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黒緋の勾玉が血に染まるとき  作者: 弍口 いく
第1章 右目の悪魔
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第4話 鬼の伴侶 その5

「なんだって……」

 金之助きんのすけの言葉に戸惑う珠蓮じゅれんの手を、金之助は乱暴に振りほどいた。


「殺された花嫁は幸恵さちえの父親違いの妹で、花嫁の母は幸恵の実の母親だ」

「自分の家族を殺したのか?」

「あの家族は殺されて当然なんだ、幸恵は酷い目に遭わせたんだから」


「どんな事情か知らないけど、人殺しは見過ごせない」

「鬼なら人を襲って当然だろ、そこに恨みがあろうとなかろうと……、お前は人間の味方か?」

「俺が憎んでいるのは、家族を殺し俺を鬼にした、鬼のほうだ」


 珠蓮の言葉を聞いて、金之助はフンッと鼻で笑った。

「お前だって復讐しようとしてるんじゃないのか、同じだよ」

 珠蓮は言葉に詰まって奥歯を噛んだ。


「知っているぞ、お前の仇は芙蓉ふようなんだろ?」

「なぜそれを」

「まあ、鬼にだってネットワークはあるさ、それでお前を捜していたんだ」

「なぜ?」


「俺も芙蓉を恨みがあるからさ、殺したいほどに」

「お前が芙蓉を?」

 珠蓮は疑わしげに眉を寄せた。


「お前、どのくらい生きてる」

「二百年くらいかな」


「まだその程度か、芙蓉はお前の倍以上生きてるし、妖力も強い、簡単に殺せる相手じゃないぞ、俺だって差し違える覚悟がなきゃ戦えない、ガタイがイイだけで大した戦闘能力のないお前には無理だろ、長生きしたいなら関わり合うな」


「でもやらなきゃ、この先俺が困る」

「なぜ?」

「アイツは、俺の伴侶をことごとく殺してるんだ、さっき言った幸恵だって、帰ってこないってことはきっと芙蓉に攫われたんだ」

「なんで?」

「訳は知らん、こっちが聞きたい」


「幸恵を芙蓉から取り戻したいのか?」

「それはどうかな、あいつ、鬼にしてやったころは従順だったけど、最近は反抗的だったからな、この間の事件だって、わざわざ結婚式の日に殺らなくても、秘かに殺せばいいじゃないかと言ったのに、聞きやしない、あんな派手なことするから、芙蓉に見つかったんだよ」


 金之助は壁にもたれながらドカッと座り込んだ。

「俺はな、鬼同士が争う必要なんかないと思ってる、平和主義者なんだぜ、各々が好きに生きればいいだけだ、干渉する必要ないだろ、ただ、一人で生きていくのは退屈だから、伴侶を求めただけなんだ」


「お前、人の心が少しは残っているようだな」

「それが不幸だよ、他の鬼みたいに、理性失くして本能だけで生きているなら、寂しいなんて思わないだろ」


 珠蓮のように高僧の下で修業を積んだ訳ではない、きっと人間だったころ霊力が強かったんだろうと珠蓮は思った。


「大店の長男だった俺は、大事に育てられ、使用人たちにかしずかれながら気ままに過ごしていた。年頃になると女たちは我先にと擦り寄ってきたよ、玉の輿狙いでな、俺の周りは人で溢れていた。なにの今はどうだ、誰もいない、鬼となったおれは独りぼっちだ。お前も人の心が残っているようだけど、平気なのか?」


「慣れるしかないだろ」


「慣れ……か、俺を鬼にしたのは捨てた女だった。自分だって金目当てだったくせに、俺を恨んでいたようだ。そいつがどうして鬼になったのかは知らないけど、女はただ俺を殺すだけじゃ物足りずに、苦しめるつもりで鬼にしたんだ。冗談じゃないぜ、そんなの許せると思うか? 速攻、女を殺してやったさ」


 金之助の脳裏に、二百年前の出来事が浮かんだ。

 彼を鬼にした女の胸に爪を突き刺す。

 確実に心臓を捕らえた。

 女は血を吐きながらも、その唇はわずかに口角が上がっていた。


「その女、最期になんて言ったと思う?〝ありがとう〟って、ありがとうだぞ、クソっ! まんまとしてやられたよ、最初から殺されるつもりだったんだ、女も鬼になりたてでまだ人の心が残っていたから、鬼になってしまった自分に絶望して死にたかったようだ」


 金之助が女の心臓をえぐり取った瞬間、女はガクッと首をうなだれ息絶えた。

 まだ鬼になって間もなかったので、遺体は人間の姿のままだった。

「鬼は自殺なんかできない、自分の心臓を自分で握りつぶすなんて不可能だしな」


 座り込んでいる金之助は首をうなだれた。

「俺だってこんなことになってお先真っ暗だけど死にたくはない、でも孤独には耐えられない、だから気に入った女を鬼にして、一緒に過ごしてたんだ、一人で暮らすには長い人生だからな」

 珠蓮は哀れんだ目で金之助を見下ろしていた。


「同意の上か?」

「そんなもの必要ないだろ、欲しいものは手に入れるだけだ」

「無理やりなのか、自分の不幸を他人にも与えたのか!」


「でも、悪いことばかりじゃない、不老不死を手に入れたんだ、喜んだ女もいたさ、幸恵さちえもそうさ」

 本当にそうなのか、珠蓮には疑問だったが、女たちのことを知らないので否定のしようもない。


 金之助は立ち上がり、珠蓮を真っ直ぐに見た。

「アイツを殺らなきゃ、また伴侶を作っても殺されるだけでキリがない、協力してくれるよな、二人なら芙蓉を殺れる」


 万が一芙蓉を倒せたとして、その後、こいつと戦うことになるかも知れないという危惧はあったが、しかし、今は……。


「芙蓉の居場所を知っているのか?」

「見当はついてる」

 芙蓉を見つけることが先決だ。

「じゃあ、行こうか」

「おう」

 金之助は満足そうに頷いた。


「俺は金之助、でも今の時代、野暮ったいから、ゴールディと呼んでくれ」

「なんだよ、それ」


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