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黒緋の勾玉が血に染まるとき  作者: 弍口 いく
第1章 右目の悪魔
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第3話 狐の嫁入り その6

「うちは案内だけやさかいな、着いたらとっとと消えるで」

「はいはい、わかってる、アンタの性格は」

「連れてったるだけでも、ありがたく思いや」

「思てるって」


 貉婆むじなばあを先頭に、真琴まこと珠蓮じゅれんはるかは白い霧の中を歩いていた。

 1メートル先も見えない濃さ、貉婆を見失わないようにみんな間を開けずに歩いていた。


「妖気が濃くなってきたな、ハルは大丈夫か?」

 珠蓮は普通の人間である遥を気遣った。


「平気だよ」

「ちょっとの間に、ずいぶんと霊力が増したなぁ、あの娘のお陰か?」

 貉婆は振り返って、意味ありげな横目を遥に向けた。

「あの娘って、仁南になを知ってるか?」


「貉婆はアンタらが鬼に拉致されるのを見てたんや、な、ただ見てただけ」

 真琴が非難がましく言った。

「知らせてやったやろ」

「自分の小屋を守るためにな」

「お陰様で、空間の歪みはなくなったわい」

 貉婆は満足そうに欠けた前歯を覗かせた。


「あの娘、喰われてへんかったらエエけどなぁ」

「大丈夫や!」

 真琴がムキになって言い切った。

「喰うつもりやったら、その場で済む、連れ帰ったってことは何かほかの目的があるんやと思う」


「そういえば、次期当主と目されるあかつきが、嫁を捜してるって聞いたことあるな、なら目指すは東宮のほうか」

 貉婆は思い出した。


「嫁? 人間の?」

「霊力の強い人間と妖の間に生まれた子供は、桁外れの妖力を持って生まれることがある、お前さんみたいにな」

 枯れ枝のような指先を向けられ、真琴は思わずのけ反った。


「仁南が選ばれたんか?」

「けど、正妻にするなら生娘を好むやろ、お手付きではなぁ」

 貉婆はジロッと遥を横目で見た。


 その視線に気づき、

「はあ?」

「ぎょうさんの霊力を吸収するには、手籠めにするのが一番手っ取り早いやろ」

「なっ!」


 言葉に詰まった遥の胸ぐらを、真琴が掴み上げた。

「アンタ、まさか!」

「待てよ、なにもしてないよ」

「仁南はちょっと変わってるけど、イイ子なんやで、傷つけたら許さへんで」


「さんざん煽っといて、なに言ってんだ」

「煽ったんちゃう、警告のつもりやったんや」


「いくら俺でもあんな初心な子に手は出さないよ、だいたい、無理やりそんなことしようもんなら、右目の悪魔が発動するだろ」

「無理やりやったらな」

 真琴は掴んでいた手を緩めた。


「アンタ、自分が他人からどう見えるかわかってるやろ、アンタは利用するために近付いてるだけやろうけど、あんな風にされたら……」

「なんだよ」


「しょせん高根の花、少女漫画では、冴えない女子がイケメンと出会ってハッピーエンドが王道やけど、現実ではそんなこと起こらへんのはわかってるって、仁南は自分に言い聞かせてるけど、心は思い通りにならへんもんや」


 遥は返す言葉がみつからず、終始黙っていた珠蓮の胸板を、八つ当たりするように拳固で叩いた。

「なんだよ、いきなり」


「おしゃべりはそこまでや、着いたで」

 貉婆が歩みを止めた。


 前方に大きな門が現れた。

「ここは妖狐の里の東宮、次期当主、暁の住まいや」


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