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黒緋の勾玉が血に染まるとき  作者: 弍口 いく
第2章 鬼の記憶

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第3話 くノ一の宿命 その1

 闇の中から飛来した苦無くないは黒い剛毛に弾き飛ばされた。

 鬼と化した芙蓉ふようにそんな武器は通用しない。


 続いて鎖鎌が鬼の首に巻き付いた。

 しかし、鎖を掴み力任せに引っ張る。

 忍者装束の屈強な男が引き寄せられてくるが、男の手には鎌が握られていた。


 切っ先が狙うのは鬼の眼。

 だが、到達する前に鬼は鎌を素手で受け止めて奪い取った。そして、次の動作で忍者の額に突き刺した。


 鎌は頭蓋骨を砕いて脳に達した。頭がポッカリ割れ、鎖鎌の忍者は敢え無く絶命して地面に転がった。


 群青の空に星が瞬きはじめた山中で、その死闘は繰り広げられていた。

 鬼と化して旅人を夕食にしていた芙蓉に、忍者が突然、襲いかかったのだ。

 なぜ襲撃されたのかはわからないが、たった三人で仕留められると思われたことが、妖力の強い鬼となった芙蓉には屈辱だった。


 無駄だとわかっているのに数本の苦無が飛来する。

 鬼にとっては煩い蠅のようなもの、しかし気を取られた隙に、手甲鉤てっこうかぎを装備した忍者が死角から接近した。


 鬼の脇腹に食い込ませる。

 手ごたえはあった。しかし、刺さったまま抜けない。

 見上げた忍者の首は、鬼の鋭い爪によってスパッと切断された。


 最後の一人は先の二人とは違い、小柄なくノ一(くのいち)だった。

 屈強な男たちがやられたのを目の当たりにし、逃げるという選択肢もあったはず、しかし彼女は果敢に立ち向かった。


 振り下ろされた忍刀を素手で掴んで真っ二つに折り、くノ一を吹っ飛ばした。

 全身を大木に打ち付けてから地面に転がったくノ一は、ヨロヨロと立ち上がったものの、後頭部を強打しており意識が朦朧としていた。その上、武器を破壊されて絶体絶命。


 くノ一は観念したのか、戦闘態勢を取らずに、だらりと腕を落とした。


(ここで死ぬのね)

 くノ一は静かに目を閉じた。

(つまらない人生だったし、惜しくはないけど……)

 閉じた目から涙が零れ、頬を伝った。


 意識が遠のいていくのを感じた。

(苦しまずに逝けるのが、せめてもの救い……)

 くノ一はその場に崩れ落ちた。



   *   *   *



 どのくらい時が経っただろう、くノ一は生きていた、そして目覚めた。

「やっと目が覚めたのね」


 凛とした声の主は、自分と同じくらいの年頃の美しい少女だった。くノ一を覗き込む長いまつ毛の二重の目、透けるような白い肌に紅をさしたように赤い唇の端正な顔立ちだった。


「えっ?」

 くノ一は驚きに目を丸くした。

 体を起こすと、頭と身体の打ち身が少し痛んだが、大きな怪我ではなさそうだった。


 そこは質素な掘っ建て小屋のような場所だった。

 なぜ助かったのか理解できないくノ一は、ただ茫然と鬼化を解いて人間の姿に戻っていた芙蓉を見つめた。


「あなたは誰?」

 芙蓉はくノ一の問いに、言葉では答えず瞳を赤く煌めかせた。

 それを見て、察したくノ一はガックリと肩を落とした。

「そう、鬼なのね……」


「あなたの頭巾を取って驚いたわ、まだ子供じゃない」

 芙蓉が驚くのも無理はなかった、果敢に攻撃してきた忍者は、芙蓉より年下に見える、まだあどけなさが残る少女だった。美少女とは言えないが、愛嬌のある可愛らしい女の子だった。


「あなただって鬼には見えないわ、人間に化けるのが上手なのね」

 くノ一は皮肉っぽい作り笑顔を浮かべた。芙蓉は気にせず、

「あなたたち、鬼が相手だと知って攻撃してきたの?」

「命令だったから」

「命令?」

「鬼の血を飲めば、不死身の身体を手に入れられると聞いた大名が、鬼の血をご所望なのよ」


「それは間違いよ、鬼の血は毒にしかならないわ」

 芙蓉は鼻で笑った。


「不死身の身体になるには、鬼に噛まれてなお生き延び、自らが鬼になること、鬼になったら人の心を失い、人を喰らって生きていくのよ、そうまでして不死身の身体が欲しいのかしら」

「知らないわ、どのみち任務に失敗したんだから、もうどうでもいいし」


「最初から無茶な任務よ、手練れの忍者とて人間が鬼に敵うはずないのよ」

「そうね、それで、あたしも食べるの?」

「どうしようかしら」


「好きにするといい、どうせ逃げられそうにないし、早く済ませて」

 くノ一は再び死を覚悟した。


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