 《藤坂 氷美》 役に選ばれた 北見 茜 だが、彼女は 《天才》 である。故に 《凡才》 をリアルに演じることができないのである。

そこで、彼女は長年の付き合いである、私に頼んできた。 《凡才》 を教えてくれと。稽古をしてくれないかと。私は断れるはずもなく、了承をした。


それが間違いだ。今までの彼女との距離感は、顔は知ってるけど、必要な時以外は話さないどころか、目も合わない程だった。それが、了承をしたあの日から、ずっと私に付いてくる。登校時は、なぜか玄関の前に居るし、授業と授業の間の十分休憩でさえも、隣に居る。クラスも違うのに。さらに、トイレ移動、昼食、下校時にだって、私と共に居る。挙げ句の果てには、休日になると、一日中稽古に付き合わされる。


と言う訳で私は今 北見 茜 と稽古をしている。稽古をし始めて約半年が経ったと言うに、彼女は一向に 《天才》 のままだ。以前、私はドラマの撮影について聞いたことがある。しかし、それについては、教えることができないと拒否された。まぁ大方、契約やらなんやらで、教えたくても教えれないのだろう。納得はできる。だって私は外部の人間だから。納得はできる。嫌でも、できる。しかし、そんな状態で稽古を続けて撮影のスケジュールに間に合うのか、と言う疑問が続いて生まれた。それについて、彼女は目線をあたふたさせながら、感覚派だから、と謎の返しをされた。私には理解できなかった。これだから 《天才》 と言う人種は。


 「もうそろそろ暗くなる。今日はここまで」


夕焼けも沈みかけている。女の子二人で暗い道を通るのは危険だ。それに、彼女の身に何か遭ったら、私は取りようの無い、責任を取ることになる。それは避けたい。


 「ほら、帰るよ?」


 「はいは~い」


私の催促に応じた彼女は、私の右腕を掴んでくる。


私はこの、約半年間で彼女について分かったことが、三つある。一つ目、彼女はすぐにくっつく。私を付け回す時は、必ず私の体に彼女の体を絡ませる。まるで、母親が自身の子と離れぬように手を繋ぐみたいに、彼女は絡ませる。二つ目、彼女は常に笑顔だ。稽古中、私が怒った時でも、彼女はニコニコとしている。少し気味が悪い程に、ニコニコしている。ニコニコするために産まれてきたのではないか、と思う程だ。そして、最後。三つ目は━━━


 「実はね~今日新PVが発表されたんだよ~」


 「ん? そうなのか?」


 「ふふ、稽古に集中してたからね~気付けなくて当然だよ!」


確かに稽古中は、彼女のことで、いっぱいいっぱいだからな。スマホを観る時間もなかったや。


 「で? その新PVってので、何が発表されたんだ?」


まぁどうせ、新規キャストや主題歌の発表だろう。


 「放送日だよ。放送日」


・・・・・・


 「は?」


 「ドラマのね~放送日が決定したんだよ」


彼女のことで分かったこと、三つ目。彼女は週に三回ほど学校を休む。これは、私が稽古を頼まれてから分かったことだ。


 「いつから? いつから、撮影してたんだ?」


 「それは秘密だよ」


私は彼女が下校した後は知らない。週に三回休んでいる間も知らない。


つまり、彼女はその間に撮影していたのだろう。しかも、ずっと前からだ。だって、半年でドラマの撮影が終わるわけ無いだろう?


だとすると、疑問ができる。なぜ、途中から私に近づいたのか?


 「観るよ、できたら」


 「い~や、絶対観てね」


・・・聞けないから、私は 《凡才》 なのだ。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


私はあの後、自宅の玄関前まで彼女と共に帰り、別れを告げて玄関をくぐった。いつも通りに。

しかし、ここからはいつも通りではなかった。靴を放し飼いにするかの様に、脱ぎ捨て、廊下を駆け足で歩き、一番奥にある自室の扉を開け、足で蹴り閉めた。

至って冷静だ。冷静にスマホのロックを解除し、YouTubeで調べる。否、調べる間も無く、トップページに新PVが出てくる。私は床に寝転びながら、タップして、視聴する。ゆっくり、と。


