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黒緋の勾玉が血に染まるとき  作者: 弍口 いく
第1章 右目の悪魔
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第4話 鬼の伴侶 その2

「お父さんに会ったことないのか? 一度も?」

「ええ、記憶にある限り」

 この日も、仁南になはるかは一緒に下校していた。


 仁南が妖狐ようこの里に拉致されて以来、遥は以前にも増して、仁南にベッタリだった。クラスが違うので授業中は無理だが、登下校は護衛と称して付き添っていた。


 そんな姿を見た周囲は、当然、二人が付き合っていると思い、イケメンで女子なら選り取り見取りの遥が、なぜ、平凡すぎる仁南を追いかけるのか、学校七不思議のひとつに挙げられるほどになっていた。


 遥は少しも気にしていないが、仁南のほうは少々困っていた。

 クラスでは浮いた存在となり、友達ができない。しかし、心配してくれているのはわかっているので無下にもできなかった。


「同じ東京に住んでたんだろ、再婚したからって」

「会いたくないのよ、あたしを見ると母を思い出すからって、似てないのにね」

「そんな無責任な! あ、ゴメン、どんな人でもお前の父親だもんな」

 遥とはプライベートな話もするようになっていた。


「父はね、母をとても愛していたそうよ、母が亡くなったことに耐えられなかったのよ、そして、母との記憶ごと消してしまうことで、かろうじて正気を保てたんだって祖母が言ってた。あたしの存在は母が生きていた証だから、一緒に消し去らなければならなかったのよ」


「悲しいな」

 遥は足元に視線を落とした。


「母は、それほど愛されていたのよ、あたしもいつか、それほど愛してくれる人と出会いたいわ」

 仁南は空を仰いだ。


「妄想の中ではもう現れてるんだろ? お前のことだ、結ばれるストーリーが出来上がってるんじゃないかの」

「まあね、その通りに行かないことはわかってるけどね」

「でも、現実にお前に彼氏ができたら、送り迎えするのはマズイよな」


「そんな心配はいらないわ、彼氏なんか出来ないから、妄想はしょせん妄想よ、あたしはお母さんみたいに美人じゃないし」

「美人だから報われるとは限らないぞ、現に……」

 遥はいいかけてやめた。


 その時、仁南は公園の中に不穏な気を感じて立ち止まった。


 ベンチに座っている少女を見て息を呑んだ。

 遥も仁南の様子に気付いて、そちらに目を凝らした。


「なにが見えるんだ」

「鬼……」


「鬼? あの子が?」

 遥の表情がたちまち険しくなった。彼の目には、中学生くらいの少女にしか見えないが、そう言われると微かな妖気は感じられた。


 夕方に差し掛かる時間だが、まだ小学生くらいの子供たちが遊んでいる。

 散歩に訪れている老人もいる。

 仁南は公園に入っていった。


「待てよ」

 止めようとする遥を振り切って、仁南が少女の元へと足を運んだのには訳があった。

 彼女が泣いていたから。


「どうしたの?」

 幸恵さちえは顔を上げた。


 真っ黒い剛毛に覆われ、くすんだ赤い目が鈍い光を放つ、そんな風に仁南の真眼は幸恵の正体を見抜いていたが、それよりも人間の顔の頬に伝った涙の跡が気になった。


「ハンターか」

 幸恵は声をかけた仁南よりも、横に立つ遥を睨みつけた。


「綾小路の人間は血の匂いでわかる」

 それから仁南に視線を移した。

「アンタは違うな、美味しそうな匂い、強い霊力を持ってる」

 物欲しそうに目を細めた。


 仁南は臆することなく、

「すごく鋭い嗅覚なのね、前に会った中年男の鬼はあたしに気付かなったわ、ハル君はすぐにバレたけど」

「綾小路家のハンターは要注意やし」


 幸恵は身動ぎもせずに再び遥に目を向けた。

「あたしを狩りに来たんか?」

「偶然通りかかったの」

 仁南が答えた。


「あなたが泣いてるから気になって」

「泣いてる? あたしが?」

 幸恵は驚きながら頬に手を当てた。まだ湿っているのがわかり、自分が涙を流していたことにはじめて気づいた。


「なんでやろ……鬼のあたしに感情なんかないはずやのに」

「まだ人間の心が残っているのよ、そんな鬼にも会ったわ」

「いろんな鬼に会ってるんやな、ほな、残忍さも知ってるんやろ? あたしが怖ないの? アンタ等なんか一瞬で殺せるんやで」


「涙で曇って、結界も見えないのか」

 遥は睨みを利かせた。


「お前、まだ新米だな、妖気も大したことないし、この結界は破れないだろ、もっともこいつに手を出そうとしたら、お前のほうが一瞬で死ぬことになるぞ」


 仁南が公園に入った瞬間から、遥は結界を張って彼女を護っていた。


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