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黒緋の勾玉が血に染まるとき  作者: 弍口 いく
第1章 右目の悪魔
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第2話 無敵の魔力 その13

「ダメ!」

 仁南になは膝を折ったはるかに飛びついた。


 両手で遥の顔を覆う蟻を払いのけようとするが排除するのは不可能だった。

 口から侵入していて、呼吸困難になっているのがわかる。


「吐き出して!」

 必死で口元を拭うが、蟻はどんどん中へ入っていく。


 仁南は咄嗟に、遥の口に自分の唇を当てた。

 蟻を吸い出そうと試みる。


「佐伯さん、なにをしてるんだ!」

 仁南の行動に邦夫くにおは目を疑った。

 遥を救おうとなりふり構わない仁南の行動に、邦夫は怒りを覚えた。


「そんなに綾小路がいいなら、一緒に消えればいい」

 邦夫の体から、口だけではなく、鼻の穴、耳の穴、目からも黒い蟻が湧き出していた。


 それが二人のほうへ群がり、仁南の体も覆われて真っ黒になりつつかるが、かまわず遥の口から蟻を吸い出そうとしていた。

 顔面蟻に覆われて目も塞がれているが、遥は仁南がなにをしているのかわかっていた。


 何度も遥の口から蟻を吸い出しては吐き捨てる仁南。

 しかし、遥にはわかっていた、この状況は手遅れだ。

(俺はもう助からない)


 観念した遥は最後の力を振り絞って、優しく仁南の頬に手を当てた。

(助けられなくゴメン)

 遥は心の中で呟いた。

 遥の絶望が伝わった。

 仁南は手を止め、そして遥の背中に回した。


 遥も仁南を強く抱きしめた。

 初めて会ったあの日のように、彼女の鼓動を感じるくらい強く、鼓動が重なり合い心地よいリズムを刻む。

 仁南も同じように感じていた。


(お願い、彼を助けて!)

 誰に願っているのか、仁南は強く願っていた。


「えっ……」

 急に遥の呼吸が楽になった。

「仁南……」

 声も出る。


 目を開けると、今まで自分を覆っていた蟻の大群が離れて、邦夫の元へと戻って行っていた。

 口の中からもいなくなっているし、喉の奥も詰まるモノが無くなっていた。


「なんだ! なぜ戻る!」

 今度は慌てふためく邦夫の体が真っ黒に覆われた。

「なぜだ、消すのは綾小」

 口をふさがれ言葉は途切れた。


 遥にもなにが起きているのかわからない。

 仁南は遥の腕の中でグッタリしている。

 固く閉じられた目、右目から鮮血が涙のように頬を伝っていた。

「仁南!」


 心臓の鼓動はまだ感じる、死んではいないと安心したものの、遥は流血が気がかりだった。


 全身黒ずくめになった邦夫の体は、まだ形を保ったまま立っていた。

 しかし、学生服の中身に邦夫の体はもう存在しないだろうと遥は思った。

 消えたのは邦夫のほうだった。


 しかし、ホッとしてはいられない、ピンチは変わらないのだ。

 また襲ってくるかもしれない。

 仁南を抱えて逃げなければ、と遥は再び出入口のドアに振り向いた。


 その時、ドアが開き、侑斗ゆきと流風るかが飛び込んだ。

 状況を見て、

「結界を」

「おう」

 侑斗は重賢じゅうけんの護符を手にしながら印を切った。


 邦夫の周りをキューブ状に結界で囲み、封じ込めた。

 すると、人型に固まっていた蟻が拡散し、邦夫の体の形を保たなくなったので、着ていた制服が床に崩れ落ちた。

 飛び交う羽蟻だが、結界からは出られない。


「さて、閉じ込めたはエエけど、どうする?」

「決まってる」

 流風が結界に触れると、中で竜巻が発生した。


 それは風刃ふうじんの嵐。

 まるでミキサーにかけられたように、寄蟻たちは粉々になった。


「ひえ~っ、凄まじいな」

 侑斗は目を見張った。

「何人も殺した、封印なんて生易しい」

「いやいや、先人はお前みたいな技を持ってへんかったし、完全に滅除できんとやむなく封印したんやろ」


「ここか!」

 遅れてとおる真琴まことが駆け付けた。

 ちょうど、結界を解いたところだった。


 後には粉々になった寄蟻の死骸と、切り刻まれた邦夫の制服が残された。


 ほどなく寄蟻の死骸は形を保てなくなり粉末と化した。

 それも、窓から入った風に吹き飛ばされ、跡形もなくなった。


「って、もう終わったんか?」

 不自然に残った邦夫の制服の残骸を見て真琴が言った。

「遅いんや」

「で?」


 次にまだ仁南を胸に抱きしめたままの遥を見た。

「やっぱりアンタら、付き合ってんの?」

「そうなんか? ハル、手ぇ早いな」

 真琴の茶化しに澄もノッてくるが、

「それどころじゃないよ」


 遥は気を失っている仁南をお姫様抱っこした。

 その遥の胸元は血で汚れている。

「怪我したんか?」

 険しい目で血を見るが、真琴の嗅覚は仁南の血だと嗅ぎ分けていた。


 遥は右目から血流している仁南を心配そうに見下ろした。

「早く重賢さんのところへ連れて行こう」


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