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黒緋の勾玉が血に染まるとき  作者: 弍口 いく
第1章 右目の悪魔
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第4話 鬼の伴侶 その6

「さ、入って」

 悠輪寺ゆうりんじまで仁南になを送ったはるかは、 彼女がこの前のように引き返すといけないので、確実に門の中まで一緒に入った。


「信用無いのね」

「当たり前だ、さっきだってフラフラと公園に行ったじゃないか」

「あれは」


「ハル! 待ってたで」

 その時、いきなり瑞羽みずはが遥の襟首を捕まえた。

「なにすんだよ!」


「アンタだけでも捕まえられてよかったわ、流風るかは話も聞かんと飛び出していくし」

「だから、流風と合流することになってるんだ、早く行かなきゃ」


 瑞羽は大きなため息をついた。

「鬼が出たと聞いて、暴走するんちゃうかって、颯志さじお祖父ちゃんが心配してな、侑斗ゆきとは綾小路家に監禁されてる」


「なんでだよ!」

「とにかく庫裏へ」

 襟首をつかんだまま引っ張られた遥は首が締まって、

「苦しいんだけど!」


「ツベコベ言わんと」

 瑞羽はかまわず引っ張っていく。

 仁南は何が起きているのかわからず、あたふたと後に続いた。





 庫裏のリビングでは重賢じゅうけんがゆるりとお茶を啜っていた。

「お帰り、仁南」

 いつものようににこやかに仁南を迎える。

「ただいまです」


 それから瑞羽に捕らえられて不服そうな顔をしている遥に視線を向けた。

「捕まえられたか」

「なんだよ、和尚まで」

「まあまあ、そんないきりたたんと、落ち着きいや」

 瑞羽は遥を座らせて、自分も横に着席した。


「茶でも飲んで」

 遥にお茶を勧めたが、遥は顔を背けてむくれていた。

「あの、どういう状況なんですか?」

 自分だけがこの状況を飲み込めていないと感じた仁南は遠慮がちに尋ねた。


「お前には関係ない」

 遥は素っ気なく言ったが、瑞羽は、

「そうでもないやろ、この間、鬼に拉致された時、暴走しいひんかったのは、この子のお陰やろ、この子がいたし自重したんやろ? アンタひとりやったら無茶して殺されてたやろ」

 叱りつけた。


 確かにそうだったと遥には自覚があった。一人なら闇雲に暴れて自滅しただろう。それに、仁南が芙蓉ふようと話を弾ませて時間稼ぎが出来たから、流風と真琴の救助が間に合ったのだ。


「流風のことはかすみにお願いしたし、ハルはここで大人ししとき」

「冗談じゃない、ハンターが鬼を狩りに行かないでどうすんだよ!」


「綾小路のハンターはアンタらだけちゃう、冷静に判断できる者が行く、鬼退治を得意としてる者もいるしな」


すい姉さんを殺した鬼を見たのは俺だけだ、俺じゃないとわからない」

「鬼の見分けなんか出来るの?」


「出来るさ、アイツの姿は忘れない、結婚式場で花嫁を殺した奴はアイツだったかも知れないだろ、変化へんげしないとわからないけど、だから俺が行って確かめなきゃ」


「その鬼はすごく強かったんやろ、翠を一撃で真っ二つにするほど」

「もうエエ瑞羽、それ以上は言わんとき」

 重賢が二人の言い合いを止めた。


 瑞羽はハッとして、つい言い過ぎたと反省した。

「ゴメン、聞き分け悪いしつい……」

 遥は勢いよく立ち上がった。

 バタン!

 椅子が倒れたが、そのままに遥は部屋を出て行った。


 瑞羽は椅子を直しながら、

「あの子を死なせたないんや、この間、無事に帰れたのは奇跡みたいなもんや、それがわかってへん」

 ため息をついた。


「いや、ようわかってる、それでもじっとしてられへんのや」

 重賢はお茶を啜った。


 仁南は、遥が独鈷を手に芙蓉を攻撃した時、軽く吹っ飛ばされたことを思い出した。もしあの時、芙蓉が爪を立てていたなら、遥の体は真っ二つになっていたのかも知れないと思うと、全身に鳥肌が立った。


 芙蓉はその気になればいつでも自分たちを殺せた、見逃してくれたのは彼女の気まぐれ、瑞羽が言ったように奇跡だったのだ。


「ゴメンな、説明にならへんかったな」

 話の内容が理解できず居心地悪そうにしている仁南に、瑞羽が申し訳なさそうに言った。


「いいえ、あたしなんかが首を突っ込む話じゃなさそうですね」

 翠姉さんが誰だかわからないが、亡くなっただろう人の話を聞くのは憚られた。


「ハルなら大丈夫、寺からは出られへん」

 重賢は仁南の気持ちを察して言ったが、それでも遥が心配になり、仁南は追って部屋を後にした。


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