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黒緋の勾玉が血に染まるとき  作者: 弍口 いく
第1章 右目の悪魔
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第4話 鬼の伴侶 その14

「花嫁惨殺の犯人は、金之助とかいう男の鬼だったんだな」


 瑞羽みずはに確保され、悠輪寺ゆうりんじの庫裏に留め置かれていたはるかは、仕方なく流風るかを待っていたが、戻ったかすみから、事の顛末を聞かされた。


 瑞羽はさっそく綾小路本家へ報告しに戻った。

 しかし、霞の話は真実ではなかった。


 瑞羽に、流風が負傷した経緯など、根掘り葉掘り聞かれて面倒になった霞は、すべて金之助の犯行にしたほうが簡単だと思い、あとで流風が知れば怒るだろうなと思いながらも、強引にそうしたのだった。


 銀杏の森で流風から幸恵さちえの真相を聞き、――流風はあの時、芙蓉ふようと幸恵の話をすべて聞いていた――事情を把握した。幸恵は母と妹、義父に復讐を果たした後、芙蓉に殺された。


 それはきっと彼女も望んでのことだったのだろうと察した。この先、鬼として生きていく人生より死を選んだのだろう。


「流風はまだ森に?」

 遥は霞に尋ねた。

「ああ、拗ねておるのだ、珠蓮じゅれんに当て身を食らわされて気絶したことが気に入らんようだ」

「レンもなんでそんなことを」

「早く森へ行ったほうがいいと言うのに、流風が聞き分けなかったからな」


 流風は銀杏の森へ到着後すぐに意識を取り戻した。傷はたいしたことなかったものの、珠蓮を置いて自分だけが連れて来られたことが不満で超不機嫌、霞は話を聞いた後、早々に逃げてきた。


「助けてやったのに怒られてしまった、理不尽なことだ」

 霞は不服そうにリビングのソファーでふんぞり返っていた。


「で、レンは?」

貉婆むじなばあの小屋だ、森の霊気に触れたほうが早く治るのにな、奴も気まずいのだろう」


「じゃあ、犯人はあの子じゃなかったんですね」

 仁南は霞の虚偽報告を信じてホッとした。

「あの子とは?」

「流風さんが公園から追っていった中学生くらいの鬼の女の子」


 芙蓉に殺された鬼の少女、幸恵のことだとわかったが、

「わたしが会ったのは、芙蓉と名乗る鬼だけだ」

 霞が見たのはすでに殺された彼女の屍なので、生きている幸恵とは会っていないという意味では嘘ではない。


「芙蓉さんに会ったの?」

「知り合いか?」

「アイツはレンの仇だ」

 遥が代わりに答えた。


「仇とは?」

「レンの家族を殺した鬼だよ、ずっと捜してたんだ」

「そういう事情だったのか、何かいわくがありそうだったが、珠蓮はそんな事、言わなかったからな」


「霞が一緒なら、加勢してもらえば仇討ちできたかも知れないのに、なぜチャンスを生かさなかったんだろ」

「流風の傷が心配で、気が回らなかったのではないか?」

「せっかく見つけたのに、バカ鬼が」


「珠蓮さんはきっと、霞さんの手を借りるんじゃなく、自分で仇討ちしたかったんじゃないかしら」

 仁南が独り言のように言った。


「なぜそう思う?」

 霞はそれを聞き逃さなかった。


「なんとなく、彼の性格なら……」

「なんでお前がレンのことよくわかってる風なんだ」

「珠蓮さんはよくここへ来るし、旅のいろんな話を聞かせてくれるわ、話しやすくて楽しいし、きっと相性がいいのよ」


「相性がイイのは俺だろ、なんで鬼なんかと親しくなってるんだよ」

 唇を尖らせる遥を見て霞は笑った。

「男のヤキモチはみっともないぞ」

「誰がヤキモチなんか!」


「で、その中学生くらいの鬼とも知り合いだったのか?」

 霞は話を元に戻した。


「公園でたまたま会っただけなんですけど、なんか、哀しそうだったから気になって、やり残したことは出来たのかしら?」

 仁南は幸恵の生い立ちなど知らないのに、彼女には幸恵の苦悩が見えたのだろうか? と霞は首を傾げた。


 おそらく本懐は遂げたのだろう。その後、芙蓉に殺されたことを言うと、仁南は悲しむだろう。その上、貉婆が喰ったとは言えずに目を逸らした。


「元は普通の中学生だったんですよ、女子高生になることを夢見てた、普通の」

 仁南は遠い目をした。


「鬼は人間に戻れないのかしら?」

「戻れるなら、珠蓮がそうしてる」

「そうですよね……、でも珠蓮さんのように人と同じように生きていくことはできますよね」

「難しいがな、珠蓮は特殊だ」

 霞は言った。


「珠蓮さんのように理性を失っていない鬼が、他にはいないとは言い切れないでしょ、きっと彼女はそんな鬼と出会って恋に落ちるの。そりゃ高校生みたいな青春は無理だろうけど、同じ境遇の者同士、寄り添って生きていくことはできるわ」

 仁南は妄想モードに入った。


「苦難はあるでしょうね、ハンターに狙われたり、他の妖怪とトラブったり、でもその度に絆は深まって、より愛し合うの、ロマンチックじゃない」


 即席で仕上げたストーリーに浸る仁南に、遥はバカにしたような視線を送った。

「妖怪にそんなロマンスなんかないよ」


「ほんと、ハル君って想像力がないのね、現に霞さんだって、智風ちふうさんとの再会をずっと待ってるでしょ」

「わたしは妖怪ではない、神だ」

「そうだったわね、ごめんなさい」


「みんながお前みたいに頭ん中、お花畑だったら、世の中平和だろうな」

 遥はため息交じりに言った。

「平和が一番だな」


 流風に口止めしておかなければ、と霞は思った。

 幸恵の死は、仁南が知らないほうがいいと思うが、流風はそういうとこは気が回らない。


「お前は優しいな」

 霞は優しく微笑み、仁南の頭をなでた。


   第1章 第4話 鬼の伴侶 おしまい


第4話 鬼の伴侶を最後まで読んでいただき、ありがとうございます。まだまだ続きますので、次話もよろしくお願いします。

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