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黒緋の勾玉が血に染まるとき  作者: 弍口 いく
第1章 右目の悪魔

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第5話 イヴの夕暮れ その4

 真琴まことに連れさらわれてから、はるかは図書室に現れなかったが、『正面玄関で待つ』とLINEが来たので、仁南は靴を履き替えてから、遥の姿を捜した。


 しかし、先に見つけたのは、

「今、帰り?」

 天野圭一だった。


「天野先輩、部活終わったんですね」

「俺もちょうど帰るとこ、そこまで一緒に行こ」

 圭一はごく自然に誘った。


「え、えーっと」

 予想していなかった言葉に仁南は戸惑った。


「悪い、待ったか?」

 そこへ遥が来たので仁南はホッとした。

 遥を見て気まずそうに苦笑いする圭一を、遥は一瞥するが、

「帰ろ」

 仁南に言った。


「先約があったんか、じゃあ、また今度」

「今度はないっすよ、ずっと俺で埋まってますから」

 遥はすかさず圭一に挑戦的な目を向けた。

「そうなんや、残念」

 圭一は軽く流したが、目は笑っていなかった。


 そんな二人の間で、交互に見上げながらオロオロしている仁南の手を遥は掴んだ。

「行くぞ」

「じゃあ、先輩、さよなら」

「バイバイ」

 圭一はバツ悪そうに小さく手を振った。


 遥に手を引かれていく仁南の頭には妄想が浮かんでいた。


(一人の少女を挟んで二人のイケメンが睨み合うなんてシチュエーション、鉄板じゃない。ヒロインの心はまだハッキリせずに揺れている。二人のイケメンも彼女に告ったわけではないが、お互いライバルには渡したくない。そして……)


 トリップしかけていた仁南の手を、遥はグッと引き寄せた。

「戻ってこ~い」

「えっ」

「お前、また妄想しただろ」

「いえ、あの……」


 図星をつかれて恥ずかしかったのと、手を繋いでいることも気になって仁南ははにかみながら俯いた。


 そんな彼女を見て遥は吐息を漏らした。

「余計なこと言ったかな、俺で埋まってるって」

「弓の稽古のことでしょ?」

「あ、ああ、そうだけど、誤解させる言い方だったし」

「誤解って?」

「せっかくカッコイイ先輩に誘われたのに」

 遥は少々不満げ。


「誤解はハル君よ、あんな冗談真に受けなくていいわよ、弥生ちゃん情報だと、天野先輩、彼女いるらしいし、あたしはからかわれただけだから」

「そうか? そうは見えなかったけど」


「あたしなんかに寄って来るのは、妖怪だけでしょ」

 と言って、仁南は急に宙を見つめた。

「まさかね」


 急に曇った仁南の表情を見て、

「なんか気になるのか?」

 遥は顔を覗き込んだ。


「いえ、なんでもない」

 と言いながらも仁南は気にかかるようで歯切れが悪かった。


「妖気はなかったけど、寄蟻やどりぎの件もあるしな、俺たちでも察知できない妖怪もいるってことだ、でも、隠れ上手は力のない小妖怪が多いから」

「小妖怪でも、普通の人には危険でしょ」


「妖怪がうろついてる情報は入ってないけど、確かめてみるよ、今日は遅くなったから、弓は明日からにしよ、寺まで送る」

「ありがとう」


 いつもの表情に戻って微笑む仁南の顔を見た遥は、無意識に握っていた手に気付いてハッとした。そして脳裏に真琴の言葉が過ぎった。

〝仁南を解放してあげて〟

 急に離すのも不自然なのでそのままにしたが、心がチクッっとした。





 手を繋いで校門から出ていく仁南と遥の後姿を、圭一は残念そうに見送った。

「誰?」

 いつの間にか山倉やまくらさつきが横に立っていた。

 長身でショートカットがよく似合うボーイッシュな感じの二年生、バスケ部で天野圭の彼女だ。


「一年の図書委員の子」

「なんで誘ってたん?」

「さっき、お世話になったし、お近づきにと」

「あたしが待ってるのに?」

「ああ、忘れてた」

 悪びれる様子もなく圭一は言った。


「忘れるなんてありえへんやろ、いつも一緒に帰ってるのに」

 そんな彼を皐は訝しげに見た。

「なんか昨日から変やで、どうかしたん?」

「別にどうも」


「うわの空でなに考えてるかわからんし、あんな一年生をナンパしようとしたり」

「ナンパちゃう、ちょっと声かけただけでヤキモチか?」

 圭一は無造作に皐の肩を抱き寄せた。


「お礼言おうとしてただけやし」

「そう?」

 しかし、皐は半信半疑、激しく違和感を覚えた。





 圭一と皐が出ようとしている校門の横には桜の木が植えられている。

 花は散って葉桜になっているが、その根元に蠢くものがあった。


 雑草を揺らしているが、姿は見えない。

<せっかく近付くチャンスだったのに阻まれた>

<綾小路の退治屋だ>

<けど、見破られてはいない>

<そうだ、一郎兄の擬態は完璧だ>

<二人とも気付いていない>


<けど、退治屋が張り付いていては近付けない>

<どうする?>

<どうしよう>

<退治屋に気取られては、我らなどひとたまりもない>


<強力な護符を常備しているからな>

<封印される>

<いや、滅除される>


<人間を使おう、あの女なら油断するだろう>

<擬態ではなく操ろう>

<出来るか?>


<あんな霊力も何もない人間なら、操るのは容易だ>

<ではそうしよう>

<そうしよう>





「どうしたん、またボーっとして」

 皐はトリップ状態に見える圭一の顔を覗き込んだ。


「あ、ああ、なんでもない」

「具合でも悪いの?」

 心なしか圭一の顔色が悪く見える。なにかが変だと感じている皐だったが、ハッキリとはわからない。


「練習ハードやったしな、ちょっと疲れたかも」

「そう?」

「ちょっとうち、寄ってかへんか?」

「どうしたん、急に」

「アカンか?」

 圭一はねだるように皐に顔を近付けた。


「別にいいけど」

 少し頬を赤らめながら、皐は頷いた。


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