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黒緋の勾玉が血に染まるとき  作者: 弍口 いく
第2章 鬼の記憶
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第3話 くノ一の宿命 その4

「いい匂いじゃないか」

 男たちは火にくべた魚を見ながら近付いた。

「釣ったのか?」


 突然の訪問者に、嫌悪感露にする花菜かなの横へ一人が断りもなく座り、もう一人は芙蓉ふようの横に腰を下ろした。

 もちろん、枕小町まくらこまちは認識していない。


「女二人じゃ心細いだろ、この辺りは熊も出るらしいし、俺たちが一緒に野宿してやるよ」

 馴れ馴れしく花菜の肩に手を回した。


 こういった輩には今までもさんざん遭遇してきた。くるまった布の下には、短刀が握りしめられているので、追い払うのは簡単だ。それとも芙蓉の夕食になるか? と思った花菜の頭にある考えが浮かんだ。


 花菜は男の手を振り払って立ち上がり、渓流に向かった。

「おいおい、どこ行くんだよ」

 へらへら笑いながら追いかける男。

「逃げ場はないぞ」


 花菜は川の中に進み、膝までつかったところで立ち止まった。

 男もザブザブと水音を立てながら入って来た。

 次の瞬間。


「わあっ!」

 男は足を取られて尻もちをついた。

 そこは浅瀬だったが、体全部が水中に沈んで立ち上がれない。

「なにっ!」

 必死で顔を上げて呼吸しようとするが、再び、水中に沈められる。


 男には見えていない、なにが起きているのか理解できなかったが、花菜の目にはちゃんと見えた。泡玉が塊となり、大きな波のように男の頭上から襲いかかっている様子が。


「助けてくれ!」

 その叫びも、水に飲み込まれたが、芙蓉の隣にいた男が、仲間の悲鳴を耳にして立ち上がった。


「なにしてるんだ、アイツ?」

「溺れてるみたいね」

「バカな、あんな浅瀬で」

 と言った次の瞬間、その男の頭が地面に転がった。


 爪を鬼化して、芙蓉は男の首を切り落とした。

 河原に転がった男の頭部、その顔は、なにが起きたのか把握していない、呆然とした間抜け面だった。


 一方、花菜を追って川に入った男は、うつ伏せになって浮いていた。

 その横をすり抜けて、花菜は岸に戻った。

 男はそのまま川の流れにのまれて岸から離れていった。


「寒ーい!」

 さすがに陽が落ちてからの水は冷たかったとみえ、花菜は体を震わせながら火に手をかざした。

「川になんか入るからよ、そんなことしなくてもあなたなら一撃でしょ」

「一撃は芙蓉じゃん」

 転がった生首を見て、ゾッと体を縮こまらせる花菜。


「泡玉がどんなふうに人を殺めるのか見てみたくなったのよ」

「悪趣味、鬼の残忍さがうつったの?」

 傍観していた枕小町が冷ややかに言った。


 芙蓉は蹴鞠のように男の首を川のほうに足蹴にする。

 生首も水に浮かびながら流されて行った。

 それから首を失った体のほうに屈み、腹に爪を食い込ませた。

 芙蓉は内臓を喰いはじめる。


 その光景は醜悪で、何度も修羅場をくぐって来たくノ一の花菜も胃液がこみ上げる気持ち悪さだった。

「いつかはあたしもああなるのかしらね」

 そう言いながら、花菜は男たちが残した荷物をあさりはじめた。


「あ、握り飯!」

 旅に備えた食料を見つけ出し、握り飯にかぶりつきながら他も物色した。

「この人たち、けっこう持ってたわね」

 財布を見つけ出した。


「これだけあれば、宿に泊まれるわよ、それに新しい着物も買えるわ」

「こういうところは、すごく現実的ね」

 お金を数える花菜を見て、枕小町はため息をついた。


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