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黒緋の勾玉が血に染まるとき  作者: 弍口 いく
第1章 右目の悪魔
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第5話 イヴの夕暮れ その2

 放課後の図書室で仁南になは返却された本を棚に戻していた。

 今日は図書委員の当番で、完全下校時間まで作業することになっていた。


 寄蟻やどりぎに襲われた中村邦夫は行方不明のまま、家出人扱いになっている、結局、一緒に当番をすることはなかった彼を思い出すと胸が痛んだ。


 今日は1年3組の井坂いさか弥生やよいとペアだ。彼女は明るくて気さくな子で、今日は気楽に過ごせるとホッとしていた。上級生だと少し緊張する。


「すみません、図書委員さん」

 声をかけられて振り向くと、制服の胸元だけがみえた、声をかけた男子は見上げなければならない長身、爽やかなスポーツマンタイプだった。


「このリストにある本、どこにありますか? 先生に頼まれて」

「はい」

 仁南はメモを受け取った。


「明日の授業に使うらしいけど、日直やからって最後の最後までこき使われて、よ部活行きたいんやけどな」

 男子生徒が愚痴をこぼしている間に、仁南は迅速に本を抜き出した。


「これで全部ですね」

「早っ!」

 数冊の本を手渡されて男子生徒は驚きの目を向けた。


「ありがとう、助かった」

 男子生徒は白い歯を覗かせながら仁南を見下ろした。

「俺は2年4組の天野あまの圭一けいいち、君は?」

「1年5組の佐伯仁南です」

「仁南ちゃんか、可愛い名前やな、ちなみに俺、バスケ部やねんけど、明後日練習試合あるし、応援に来てくれへん?」


「え、えっと」

 いきなりそんなことを言われて戸惑う仁南の頭に、圭一はポンと手を置いた。

「君が応援してくれたら、頑張れそうやし」

 爽やかな笑みを残して去って行った。


「バスケ部か、どおりで背が高いと思った」

 はるかより長身だったな、190以上あるかも、と仁南は彼の後姿を見ながら思った。そして素敵な王子様タイプは他にもいたんだと……。


「知らんの? バスケ部の二年生エース天野圭一君って有名人やで」

 ボーっと見送っていた仁南を、弥生は肘でつついた。


「そうなの?」

「うちのバスケ部、けっこう強いんやで、パワーフォワードの天野君はダンクも得意で、メチャカッコイイって、女子から大人気やし、声かけられただけでも羨ましがられるで」


「声かけられたって、図書委員だからでしょ」

「練習試合見に来てって誘われてたやん、で、行くの?」

 茶化すように肘でグイグイ押す弥生に、仁南は戸惑い顔。


「あ、そうやった、佐伯さんにはもっとカッコイイ彼氏いるもんな」

「えっ?」

「綾小路遥君、入学当時からベッタリやん」

「違うわよ、彼氏とかじゃないし」

「今更隠さんでもエエやん」

「だから」


 その時、弥生の視界にこちらへ向かって歩いてくる遥が入った。

「ほら、お出ましやで」

「えっ?」

「佐伯さんが当番の時は必ず現れるって、ほんまやったんや」


 仁南の角度から遥の姿は見えなかったが、

「まだ終わらないのか?」

 背後から、覆いかぶさるように遥は顔を近付けた。


 その様子を見てキュンとしたのは、見ていた弥生の方だった。

「はじまったばかりでしょ、今日は最後までいるのよ」

 遥の接近に慣れてしまった仁南はもう動じない。

「え~っ」

 遥は不服そうに近くの席に座った。


「先に帰ってくれていいよ」

「少女漫画でも読むかな、持ってきてくれよ」

「なんで少女漫画なのよ」

「お前の思考回路を分析しようかなと思って、お前、今、3パターンくらい妄想しただろ」

「なにを?」


 遥は頬杖をつきながら、意味ありげに仁南を見上げた。

「カッコイイよな、バスケ部の天野君、俺より背高いし、大人っぽいし」


 そんな遥に弥生は意外そうな目を向けた。

「それって、ヤキモチ?」

 弥生の発言に遥は少々うろたえた。

「違うし! おれはただ」


 そこへ、慌ただしく真琴まことが入って来た。

「いたいた」

 遥を見つけると、いきなり腕を引っ張って立たせた。


「やっぱりココやった、ちょっと来て」

「なんだよ」

「ハル借りる」

 有無も言わさず、引きずるようにして、アッという間に連れ去った。


「ゴメンね、騒がしくて」

 アッという間に出て行った二人を見送ってから、仁南は弥生に申し訳なさそうに言ったが、

「七瀬真琴先輩、いつ見ても綺麗やなぁ」

 弥生はうっとりしながら見送っていた。


「真琴さんを知ってるの?」

「知ってるもなにも、超有名人やん、女優の七瀬(すみれ)と作家の七瀬掬真(きくま)の孫やろ、そんであの美貌やん、この学校で知らん人はいーひんのちゃう」

「そうなんだ」

 確かに目立たないはずはない。


「あの二人は親戚やんな、あの家系は美男美女ばっかりか? 沢本侑斗(ゆきと)君も、二年の綾小路流風(るか)先輩も」

 確かに、みんな美形に違いないが、

「なんでそんなことまで知ってるの?」

「みんな目立ってるもん、佐伯さんもやで」

「あたし?」


「あんなイケメン、どうやってゲットしたんやろって」

「だから、付き合ってないって」

「いやいや、あの距離感は彼彼女カレカノの距離やで」


「ハル君、そういうの気にしないみたい」

 近くにいるだけでも霊力がアップを感じるらしいので、無意識に接近してしまうのだろうが、そんな話を弥生には出来ない。


「あたしやったら、あの顔であんなにくっつかれたら心臓止まるわ」

 それはわかる、仁南も心の中で同意した。最初はそうだった、仁南もドキドキが止まらなかったが、今はそうでもない、慣れとは怖いものだ。


 自分と遥の相性がいいのは霊力の波長だけ、心の相性はまったくの別物だから、そこは間違えないようにしなければならないと仁南は常に自分に言い聞かせているのだが……。


「ハル君が小さい頃からお世話になってる和尚さんのお寺に、あたしが居候してる関係から、色々親切にしてくれてるだけなのよ」

 この説明は色々な人に何度となくした。


「そうか? それだけの関係には見えへんけどな」

 弥生はそれでもなお疑いの目を向けた。


「だいたいあんな王子キャラ、本来は遠くから見てるほうがしっくりくるのよ」

 仁南はため息交じりに言った。

「遠くないやん」

「だから困るのよ、いろいろ見えちゃうし」

「たとえば?」

「あたしよりまつ毛長いし、お肌スベスベだし、髪もサラサラでいつもいい匂いがetc」


「イイとこばっかりやん」

「そうなのよ、あたしの妄想超えちゃうし」

「妄想って、あ、そやしさっき少女漫画って」

「ハル君、あたしの妄想癖知ってるし、きっとキモイと思われてる」


「佐伯さんって、面白いとこあるんやな、仁南って呼んでエエ?」

「もちろん」

「あたしは弥生な」


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