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黒緋の勾玉が血に染まるとき  作者: 弍口 いく
第1章 右目の悪魔
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第2話 無敵の魔力 その9

 はるか悠輪寺ゆうりんじの庫裏に駆け込んだ。

仁南にな!」


 キッチンで珠蓮じゅれんと並んで調理していた仁南は、息せき切って駆け込んだ遥の勢いに目を丸くした。

 仁南の無事な姿を見てホッとしたものの、親しげな二人を見て遥は無性にイラっとした。


「なにしてるんだ?」

「なにって、カレー作ってるのよ、お肉を入れなくても、ちゃんと美味しくなるのね」

「だろー、お前も食ってけよ」

 珠蓮は遥の不愉快そうな顔など気にせずに言った。


 遥は肩を怒らせながらキッチンに突進、二人の間に割って入った。

「離れろ」

 珠蓮を押しのける。

「仁南がけがれる」


「相変わらず鬼嫌いだな」

 怒りもせず、苦笑しながら珠蓮は一歩退いた。

「酷いわ! 珠蓮さんは普通の鬼じゃないでしょ」

 珠蓮への失礼な態度に仁南のほうが腹を立てた。


「鬼は鬼だ、だいたいいつの間にそんなに親しくなったんだよ」

 遥の無礼を珠蓮はまったく気にしていなかったが、

「そういえば」


 珠蓮はふと表情を曇らせた。

「お前、芙蓉ふように会ったんだってな」

「あの鬼を知ってるのか?」


「家族の仇だ」

 仁南が知りたかった答えの一つだったが、こんなにあっさり知ることになるとは思いもよらなかった。


「はじめて、聞いた……」

 遥も意外だった様子。

「ずっと仇を捜してるって言ってたけど、名前は言ってなかったよな、というより、名前があったんだ」

「口にするのも嫌な名前だからな」

 珠蓮は辛そうに目を細めた。


「アイツに会って、よく無事に生還できたな」

 珠蓮は遥の頭に手を乗せた。遥のほうが長身なので、少々いびつな形にはなったが、

「気安く触るなよ」

 そう言いながらも、遥は珠蓮の手を払いのけずに俯いた。

「そうだったな」

 珠蓮は髪をクチャクチャと乱してから放した。


「それより、お前」

 遥は珠蓮から顔を背けると、仁南に向き直った。

「勝手に一人で帰るなよ」

「えっとぉ」

 仁南は白々しくカレーの鍋をかき回した。


「危険な妖怪がうろついてるんだ、気をつけなきゃ」

「そうなのか? じゃあ明日からは俺がボディーガードになろうか」

「なんでレンが!」

「どうやらこの子とは波長が合うんだ」


 珠蓮が仁南の肩に手をかけようとしたところを、遥はすかさす払いのけ、次の動作で仁南を引き寄せた。

 抗う間もなく、仁南はお玉を持ったまま抱きしめられた。


 そんな二人を見て、キョトンとする珠蓮。

「お前ら、付き合ってるのか?」


「違う!」

 また、キッパリ否定する仁南を、遥は不服そうに見下ろした。

「お前も、フラれることがあるんだな」

 珠蓮はこみ上げる笑いを堪えて肩を震わせた。


「そんなんじゃ、ないの」

 仁南は遥の体を押して、離れながら、

「あたしとハル君じゃ釣り合わないって」

「そうだな、チャラ男のハルに、気立てのイイ仁南はもったいない」

「そうじゃなくて」


「もういいよ、カレー食わせろ!」

 遥は不貞腐れながらテーブルに着いた。

 すかさず珠蓮が、盛りつけた豆カレーを目の前に置いた。


「食い終わったら、久しぶりに稽古つけてやる」

「稽古って?」

 仁南が尋ねた。

「武術の稽古、重賢に護符を習うのもいいけど、まずは軟弱な心身を鍛えなければな、誰かを護りたいなら、お前自身が強くなれ」

「わかってる」


「じゃあ、珠蓮さんは師匠じゃない、なんて口の利き方するのよ」

「師匠でも鬼は鬼だ」

 カレーをほおばりながらそっぽを向く遥。

 しかし、この二人には仁南の知らない強い絆があるのだと感じた。


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