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黒緋の勾玉が血に染まるとき  作者: 弍口 いく
第1章 右目の悪魔
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第4話 鬼の伴侶 その4

 幸恵さちえが消えた木の上を呆然と見上げているはるか仁南になの元へ、流風るかが駆け付けた。

「逃げられた」


「こんなところで危ないだろ、一般人もいるのに!」

 遥は流風に詰め寄ったが、

「危なかったのはあなたたち、アイツ、たぶん昨日の犯人」

 流風は表情を変えずに淡々と言った。


「昨日って、花嫁惨殺事件か」

 そう言った遥を仁南は見上げた。

「結婚式場の控室で、式を挙げる予定だった花嫁と母親が殺された事件? ニュースになってた、あの犯人は鬼なの?」


「そう、心臓がえぐり取られてたから」

「それが彼女の仕業だと?」

 流風は頷いた。


「なんで悠長に話なんかしてたの、鬼を見つけたら先手必勝、すぐ排除に動くのが鉄則」

 流風は遥に厳しい口調で言った。


「あたしのせいです」

 仁南がすかさず口を挟んだ。


「あの人、とても悲しそうだったから、つい」

「人じゃない、鬼よ」

 流風は冷たく言い放った。

「感情なんかない」


 仁南に視線も合わさず、流風は背を向けた。

「追うわ」

「わかった、仁南を送ったらすぐ合流する」


「あたしなら大丈夫よ、一緒に行って」

「ダメだ」

 二人をよそに、流風はさっさと行った。


 そんな流風を見送りながら、仁南はしょんぼり肩を落とした。

「ハル君の手を煩わせて狩りの仕事の邪魔してるから、流風さんに嫌われちゃってるみたいね」


「違うよ、流風はいつもあんなもんだ」

「そうかしら」

「流風だって重賢じゅうけんさんの言いつけは守るし……、とにかく早く帰ろう」


「でも、こんな調子じゃ、あたし、一人じゃどこへも行けないってこと?」

「自分で身を護れるようになればいい、重賢和尚に指導してもらうんだな」

「あ……、そんな話されてたわね」


「お前が来た時から考えてたらしいよ、妖怪から身を護るすべを教えるって、重賢さんの許可がでたら、一人でどこへでも行けばいいし」

「いつになるやら」


(それだけの霊力を持っていれば、すぐに俺より強くなるさ)

 と遥は心の中で付け加えた。


「流風さんは、珠蓮じゅれんさんのことも人じゃないと思ってるのかしら」

 仁南はふと寂しそうに呟いた。


「まあ、なんだ……、流風も辛いんだよ」

 歯切れ悪く目を逸らす遥を見て、仁南は小首を傾げた。

「なんで?」

「お子ちゃまは知らなくていいことだ」


「なによ、あたしのほうが誕生日早いんだけど」

 見下されたようで仁南は唇を尖らせる。

「でも、お前は妄想の中でしか恋愛を知らないお子ちゃまだろ」

 さらにバカにされて、仁南はむくれた。


「そうね、ハル君はさぞおモテになるだろうから、経験豊富だろうけどね」

「なんなら教えようか?」

 遥はふざけて顔を近付けた。


 たちまち真っ赤になった仁南は、顔を背けて遥を押しのけた。

「あたしで遊ばないで!」



   *   *   *



 深夜、解体を待つ廃墟ビルに人影はない。

 非常灯さえ点いていない闇の中を、二組の赤い光が高速で移動していた。


 窓の傍を通った時、外からの明かりで姿が映し出される。

 黒い剛毛で覆われた二頭の獣、それは動物園にはいない、人の目に触れることのない怪物、鬼だった。


「待て! お前とやりあうつもりはない!」

 金之助きんのすけは攻撃をやめて逃げ回っていた。

 珠蓮じゅれんが振り下ろした鋭い爪は、交わされて空を切る。


「襲ってきたくせに、なにを言う!」

「お前の力量を知りたかっただけだ」


 多くの人間を喰っているのだろう金之助は腕力もあり強敵だったが、動きは珠蓮のほうが早いし、格闘の技も珠蓮のほうが上だった。


「話がしたいんだ」

 負けると思っての命乞いかと思ったが、金之助が突然、人間の姿に戻ったのを見て、珠蓮は寸止めした。


 まっすぐ見つめる目はまだ赤かったが、戦闘の意思はないようだ。

 珠蓮も人間の姿に戻った。


「この間の、結婚式場の事件はお前じゃないって言うのか?」

「俺じゃない、あんな派手なことしてなんになる、ハンターに目を付けられるようなバカはしない」


 人間の姿の金之助は、珠蓮より少し年上に見える二十代半ば、筋肉質で腕っ節の強そうな角張った顔の青年だった。


「でも、心当たりはあるようだな」

「幸恵の仕業だ、たぶん」

「幸恵?」

「俺の伴侶」

「伴侶だって?」

「俺が鬼にした女だ」

 珠蓮は金之助の胸ぐらを掴み上げた。

「殺さず仲間にしたのか!」


「アイツは復讐するために望んで鬼になったんだよ」


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