放送日は三ヶ月後、十月の七日、火曜日からだ。


私は右手に持ったスマホを一度上に掲げ、腹の上に乗せる。


期待していた。


何かに、なれんじゃないかって。


 《天才》 と関わったことで、実は隠された能力が在って、覚醒するんじゃないかって。


 《凡才》 から脱却できるんじゃないかって。


勝手に期待してた。分かってた、そんなこと無いって。自分は、何にも無いって。特別じゃないって。分かってた。


でも、まだ、してる。期待している。


次は彼女がインタビューか何かで、私のことを言うんじゃないかって。それで、私も彼女と同じステージに、スポットライトに当たるんじゃないかって。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


翌日、私はいつも通りに、学校へ向かった。 “いつも通り” 私の “いつも通り” が戻った。

彼女は番組の宣伝やら、特番やらで東京へ行ったとのことだ。

 “いつも通り” 私が席に着いてスマホを触っていると、嫌でも周りの声が入る。それで、知った。

 “いつも通り” が戻っただけだ。モブにすら成れない、描写すらされない存在に、戻っただけだ。


誰とも話さず一日を終える、日常が始まる。

同時に、夢だったんじゃないかって思う。


けれど彼女の話を聞く度に、現実を見せられる。


アレは、夢じゃないと。


彼女は確かに、私の世界に居たと。


私は “いつも通り” 眠りに就く。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


翌日 “いつも通り” 学校に登校すると、彼女が帰ってきていた。引っ張りだことは言え、やはり学業が優先されるらしい。しかし、彼女の周りに人が集る。


 「特番観たよ」


 「楽しみ」


と言う声と共に。

彼女はその声の対応に追われていた。これでは、何のために帰ってきたのか分からない。

私は隣のクラスから聞こえる声に耳を傾けながら、ネットを漁っていた。

 “いつも通り” 

彼女の居ない世界を楽しんでいた。

否、いっそのことなら、消えてほしいぐらいだ。

しかし、それは叶わないらしい。盗み聞きで、分かったことだが、彼女はちょくちょく帰ってくる。先ほど言ったが、あくまでも学業優先とのことだ。


 《天才》 は日常さえも、忙しく特別らしい。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


あの日から、三ヶ月が経った。


彼女の居ない “いつも通り” を送っていた私にはとっては、一瞬のようだった。

毎日、学校に行き暇さえあればスマホを触る。帰ってからも床に寝っ転がって、スマホを触る。気付けば、就寝の時間になっている。布団に包まれながら、妄想に浸る。夢を観る。


自分が 《天才》 だったらと。


彼女のステージに立てたらと。


目が覚めたら、朝が来ている。現実に引き戻されている。


私の世界が始まる━━━




━━━もう良いか。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


カーテンを閉め切り、トイレに行くかご飯を食べる以外は、自室に籠る生活。

私はいわゆる、引きこもり、不登校、社不と呼ばれる者に成った。

成ったのは良いもの、やることはなくスマホを触るか、寝るくらいだ。

毎日毎日、スマホを触れば彼女のニュースが目に入る。目に入った後は、寝るようにしている。だって、寝たら夢が観れるから。

夢を見ている間は 《天才》 に成れるから。特別に成れるから。何者かに成れるから。まるで、自身に特別な能力が手に入った様に思えるから。

だから、だから、私は夢を観る。だって、夢を観たら・・・夢を観るのは・・・私にも 《凡才》 にもできることだから。唯一 《凡才》 が 《天才》 に成れる瞬間だから。




━━━でも、分かってる。理解している。どれだけ夢を観ても、現実は変えられないと。私が 《天才》 に成る事はないと。




━━━知っている。自分の事は、自分が一番知っている。私はあちら側ではないと。天と地がひっくり返ろうと、私があちら側に行くことはないと。私は何があっても、こちら側から脱却できないと。




━━━だから私は逃げた。現実から夢に。自分が思い込むために。自分は 《凡才》 じゃないと。自分は 《天才》 だと。他とは違うと。

それでも、思っているのに、なのに、自分に嘘ツイて、成りきってるのに、現実は私を逃さない。何処までも何時までも追いかけてくる。嫌だと言っているのに、執念に追いかけてくる。逃げようとすればする程、速く、繊細に、確実に、私を殺しに来る。


 “リアル” を魅せるのだ。


そっちが先に、魅せて来たのに。


 “ファンタジー” を私に魅せたのに。




━━━━もう、良いや。




━━━━━━



━━━━━━



━━━━━━



 「静香ちゃん。開けて? 扉を、開けてよ」


━━━は? 何で?


