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黒緋の勾玉が血に染まるとき  作者: 弍口 いく
第2章 鬼の記憶

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第1話 祝言の夜 その14

「この手で芙蓉ふようを殺さなければならないんだ」

 たつきは決意を込めた眼を上げた。


「仇討ちか」

「あいつは、里のみんなを殺した、俺の両親、妹も」

 皆の遺体を思い出し、憎しみが沸々と湧きあがると、樹の瞳が赤く変化した。


 それに気付いた聰賢そうけんは、額の護符に手を当てた。

「それではお前もあの娘と同じになってしまうで、憎しみは鬼の汚れた血を増幅させる」

 清浄な霊力を持つ聰賢に触れられて、瞳は元に戻ったが、樹の鬼化は時間の問題だった。


 樹は深呼吸をしてから、

「芙蓉は殺戮を続けるんだろ、止めなきゃならないんだ」


「芙蓉はいきなり大勢の人間を喰って、かなり力のある鬼になってしもた、同じ鬼でも、人も喰わず人の心を持ったままのお前ではとうてい敵わへん」

「じゃあ、どうすればいい?」

「修行あるのみ、鬼として劣るなら、拙僧のように法力を身につけることや」


 二人の話を聞いた紫凰しおは呆れ顔。

「この男にそんなことが出来ると思ってるのか?」

「やるさ、どんな修行も耐えてみせる!」

 強い光が宿る樹の瞳を見て、紫凰は目を細めた。

「面白い、見届けてやるよ、お前がどんな鬼になるか」


「見届けるだけじゃ足らへん、お前さんにも協力してもらうで」

 聰賢の発言に、紫凰は鼻にしわを寄せた。

「嫌だよ、あたしは修行なんかに付き合わないんだよ」


 いったんそっぽを向いたが、思い直して、

「でも、そうだね、うってつけの奴を紹介してやるよ、あたしより大きいし強いし、ただ、頭は少々弱いけどね」


「なあ、聰賢さん、ここは寺だよな、結界に護られた聖域じゃなかったのか? なんでこんな妖怪がいるんだ? 他にもいるみたいだし」

 まだ新たな妖怪が登場する予感に、樹は身震いした。


「拙僧がここを任された時は、すでにいたんや」

 すっかり馴染んでいる那由他と紫凰を、聰賢はバツ悪そうに見た。

「あたしはこの寺が創建された時から知ってるんだよ」

「あたしはそのちょっと後」


「この寺を邪悪なモノから護ってやったんだよ」

「いやいや、見物してただけやん」

 余計なことを言うなと猫パンチを繰り出す紫凰だが、那由他はまた難なく避けた。


「いろんなあやかしが出入りするけど、よこしまなモノや敵意のあるモノは結界に弾かれるし心配ない」


「さて、鬼はどうかな? お前が鬼化した時、寺の結界は受け入れてくれるかな?」

 紫凰は意地悪そうな目を樹に向けた。



   *   *   *



「ぎゃあぁぁぁ!」

 断末魔の悲鳴を上げる男。

 鬼化している芙蓉はその腹を引き裂いて、内臓を引きずり出していた。


 まだ息がある男は耐え難い苦痛に喘いで、体は痙攣し、白目を剥いていた。

 芙蓉はかまわず、取り出した内臓を食べる。


 おぞましい光景に、さすがの羅刹姫も顔を歪めた。

 まだ息があり、激痛に苛まれている男の首に糸を放った。

 次の瞬間、男の首はスパッと切り落とされた。


「いくら憎き綾小路の退治屋と言っても、生きたまま喰うなんて惨すぎるんじゃないか?」

 黙って見ていた枕小町をたしなめた。


「お前、コイツを任されたんじゃないの? 食事の作法くらい教えなさいよ、とどめを刺してからって」

「言おうとしたんだけどね、荒ぶってるから、聞きやしない」

「なにがあった?」


「実は……」

 枕小町は樹との経緯を簡潔に説明した。


「じゃあもう人に戻る理由は無くなったんだな」

「いいえ」

 心臓を食べ終え、芙蓉は人の姿に戻った。


「夫に拒まれて、お前の望みはついえたんじゃないのか?」

「たっちゃんは……運命の人じゃなかった、ただそれだけのことよ」

「えっ?」

 思いがけない芙蓉の言葉に羅刹姫は眉をひそめた。


 芙蓉は口元の血を無造作に拭いながら、

「あたしは山奥の小さな村しか知らなかった、男の人は彼しか知らなかったけど、広い世界に出れば大勢の人がいる、きっと運命の人は他にいるのよ」

 まだ赤い目を輝かせた。


「運命の人か、お前は夢想家だな」

「夢でも見なきゃ、この先、生きていけないでしょ、でも運命の人に出会うためには、まず人に戻らなきゃ」


「最初の目的とは違うけど、まあ、いいんじゃない」

 枕小町は羅刹姫に同意を求めた。

「好きにしな」


「必ず黒緋の勾玉を手に入れるわ、人に戻って、新しい幸せを手に入れるために」

 そう言った芙蓉の足元には、無残に食い荒らされた男の無残な屍が横たわっていた。


   第1話 祝言の夜 おしまい


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