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黒緋の勾玉が血に染まるとき  作者: 弍口 いく
第1章 右目の悪魔
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第5話 イヴの夕暮れ その3

 図書室からはるかを連れ出した真琴まことは、中庭まで引っ張ってきた。


流風るかから聞いたで、仁南になに弓道教えるって?」

 立ち止まると同時に、責めるように言った。


「ああ、そのこと」

「なんでアンタなん? 下手糞なくせに」

「得意じゃないけど、基礎はキッチリ叩き込まれてるし」

瑞羽みずはねえのほうが適任やん」

「いいだろ、俺でも」

 遥はムッとして、掴まれていた腕を振り払った。


「いい加減、仁南を解放してあげて」

「なんだよ、俺がまるで束縛してるみたいな言い方」

「そうやろ、目的もハッキリしてるし」


「……」

「前にもうたけど、イイ子なんや、利用するのはやめて」

 キツイ目を向ける真琴から、遥は目を逸らした。


「わかってる、心配するな、傷つけるようなことはしないから」

「なんにもせんでも……」

「とにかく、今のアイツに弓は必要だって、重賢じゅうけんさんも言ってたし」

 遥は目を合わさないまま背を向けて、真琴から離れた。


「もう、ほんとにわかってんの?」

 真琴は納得できない表情で遥を見送った。


 そこへ、二人の会話を聞いていたとおるが、

「そんなに心配せんでもエエんちゃう?」

 むくれている真琴の横に立った。


「真琴の気持ちもわかるで、仁南ちゃん見てたら、昔の自分を思い出すんやろ、生まれつき霊力が強い仁南は、子供の頃からあやかしに纏わりつかれて嫌な目に遭ってきて、友達もなかなか出来ひんかったらしいし……、真琴の場合は妖力のせいで、周囲の人に悪影響を与えてしまうってことやったけどな、そのせいで友達もできひんかったのは同じ」


 半妖である真琴は、幼い頃はさんざん嫌な目に遭った。ほかの人とは違う自分が嫌でたまらなかった。


「けど、今はちゃうやろ」

 澄はいつも真琴の心の中を見透かしてしまう。鬱陶しい時もあるが彼の優しいまなざしは真琴を安心させてくれる。


「真琴にとっての俺が、仁南ちゃんにとってはハルにならへんかな」

 澄は調子に乗って真琴に顔を近付けた。


「ちょっと、ここ学校やし」

 キスをされそうになった真琴は両手で阻止した。

「アカンか?」

「アカンやろ」

 澄はガッカリしながら身を引いた。


「ハルは仁南を利用してるだけや」

 真琴はすぐに話を戻した。

「そうかなぁ、波長が合うし霊力がもらえる、そんなに相性がイイんやったら、きっと体の相性も……」


「こらぁ! 貉婆むじなばあみたいな発想はやめてや、仁南はまだ夢見る乙女なんやし」

「ゴメン」

「まあ、ハルもそれはわかってると思うけど」


「ああ見えてハルは紳士や、仁南ちゃんを傷つけたりせえへんよ」

「けどな、ハルにとってはただ霊力をもらうためなんやけど、あんな風にくっつかれて、平気でいられる女子はいーひん」


「確かに、あの綺麗な顔やもんな、俺でもドキッとするわ、けど、彼女もそんなに嫌がってないし」

「それが怖いんや、本気になったら」


「真琴の口ぶりやったら、仁南ちゃんはハルを好きになるけど、その逆はないって決めつけてへんか? それってなにげに失礼(ちゃ)う?」

「ハルが仁南を? 考えられへんやん」


「なんで? ハルは仁南ちゃんのこと気に入ってると思うけど、寄蟻やどりぎ事件の後、避けられて悩んでたし」

「今のハルに恋愛とか、女子をそんな目で見る余裕なんかないと思う」

「なんで?」


「ハルは四年前の事件以来、心閉ざしたままや、表面的には平気そうに見せてても傷は癒えてへんのや、仇の鬼を捜し出すことに執着してる、鬼と戦うために今以上の霊力がどうしても必要なんや」


「仇……か、四年間の事件、俺はまだみんなに出会ってなかったし、当時のことはわからんけど、仁南ちゃんとの出会いが、そんなハルを変えるきっかけになるかも知れん、重賢さんはそう考えてるんちゃうかな」


「それって、重賢さんまで仁南を利用してるってこと?」

「タヌキやしな、あのじいさん、けど人を見る目はあるやん、最初から二人が相性イイってわかってたん違う? お互いが相手を必要と感じたらうまくいくやん」


 澄の楽天的な考えに、真琴は大きな吐息を漏らした。

「そう簡単じゃないような気がする、なんか嫌な予感がするねん」

「でたぁ! 真琴の予感はよう当たるし怖いわ」

 澄はわざとらしく腕組みをした。


「そうなると……注意して二人を見守らなアカンな」


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