 「ずっと、学校に来てないって、先生に聞いたよ? 静香ちゃん、昔っから全然学校休まないのに。どうしたの?」


━━━━━━


 「言ってくれなきゃ分からないよ。私は、静香ちゃんじゃないから」


 「言っても、お前には分かんないよ」


言ってしまった。私はこうやって、後になって後悔するから・・・でも、それでも、八つ当たりくらいは、良いよね?


 「お前には、私の気持ち何か絶対に分からない」


 「当たり前だよ。私は静香ちゃんじゃないもん。静香ちゃんの気持ち何か分かりっこないよ。でも、分からないけど、知りはしたい。私はあなたのことを、知りたい」


そうやって、すぐに良いことを言う。まるで、主人公の様なことを、言う。だから、これだから・・・


 「 《天才》 のお前にはッ! 特別で私には無い能力を持ってるお前にはッ! 絶対分かんないし、知っても意味ないだろッ!」


 《凡才》 じゃないんだから。


 「意味は在るよ。あなたを知れば 《凡才》 に近づける」


・・・は? 何それ。意味分かんない。


 「 《凡才》 に成りたいの? お前は?」


理解できない。全く理解できない。


 「静香ちゃんはさ、私が 《天才》 が特別って思ってるけど、私からすれば 《天才》 からすれば、あなたの方が、特別なんだよ。 《凡才》 であるあなたが。 《天才》 は産まれた時から、特別な能力が在って、他の人とは違って、それから主人公みたいだけど、その、だからこそ。何も持たずに産まれて、特別な力もないのに、それでも必死に、主人公に成ろうとしている! その! 姿は、私からすれば、特別なんだよ。私はね 《凡才》 のあなたが、憧れで羨ましいよ。だから、もっと 《凡才(あなた)》 を教えて!」



━━━━━━本当に? ほんと?



 「嘘じゃない?」


 「私は嘘ツキだけど、これはウソじゃない」


・・・そっか。


 「扉の前に居るなら、退いて。出るから」


 「え? あっうん! 退けるね! 今すぐ、退けるね! 今、退いてるから! よし、退けたよ!」


嫌だ。イヤだ。いやだ。出たらまた、否定される。私が、私が、私じゃなくなる。でも、ヒーローなら、主人公なら! 《天才》 ならッ! 夢は叶えるモンだろッ! 違うか、私ッ! せ~の!


 「ハイ! ド~ン!」


ドアを手で少し開け、足で完全に蹴り開ける。私が今、どんな顔をしてるかは、知らないし分からない。と言うか、どうでも良い。今は、私のことだけを。今のことだけを。


 「付いて来なさい! 《凡才()》 を教えてあげるわ!」


髪を空に舞わせながら 《天才(彼女)》 に告げる。


 「一生付いてきます!」


いや、一生は・・・


 「重い。一生は重すぎる」


 「そうかな?」


 「そうだよ」


 「え~じゃあ、あっドラマ観ようよ。放送してるんだよ? 知ってた~?」


何が、じゃあなのか分からないけど、良いか。


 「良いけどつまんなかったら、一話切りね」


 「いや、全部観るね。だって、最高に面白いもん」


よく、断言できるよ。


 「本当だろうな?」


 「ほんとです~」


まっ良っか。



 南 静香 《凡才》 高校二年生


 北見 茜 《天才》 高校二年生


私たちの関係は━━━









        凡

        才

        と

        天

        才






パクッた作品


【推しの子】

→嘘&芸能人

『さよなら絵梨』

→読んだアンサー


以下、自語り

高校三年生一学期終盤。

進路を決めねばならんのだよ。

進路から、逃げるための作品。

あと、天才の描写と病み描写がゴミ。

上記の二つを徹底的に描きたいィ~あ~


キャラ設定資料

 《凡才》 

ぼっち 中二病 面倒 クズ 唯我独尊

自分を特別だと思い込んでいることを、理解しているのにも関わらず、自身を特別だと騙していることも、自覚している妄想キモ女

成績そこそこ 家族構成→? 大型犬を買いたいのであって、飼いたい訳ではない


 《天才》

知るか

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