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黒緋の勾玉が血に染まるとき  作者: 弍口 いく
第2章 鬼の記憶

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第1話 祝言の夜 その13

 門の両脇には仁王様が侵入者を見張っている悠輪寺ゆうりんじは、まるでそこだけ時が止まっているような佇まいの古寺だ。


 門をくぐると、右手には石のお地蔵様が微笑み、横に五輪塔が並んでいる。

 正面奥に本堂があり、それを守るように大きな銀杏の木が囲んでいる。秋も深くなると落ち葉が黄金の絨毯を敷くが、今はまだ色付きはじめた葉が鈴なりになっていた。


 御本尊の阿弥陀如来像が見下ろす本堂の中で、たつきは意識を取り戻した。

 鬼化した芙蓉ふようと聰賢の戦いに触発されて、封印を破り、鬼化がはじまった樹だったが、再び護符で封じられて意識を失った。

 その間に、黒い巨大猫にここまで運ばれてきたのだった。


 そこには聰賢そうけん那由他なゆた、そして巨大猫の正体、紫凰しおがいた。

「紫凰が進んで人と関わるなんて、珍しいやん」

「いやいや、コイツは人じゃないだろ? もう鬼なんだよ」


「なら、なおのこと、鬼は嫌いやろ」

「そうなんだけど」

 紫凰は、状況が把握できず額に護符をくっつけたままキョトンとしている樹をマジマジと見た。


「ちょっと好みのイイ男なんだよ、鬼になるのが残念だよ」

 市松人形のような愛らしい姿だが、鬼化がはじまっている樹は、彼女の強い妖気を感じて思わずのけ反った。

「助けてやったのに、つれないね」

「え……」


「紫凰は化け猫なんや、こう見えても何千年も生きてる大妖怪なんや」

「化け猫言うな!」

 紫凰は猫パンチを繰り出したが、那由他は難なく交わして続けた。

「この悪趣味な姿に惑わされんようにな、さっきは気を失ってたし見てへんかもしれんけど」


「見たよ、巨大な黒猫、それがアンタだったんだな」

 もう少々の化け物には驚かない。

「助けてくれたんだ、ありがとう」


「けど、なんで都合よく現れたんや?」

 聰賢が不審そうに眉をひそめた。

「ちょっとね、気になることがあったんだよ、案の定あんなことになってて」

「気になることって?」


「偶然なんだけどね、あのが鬼に噛まれるところを目撃したんだよ」

「あの娘って、芙蓉のことか?」

 樹は思わず前のめりになった。


「あの時、あの娘はあそこで死ぬべきだったんだよ、噛まれたのに羅刹姫らせつひめが助けちゃったから鬼になったんだよ、羅刹姫の気紛れを見逃したこと、少し責任を感じてたからね」


「羅刹姫はなんであの芙蓉って子を助けたんや?」

 那由他が不思議そうに聞いた。

「生きたいと強く願ったから」

 紫凰は樹を真っ直ぐ見つめた。

「お前と祝言をあげたいと願うあの娘の願いを、羅刹姫は聞き入れたんだよ」


「その、羅刹姫ってのも、鬼なのか?」

 さっきから名前だけ出ている羅刹姫に、樹は会ったことがない。

「いいや、もっとたちが悪いんだよ、数多の妖怪をその身に取り込んで蘇った、元は人だったんだよ」

「人にそんなことが出来るのか?」


「強い願いを持っていたんだよ、そして、強い霊力を持っていた、だからそんな離れ業が出来てしまったんだ、可哀そうな女なんだけどね」

「可哀そう? あのいけず女が」

 那由他は口を尖らせた。


「とにかく、芙蓉って娘は願いが叶ったら自ら命を断つと言っていたけど、間に合わなかったんだね、それで、あそこまで凶暴な鬼になるなんてね」


「優しい子だったのに、鬼になっている間は自我を失くすんだな」

 樹の脳裏に芙蓉と過ごした日々が一気に蘇った。彼女の屈託ない笑顔が……。

「意識がなかったとはいえ、自分がしてしまったことにさぞ心を痛めているだろう」


「それはどうかな」

 紫凰は冷ややかに言った。

「もう人ではないんだよ、人の姿の時も前とは違うんだよ」


 そう言われて樹はハッとした。

「確かに……他人を犠牲にしてまで生き延びようなんて考える子じゃなかった、自分の事より、他人の事を考える子だったのに」


「あの子はもう人やない、人を喰ってしもたしな、これからも喰い続けるやろう、黒緋くろあけ勾玉まがたまをみつけるまで」

 那由他の言葉に紫凰は目を丸くした。


「黒緋の勾玉? そんな話、どこで仕入れてきたんだ?」

「それは知らんけど、そんなもん、ほんとにあるんか?」

「黒緋の勾玉は存在するんだよ、千年程前、吸血鬼が持ってるのを見たことがあるよ」


 聰賢も腕組みしながら、

「綾小路家の古書に記されてるのを見たことがある」

「眉唾もんやなぁ」

 那由他はそう言いながら、ハッとして樹に目をやった。


「けど、それがほんまやったら、先に手に入れたら、アンタ、人間に戻れるんちゃうか」

「俺は……」

 樹は戸惑い、複雑な表情で思案した。


「俺はその前にやることがある」

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