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黒緋の勾玉が血に染まるとき  作者: 弍口 いく
第1章 右目の悪魔

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第5話 イヴの夕暮れ その11

 芙蓉ふようにそう言われて、仁南になは地面に横たわるはるかを見た。

出血が止まり、顔に生気が戻っている。

「お前より顔色が良くなったわよ」


 仁南は穏やかに眠っているような遥の顔を見て、力なく微笑んだ。そして芙蓉を見上げた。


「なぜあたしを助けてくれるの? 勾玉が目的なら奪えばいいのに、この間だって」

「お前は」

 芙蓉は愛おしそうに仁南を見下ろした。


 次の瞬間。

 芙蓉の目が赤く鬼の目の輝きを放った。

 そして、素早く仁南から離れた。


 珠蓮じゅれんの鋭い爪が避けた芙蓉の頬を掠めた。

 仁南が芙蓉に襲われていると思った珠蓮の一撃。


 芙蓉は避けた動作で距離を取った。

「助けてやったのに」

 次の攻撃に備えながら珠蓮にぼやいた。

「なに?」

「ほんと……よ」

 今にも横たわりそうになりながら座っている仁南が、息も絶え絶え言った。


 芙蓉は不敵な笑みを浮かべ、

「その子、早く病院へ運んで輸血した方がいいわよ」

 仁南の服は血に染まっている。そしてその横に遥が横たわっているのにも気付いた。


「この血は」

「遥のだけど、彼はもう大丈夫よ、傷はふさがっているし」

 芙蓉が答えた。


「どういうことだ!」

「仁南が右目を使って助けたのよ、無茶をしたのよ、死にかけていた遥を助けるためには、それに見合う血が必要よ、自分の命を削るほどの」

「なんの話をしているんだ!」

 話しが読めない珠蓮は苛立った。


「仁南の右目には黒緋の勾玉が宿っているのよ」

「黒緋の勾玉が右目に?」

「勾玉のことは知っていたようね」


「ああ、お前がずっと捜してることもな、勾玉を追えばお前を見つけられると思っていたんだが、どこにあるか全く手掛かりが掴めなかったのに、こんな近くにあったとは」


 銀杏の森で初めて仁南と会った時に感じた違和感、右目が変だとは思ったが、まさか黒緋の勾玉とは思いもよらなかった。しかし、目の中にあるのでは取り出せないではないか?


「ボーっとしてないで、早く二人を助けたほうがいいんじゃない?」

 困惑している珠蓮に芙蓉は言った。


(今はそうするしかないのか? ここで芙蓉と戦っている間に、仁南が死んだら……)

 珠蓮は歯噛みしながら芙蓉を睨みつけた。


 二人はしばし視線を戦わせたが、

「お仲間の到着ね」

 こちらへ向かってくる白い大蛇に乗った流風るかの姿が見えた。


 芙蓉はそれを見ながら後退した。


 珠蓮は追うのをあきらめて、仁南を抱き上げた。


「遅い!」

 貉婆むじなばあの案内で一緒にここへ来たはずが、なぜか到着が遅れた流風とかすみを、珠蓮は怒鳴りつけた。

 流風は大蛇の背から降り、大蛇は人間の霞の姿に変化へんげした。


「霞が」

 流風は霞に冷ややかな視線を流した。

「目が眩んで、つい、蝦蟇がまはご馳走だから」

 霞は先が二つに割れた舌をペロリと出した。


 逃げようとする蝦蟇の兄弟を食べていたとわかり、珠蓮はげんなりした。

 流風は横たわる遥の様子を窺った。

「気を失ってるだけ、でもこの血、なにがあったの?」

「話は後だ、早く仁南を病院に連れて行かなきゃ」


「貉婆、二人を連れて行ってやれ」

 すぐに状況を察した霞が、

「無理をしたんだな」

 仁南の頬を優しく撫でた。


「仁南を死なせるな」

 貉婆は頷いて、両手で黒い穴を作った。


「ほな、行こか」

 貉婆と仁南を抱いた珠蓮は黒い穴に吸い込まれて消えた。


 それを見送ってから、

「さっき、ここにいたのは芙蓉って鬼だったわね、ハルは彼女と来たのかしら」

「そうだろう、仁南を助けに」

「なぜ?」

「それは知らん、あとで遥に聞けばいい」

 気を失ったままの遥を見下ろす、そして、少し離れたところにさつきの姿も見つける。


「二人とも連れて帰るか」

「ええ」

「で、隠れていても臭いでわかるぞ」

 隠れていた生き残りの蝦蟇に目を光らせた。


 岩の陰で震えていた蝦蟇が顔を出した。

「わたしの鼻先で勝手なことをして許されると思うのか」

「お、お助けを」


「まあ、そうはいっても、お前たちは人に危害を加えるような大それたことをする種の妖怪ではないのは知っている、妖狐ようこに里を奪われなければ現世に出てくることもなかっただろうしな」


 霞は大きなため息をつくと、

「仕方ない、見逃してやろう、だが、妖狐に奪われた場所はあきらめろ、仲間を増やして、また一から創り直すんだな」


 生き残った蝦蟇たちに睨みを利かせた。


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