表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒緋の勾玉が血に染まるとき  作者: 弍口 いく
第1章 右目の悪魔
33/143

第3話 狐の嫁入り その7

 玉座の豪華な椅子に座る美しい男の周囲には、これまた美形の若い配下が数人控えている。

 しかし正体を見抜いている仁南になは、稲荷神社に鎮座する狐の石像のようだと思って、なんだか笑いがこみ上げ、堪えるのに必死だった。


「あんたも頭変になったん? なに笑ろてんの」

 しかし、横にいる瑞羽みずはにバレていた。

「だって、狐ですよ、なんで美男に化けてるかは知らないけど、今にもコンコンって鳴きそうだし」

「アンタねぇ」

 さっきまでは喰われると怯えていたのに、打って変わって緊張感のなさに瑞羽は呆れた。


「ほう、我らの真の姿が見えてるのか?」

 玉座の男が言った。

「まずいんじゃない?」

 仁南に耳打ちする瑞羽。つい調子に乗ったと仁南は後悔した。


「俺はあかつき妖狐ようこの次期当主だ、お前、名前は?」

 視線は瑞羽に向いていた。

「瑞羽」

「この中では一番の美人だな」

「それはどうも」

「だが、ちと年を取り過ぎてはいないか? 俺が望むのは若い生娘だぞ、これはどう見ても」


「失礼な! まだ二十二よ」

「この女は、少々年は食っていますが霊力は申し分ありません、なんせ、綾小路家のハンターですからね、それにこの美しさ、優雅さ、これほどの美女はなかなかいないですよ」

 配下の一人が説明した。


「面白い、妖怪退治屋の娘が妖怪の妻になるもの有かな」

「妻って、どういうことなの?」


「説明しよう」

 配下の筆頭らしき妖狐が一歩前に出た。


「ここにおあす暁様は、ゆくゆくは妖狐を束ねる当主になられる、その日のために身を固めようとお考えなのだ、暁様の妻の座を狙う女狐どもは数知れず、しかし、暁様は欲に目が眩んだ女狐よりも、霊力の強い人間を妻に迎えようとされておる、なぜなら! 大妖怪と霊力の強い人間との間に生まれる半妖は、桁外れの妖力を持って生まれることが多いからだ」


 それを聞いた瑞羽の脳裏に真琴が浮かんだ。

 奴らは、自分たちに真琴のような半妖を産ませようとしていると知り、ゾッと悪寒が走った。


「妖狐の将来を考えてのこと、本来なら、霊力の強い人間の生気を喰らわば、我ら妖怪は力が増強する、妖狐一族を統治するにはそれでも十分なのだが、聡明な暁様は未来を見ておられるのだ、生存競争が激しい妖怪世界で生き残るには、強い子孫が必要だからな」

 言い終わって配下の筆頭はコホンと息をついた。


「そう言う訳で、我らが霊力の強い、年頃の娘を捜して招いたんだ」

「招いたんじゃなくて、無理やり連れ込んだんやろ」

「光栄だろう、妖狐の当主となられる暁様の嫁候補に選ばれたんだぞ」


 仁南も半妖である真琴のことを考えていた。あんなにすごい力を持っているということは、彼女の母親は霊力の強い女性だったのだろうか? と仁南は思った。まだ、彼女の生い立ちは聞かされていないが。


「それにしても、もっと集められなかったのか? 選ぶと言っても二択じゃなないか」

 暁は自我を失っている三人に目を流した。


「なにぶん急なことで時間がなかったものですから、お気に召さなければ、時間をかけて全国を回り捜してまいりますが」

 配下の妖狐は深々と頭を下げた。


「いや、いい」

 暁は仁南に鋭い目を向けた。

「お前、名前は?」

 あかつきは舐めるような目で仁南になを見た。


「佐伯仁南」

「そうか、仁南、正妻はお前だ、瑞羽みずはは美しいが、妾くらいがちょうどいいだろう」

「なんですって、失礼な!」


「確かに霊力は断トツですが、見栄えがイマイチですな、暁様の嫁として表に出すならちゃんとした美人の方がよいかと」

 配下の妖狐が申し訳なさそうに言った。

「着飾ればなんとかなるだろう、顔はベールで隠せばいいし」

 暁は仁南をマジマジと見ながら言った。


 妖狐たちの会話を聞いて、

「なんかメチャ失礼なこと言われてるで、アンタ」

 瑞羽は仁南に耳打ちした。

「仕方ありません、客観的に見て的を射てますから」

 自分の容姿に自信がない仁南は苦笑いするしかない。


「美人は三日で見飽きるって言うだろ、これくらいが飽きなくてちょうどいい、それに、ダントツどころか、桁違いの霊力を秘めているぞ」

 暁は玉座から降りて、仁南に近づいた。

「ああ、美味そうな匂いだ、間違って喰ってしまいそうだ」

 仁南に顔を近付けて覗き込む。


「それに、この右目、なにを隠している」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