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黒緋の勾玉が血に染まるとき  作者: 弍口 いく
第1章 右目の悪魔
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第3話 狐の嫁入り その12

「なんでアンタは助けに来てくれへんかったんや」

 悠輪寺ゆうりんじの庫裏では侑斗ゆきとが理不尽に瑞羽みずはに怒られていた。


 瑞羽と侑斗は組んで狩りをすることが多かったが、いつも瑞羽が勝手に突っ走るので、侑斗は苦労していた。


「正気か? 妖世あやしよやで、俺みたいな弱小者が行けるわけないやろ」

 今回も少女失踪事件を単独で捜査している途中に拉致されたのだった。

「ハルは来たで」

仁南になのお陰のパワーアップでやろ」

「ユキも分けてもろたらエエやん」

「俺は波長が合わへんらしい」


「瑞羽さんは無茶しすぎ、死ぬとこだったし」

 流風るかが口をはさんだのは彼女の身を案じてのこと、今回は無事だったが、いつもこうとは限らない。


「はいはい、自重します」

 どうせ口だけだろうと、侑斗は信じていなかった。


 妖狐ようこの里から無事に帰還した一同は、とりあえず悠輪寺の庫裏へ戻った。

 真琴まことの無事な姿を見て、とおるは感涙した。

 が、休む間もなく、重傷の珠蓮じゅれんを二人で銀杏の森へ運んで行った。


「レンは大丈夫やろか? かなり酷かったけど」

「鬼なんやし大丈夫やろ、森の癒しで明日には全快してるやろ」

「仁南は?」

「部屋に運んだ、ハルが付き添ってる」

「怪我はしてへんかったよな」


「ハルは抱きしめすぎ、力加減がわからないのよ」

 流風がため息交じりに言った。

「それで気絶したんか?」

「たぶん」

 右目の悪魔のことをまだよく理解していない流風は、完全に勘違いしていた。


「それにしてもあの二人、普通の関係(ちゃ)うよな」

「ハルは仁南から霊力をもらってるだけ」

「ほんとにそれだけかなぁ」

 瑞羽は意味ありげな笑みを浮かべた。





 仁南は自室のベッドに寝かされていた。

 前回と同様なので、遥は医師の円を呼ばずに休ませて、付き添っていた。


 ほどなく仁南は目を覚ました。

 目を開けた仁南の右目は赤みも引き、元に戻っていたが、

「またあの力を使ったんだな」

「そうみたい」


「あれを使うと貧血になるのか? それほど大量に出血してないのに」

「よくわからない」

「とにかく、ちゃんと食って、血液を作らなきゃ」

「そうね」

「起きれるか?」

「ええ」

 仁南は上体を起こした。


「じゃあ、行こう」

「どこへ?」

「肉食いに行くんだよ」

「えっ?」


 いつの間にか音もなくかすみが入室していた。

「肉か、わたしは生がいいな」


 突然の声に驚いてのけ反る遥を気にも留めずに、霞はベッドの端に腰を下ろした。

「さっき妖狐をいっぱい喰ってたじゃないか」

「冬眠明けで空腹なのだ」


「なにか用なのか?」

「ちと、確かめたいことがあって」

 霞は仁南に顔を近付けて、右目を覗き込んだ。


 白磁器のよう白くスベスベした美しい肌に、ほんのりピンク色の唇、濡れたような黒い瞳に見つめられ、仁南はなんだか恥ずかしくなって俯いた。


「お前、それをどこで手に入れた」

「えっ?」

「右目に潜んでいるものだ」

「知ってるんですか? 右目の悪魔のこと」

「悪魔?」


「物心ついたときはすでにあったから、いつからかわかりません、生まれた時からかも知れないし、あなたは何か知ってるんですか?」

 彼女は右目の悪魔のことを知っているのではないかと仁南は期待したが、

「知らん」

「え……」

 拍子抜けして、呆然とした。


「ただ、無闇に使うな、命を縮めるぞ」

 霞は冷たい瞳でなおも見つめた。


 その眼に射抜かれた仁南はゾッと青ざめた。そして、霞は知っているんだ、でも、言いたくないんだと確信した。

 そんな仁南の表情に気付いた遥は、庇うように間に入った。


「わたしが怖いか?」

 それでも霞は仁南を見つめ続けた。

「こいつには霞の正体が見えてるんだ、怖いに決まってるだろ」

 遥が言ったが、

「いいえ、大丈夫、怖くないわ、だって助けてくれたんだもん」

 仁南は笑顔を向けた。


「それに悠輪寺の結界の中に入れるってことは、悪い妖怪じゃないでしょ」

「妖怪だとぉ、わたしは神だ、白蛇神だぞ」

「そうなんですね」


 真眼で霞の正体を見ていた仁南だったが、恐ろしい大蛇の姿より、

「だから神々しいんですね、あなたの鱗、綺麗……白い花、霞草を散りばめたみたい」

 鱗の美しさに心奪われた。


「それで霞って名前なんですね」

「お前……」

 かつて智風に言われたのと同じことを言われて霞は感激した。


「気に入ったぞ」

 霞は遥を押しのけて、仁南を抱きしめた。

 それから体鱗を一枚、自分の腕からはぎ取った。


「お前は強い霊力を持っているが、戦う術を知らない、だから簡単にその右目を使ってしまうのだろう、そうせずとも済むように、これを授けよう」


 直径5センチくらいの鱗を仁南の左手首の内側に張り付けた。

 それは仁南の肌に吸い込まれ、元々あった痣のように馴染んだ。


「お前を護ってくれるだろう」

「お守り?」

「そうだ、白蛇神のありがたーいお守りだ」

「ありがとう」

 どんなご利益があるかは知らないが、仁南はとりあえず礼を言った。


 たちまち霞と仲良くなった仁南を見て、遥は驚くというか呆れていた。

「お前、なんなの? その妖怪とのコミ力は、人間の友達は少ないくせに」

「そうなのよね、なんでだろ」

 苦笑いするしかない仁南。


 霞はそんな仁南の手を取り、

「で、肉を食いにいくのだろ」

 笑顔を向けた。


   第3話 狐の嫁入り おしまい


第3話も最後まで読んでいただきありがとうございます。

まだ続きますので、これからもよろしくお願いします。

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