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黒緋の勾玉が血に染まるとき  作者: 弍口 いく
第1章 右目の悪魔
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第3話 狐の嫁入り その3

真琴まことが一緒だから安心してたのに!」

 はるかは声を荒げて真琴を責めた。


 仁南になが拉致された連絡を受けた遥は、悠輪寺ゆうりんじに駆け付けた。すでに真琴ととおる侑斗ゆきと流風るかも庫裏に集合し、テーブルを囲んでいた。


 重賢じゅうけんはあいにく法事で留守、良き相談者は不在だった。


「ちゃんと門前まで送ったで、まさか引き返すなんて思ってへんやん」

 むくれる真琴を澄がなだめた。

「しゃーないやん、四六時中、仁南に付き添ってる訳にもいかへんやろ」

「くそっ!」

 それでも納得いかない遥は悪態をつく。


「相手は妖狐ようこ、ハルが一緒にいたとしても」

 流風の言葉を澄が手で制して遮った。

 流風は率直すぎるところがある。たとえ真実でも言えば相手が傷つくことに気が及ばない。


「わかってる、俺じゃ妖狐に太刀打ちできないことくらい、でも」

 遥は流風が言おうとしていたことを察した。

「そうやな、ハルやったら身を挺してでも仁南を護ったやろ、わかってる」

 澄は言ったが、

「命の無駄遣い」

 追い打ちをかける流風の頭を、今度は真琴が叩いた。


「とにかく、一連の事件は妖狐の仕業と判明したんや、瑞羽みずはねえを拉致したんも同一犯やろ」

 侑斗は心配そうに眉を寄せた。


「こんな派手なことして、無駄なトラブルを避ける妖狐らしないな、ハンターを拉致したら、仲間が必ず救出に向かうのは承知のはずやのに」

「目的はわからんけど、助けに行かな」

 真琴は決意した目をみんなに向けた。


「仁南は妖怪にとってご馳走だろ、無事でいてくれるといいけど」

 あと一歩のことで助けられなかった珠蓮じゅれんも不安でたまらない。


「仁南は死なないよ」

 遥が言いきった。

「そう思いたいのはわかるけど」

「仁南の右目には無敵の魔力があるから」


「なんや、それ」

 澄が首を傾げた。

「なにかはわからない、でも、みんなも見ただろ、寄蟻やどりぎを退けた力を」

 流風と侑斗に視線を流した。

 遅れた真琴と澄は見ていないが、二人はその光景を目撃したはずだ。


「あれは仁南の仕業やったんか? 確かに不可解な状況やったけど、俺は寄蟻が弱ってる宿主を先に片付けようとしたのかと思ってた」

 侑斗があの時のことを思い出しながら言った。


「違う、仁南が俺の体から働き蟻を追い出したんだ」

「そんなことができる魔力なんか?」


「そういえば、あの子の右目にはなにかが宿っていたな」

 珠蓮は銀杏の森で初めて会った時のことを思い出した。

「でも、そんな力って……」

 なにか腑に落ちないようすで珠蓮は腕組みした。


「なんにせよ、妖狐の里へ行く必要があるな、きっと瑞羽姉もそこにいる」

 侑斗が言った。

「どうやって?」


「呼んだか?」

 テーブル下の床から、いきなり貉婆むじなばあが生えてきた。


「登場の仕方がいちいち不気味やねん」

 真琴は呆れ顔で見下ろした。

「呼ばれたし、わざわざ来てやったのに失礼な奴やなぁ」

 ムッとして引っ込もうとする貉婆の耳を引っ張って止めた。


「痛いやん」

「帰らんといて、頼みがあるねん」

 真琴は少しも悪びれた様子無く、貉婆を引き上げた。


「妖狐の里へ連れってって」

 真琴は妖狐が絡んでいると知った時点で、こうなることを想定して、妖世あやしよにある妖狐の里へ案内できる貉婆を捜していたのだった。


「吸血鬼の次は狐か、人使い荒いなぁ、けど」

 貉婆は細い目でテーブルに着いてるメンバーを見渡した。


「お前らだけで乗り込むのは無謀(ちゃ)うか? 妖狐ってうたら、うちらみたいな雑魚とは格がちゃう、里も規模が大きいで、攻め入るんやったら軍隊が必要や」


「攻め入るなんてうてへん、人質救出作戦や」

「もう喰われてるんちゃうか?」

「喰われてないよ!」

 遥はムキになって否定した。


かすみ、加勢してくれないかな」

 流風がポツリと漏らした。

「霞様は冬眠中や」

 と貉婆。


「ええっ! もう五月やで、いつまで寝てるんや」

 真琴は驚きの声をあげた。

「ここんとこ見いひんと思たら」

「お寝坊さんでな」


「流風は霞を起こして来て、あたしはレンと先に行くわ」

 仕切る真琴に澄は、

「俺は?」

「澄は留守番」

「なんで、俺、頼りにされてへん?」


「違うだろ、一番頼りにされてるんだよ、不測の事態が起きた時、現世うつしよに呼び戻せるのはお前だ、真琴は必ずお前の元へ帰ってくるから」

 珠蓮の捕捉に感動した澄は、

「真琴ぉ」

 真琴に抱きついた。

「いいから」

 照れて邪険にする真琴。


「俺たちは?」

 蚊帳の外に追いやられたような遥が不服そうに言った。

「俺たちは妖世に入れへんやろ」

 と侑斗。

「俺は行ったことある」


「そうだな、今のお前なら」

 言いかけた珠蓮を遮って、

「足手まとい」

 流風はとどめの一刺しを放った。


 しかし遥は引き下がらない。

「こんな時のために鍛錬を積んできたんだ、足手まといにはならない」


「行くか」

 珠蓮の言葉に流風と真琴は意外そうな目を向けた。珠蓮は自分たち以上にシビアだ、情に流されることはないのに。

「俺が鍛えたんだ、戦力になるさ、でも、命の保証はできないぞ」

 遥は珠蓮をまっすぐ見据えて頷いた。


 遥の様子を見て、侑斗は澄に耳打ちした。

「どうしたんやハルの奴、命がけやで」

「恋(ちゃ)うか?」

「まさかぁ」


名前が出た霞は『金色の絨毯敷きつめられる頃』の『第2章 霞』から登場しますのです、気になったら読んでいただけると幸いです。


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