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黒緋の勾玉が血に染まるとき  作者: 弍口 いく
第2章 鬼の記憶
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第3話 くノ一の宿命 その2

 逃げることも、抵抗する様子もないくノ一(くのいち)に、芙蓉ふようは冷ややかな目を向けた、

「投げやりね」


「どうせあたしの人生なんて糞みたいなもんだから、ここであなたに喰われてもいいかなって思って」

「死にたいの?」

「死にたい? そうね、自害しようとは思わないけど、別にいつ死んでもいいかな。言ったでしょ、糞みたいな人生が待ってるだけなんだもん」

 くノ一は虚ろな目で宙を見つめた。


「十六になったら里に戻され、かしらの子を産まされる、その後も十年は他の奴らに回されて、また子を産む、繁殖のための肌馬ってとこかな、その役目が終わればまた、くノ一の戻って死ぬまで外で働かされるのよ」


「十六になったらってことは、まだ十五なの?」

「ええ」

「名前は?」

花菜かな

「忍者の世界って、どこもそうなの?」

「あたしはそのために買われた子だから」


 ここに、芙蓉とは全く異なるが、過酷な運命を背負わされた者がいるのだと知り、胸が痛んだ。

 忍びの存在は知っていたものの、そんな理不尽な生活を強いられるとは知る由もない。山奥の狭い村で育った芙蓉は世間知らずだったことをまた思い知らされた。


「嫌なら、なぜ逃げないの?」

「抜け忍はどこまでも追われて必ず殺されるわ、それも見せしめとして残忍な方法で」

「そうなの?」


「忍者の身の上に興味を持つなんて、変わった鬼ね」

「元は世間知らずの山奥育ちの娘だったからね」

 突然、口を挟んだ枕小町まくらこまちを見て、

「あなたも鬼?」

 花菜と視線が合った枕小町は驚きに目を丸くした。


「あたしが見えるの?」

「見えるのって?」

「あたしは枕小町、夢を喰う妖怪、人間に姿は見えないはずなんだけど」

「妖怪なの?」

「見えるってことは、よほど霊感が強いのね」

「子供の頃から幽霊とかはよく見るけど、妖怪ははじめてかも」


「怖がらないとは、面白い娘ね」

「どうせすぐ死ぬんだから、今更怖いモノなんかないわよ」

 再び芙蓉を見て、

「あなた、元は山奥育ちの娘ってことは、さっき言ってたように鬼に噛まれて鬼になったの? どうして鬼に噛まれたの? なぜ殺されなかったの?」


 興味津々に瞳を輝かせる花菜に芙蓉は圧倒された。

「ど、どうでもいいでしょ」

「冥途の土産に聞かせてよ、人の話だけ聞いて自分は内緒なの?」


「そのくらいにしといたほうがいいわよ、今、芙蓉は満腹だから落ち着いてるけど、いつ鬼化して襲われるかわからないわよ、だから逃げるなら機嫌のイイ今のうちよ」

 枕小町が助言したが、花菜は儚げな笑みを浮かべた。


「いいよ、喰われても、だからあなたのこと教えてよ」

 花菜に、鬼である芙蓉に対する恐怖感はなかった。本当にいつ死んでもいいと覚悟が出来ていたからだ。

「お腹がすいた時に食べる弁当になってあげるから」


「面白いこと言うのね」

 枕小町は感心した。

「弁当か、霊力の強いあなたはご馳走だからね、じゃあ、持ち歩かなきゃね」

 芙蓉も花菜の言葉に乗った。


「あなたのお腹がすくまでってわけね、それでもいいか」

 花菜は屈託ない笑みを二人に向けた。


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