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黒緋の勾玉が血に染まるとき  作者: 弍口 いく
第2章 鬼の記憶
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第2話 悪夢の旅路 その11

「なんか、面倒な時に来ちゃったみたいね」

 芙蓉ふようは孝子夫妻が慌てふためきながら出ていくのを見送った。


 ふと足元に鳥の羽が落ちているのに気付いて拾った。くすんだ玉虫色の不思議な羽が妖気を帯びていたからだ。

 枕小町まくらこまちがそれを見て、

「それ、姑獲鳥うぶめの羽じゃないかしら」


 ずっと芙蓉の隣にいたが、他の人には見えていなかった。

「姑獲鳥?」

「野党じゃなくて、きっと姑獲鳥の仕業ね」

「それは妖怪なの?」


「子供を攫うのよ、自分の子供を亡くした母親が悲しみのあまり妖怪になったと言われているわ、実際接触したことないから、どんな奴か知らないけど、子供を攫っては自分の子供じゃないって怒って食べてしまうのよ」


「それじゃ、亮太は」

 村人たちは野盗が忍び込んで攫っているのだと言っていた。妖怪の仕業だとは思ってもないし、話したところで信じないだろう。


 今は芙蓉にはどうすることも出来ない、とりあえずは言われた通り、孝子の家で待つことにした。


 その家は樹と暮らすはずだった新居に似ていた。土間の台所と居間には囲炉裏、あとは寝所、ただ芙蓉たちの新居とは違い、親子三人が暮らしている生活感、温もりが感じられた。


 孝子夫妻はいつまでたっても帰らない、枕小町が言う通りなら、子供はこの村にはいない、どこを捜しても見つかるはずないのだ。

 待ちくたびれた芙蓉はいつの間にか寝落ちしてしまった。



   *   *   *



 食べ物の臭いに気付いて起きた時は、もう日が暮れている様子だった。

 囲炉裏に鍋がかかっていた。


 きっと人間なら食欲をそそるいい匂いなのだろうが、今の芙蓉にはただの臭いだ、食べたいとも思わなかったが。


「ごめんなさい、放っておいて」

 泣き腫らした顔の孝子が言った。

「お腹空いでるでしょ」

 と椀を差し出した。


 とりあえず受け取った、一応口に入れなければならないだろうと思うとうんざりしたが、断るわけにもいかない。


「見つかった、わけじゃなさそうね」

 芙蓉は遠慮がちに聞いた。

「村中探したけど、いないの、やっぱり攫われたのよ」

 孝子は両手で顔を覆った。


 そんな孝子の肩を三太は優しく抱いた。

「夜は動けないから、明日の朝、腕に自信のある男たちと、野盗がねぐらにしている場所に乗り込む、これ以上、黙ってるわけにはいかないから、力尽くでも取り返す」


 そこに亮太はいない、そう言えないことがもどかしかった。

「大丈夫なの? 相手は無法者の集団なんでしょ」

「もう、守りを固めるだけじゃダメなんだ、攻め入られるのも時間の問題だし、打って出るしかない」


 こんな村には武器はあるようで、三太は日本刀を手にした。落ち武者から奪ったのだろうが、刃毀れしていて、切れ味は悪そうだった。


「明日に備えて、休もう」

「眠れるわけないじゃない、亮太のことが心配で」

「大丈夫だ、売り飛ばすつもりなら、殺されてはいないだろう」


 いいや、もう姑獲鳥に食べられているかも知れない、と芙蓉は最悪に事態を想像したが、口にするわけにはいかなかった。


 眠れないと言っていた孝子だったが、一日中駆けまわっていた疲れが出たのか、二人とも、いつの間にか爆睡していた。


 そんな夫婦の、決して安らかとは言えない寝顔を見ながら、夜更け、芙蓉はこっそり村を抜け出した。


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