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黒緋の勾玉が血に染まるとき  作者: 弍口 いく
第2章 鬼の記憶

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第1話 祝言の夜 その10

「えっ?」

 聰賢そうけんの意外な言葉に、たつきは驚いて顔を上げた。


「かつて、陰陽師やった安倍晴明は上一条戻り橋の下で鬼を飼ってたと言う、陰陽師に出来たんやったら、拙僧にも鬼を飼い馴らすことができるやろう」

「俺を飼う?」


「鬼化しても人の心を失わへんよう、修業してやるとうてるんや」

「無茶なこと思いつくなぁ、飼い鬼に噛まれても知らんで」

 那由他は呆れた。


「お前さんの精神力次第や。このまま普通の鬼になるか、人の心を持って踏みとどまるかは、お前の意志にかかってる。もし、邪悪な鬼の血に負けて、完全に鬼と化して自我を失くしたら、拙僧はお前さんを殺すことになる」

「修行を積めば、人の心を保つことが出来るんですか?」

「約束は出来ひん、初めての試みやさかいな」


「やってみる、やり遂げて見せる! 何をすればいいんだ」

 樹は前のめりになって、聰賢に迫った。

「焦るな、ここではなにも出来ひん」


 聰賢は少し考えて、

「日も暮れた、今日は山から下りられへんやろ、とりあえず」

 聰賢は懐から矢立やたてを取り出した。


「鬼化を遅らせる施しをしよう、胸を出しや」

「あ、ああ」

 樹は襟ぐりを大きく開けて、逞しい肌をさらした。

 聰賢は墨を付けた筆で、心臓のあたりになにやら文字を書いた。

「なんです?」

 読み書きが出来ない樹にはわからない文字だった。


「封印の文字や、これでしばらくは鬼化を遅らせることができるやろ、修業は悠輪寺ゆうりんじに戻ってからや」

「悠輪寺?」

「拙僧の寺や、そこは結界に護られた神聖な場所やさかい、そこへ入るだけでも、鬼の血に毒されたお前さんはしんどいで」


「浄化されて消えてしまうかもな」

 那由他が茶化した。

「こらこら」

 聰賢はたしなめるが、那由他はまだ不服そうだ。


「ほんまに連れて帰るつもりなんか?」

「これもなにかの縁、御仏のお導きかも知れへんし」

「そうかなぁ」

「今日はもう寝よ、明日は早よ発つで」

「まさか、あの血生臭い中で寝るんちゃうやろな」

 那由他は気持ち悪そうに寺の中に目をやった。


「そうやな、あそこではちょっと」

「なら、村長の家に、すぐそこだから、勝手に上がっても文句言う人はいないし」

 樹は聰賢を村長の家に案内した。



   *   *   *



 目を閉じても眠れない。

 血の海に横たわる村人たちの恐怖に歪んだ顔が浮かんでは消える。そして、鬼に襲われる芙蓉の姿……それは見ていないのだが、想像するだけで背筋が冷たくなる。布団を頭からかぶっても、寒気は収まらなかった。


(なんでこんなことになってしまったんだ……、幸せの絶頂から奈落の底に突き落とされるなんて、俺たちがなにをした、芙蓉との未来がなくなってしまうなんて)


 横で聰賢の寝息が聞こえた。

 熟睡しているようだ。大勢の墓穴を掘った重労働で疲れているのだろう、無理もないと樹は思った。

 那由他はいつの間にか消えていた。


 聰賢の話によると、人間が住む現世うつしよと、死後の世界、幽世かくりよの間には、あやかしたちが住む妖世あやしよという空間がある。それは現世と隣り合わせにあるが、人は気付かない、立ち入れない場所だ。

 那由他はその空間をどこからでも自由に行き来できる妖なので、神出鬼没、この村から遠くの悠輪寺までもひとっ飛びに移動できる、一人で寺に帰ったのかも知れない。


(その寺には、あんな妖が他にもいるんだろうか?)

 まだ行ったことのない場所に、樹は思いを馳せた。

 そこで、鬼にならないための修業がはじまる。


(俺はやるさ、この人の飼い鬼になってみせる。そして芙蓉を待つ、必ず助っ人を連れて戻るはずだ、俺を置いて一人で逃げるはずないからな、そして、村を襲った鬼に復讐する)


 樹は決意を再確認した。


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