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黒緋の勾玉が血に染まるとき  作者: 弍口 いく
第1章 右目の悪魔
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第2話 無敵の魔力 その6

「なんで綾小路あやこうじ君と一緒に帰ってんの、どういう知り合いかは知らんけど、釣り合ってへんってわかってる? 普通科のくせに、綾小路君の株が下がるわ」


 仁南になはいきなり数人の女子に囲まれ、体育館裏へ連れていかれた。

 昨日、はるかと仁南が一緒に下校しているのを見て、ヒソヒソ話をしていた女子たちだった。


〝イジメは起きない、真琴の友達に手出しするやつなんかいない″と遥は言っていたが、大外れだった。


「アンタなんかに付きまとわれて、綾小路君迷惑してるの、わからんか?」

(いやいや、付きまとわれてるのはこっちなんだけど)

 仁南は心の中で反論したが、その理由を言うわけにはいかない。遥が霊力目当てにくっついてるなんて、理解できないだろう。


 それより、仁南はこの状況にビビるより、少女漫画のヒロイン気分で妄想が広がっていた。

 遥とは特別な関係ではないので、彼が駆け付けるパターンではなくて、誰か他のヒーロー的男子が助けてくれる、というストーリーが出来上がる。


(まだ登場していない新たなプリンス、先輩だったらなおイイ。きっとサッカー部のエースストライカー、あたしは一目で恋に落ちて、毎日、練習を陰からそっと見守るの)

 などと……。


「ちょっと、聞いてる?」

 思わずトリップしていた仁南に、リーダー格の女子が迫った。

(……って、そんなことが現実に起こるわけないって、わかってるけど、もう少し妄想させてよ)

仁南はうんざりしながら死んだような眼を上げた。


 その時、

「やめろよ!」

 男子の声に、心は弾ませながらそちらを見ると、駆け付けたのはサッカー部のユニホームではなく、制服姿の中村邦夫だった。


 偶然、仁南が数人の女子に連行されるのを見かけた邦夫は、一瞬、遥に知らせようかと過ぎったが、僕も男だ! 気になる女の子のピンチを救えば、少しは自分に目を向けてくれるかも知れないと勇気を振り絞った。


「佐伯さんが誘ったわけじゃないよ、綾小路君のほうが彼女を待ってたんだ」

 間に割って入り、仁南を庇った。

「なんやな、アンタ関係ないやろ」

「俺はその場にいたから知ってるんだよ」


「綾小路君を待たせてたって、アンタ、弱みでも握ってんの?」

 矛先は再び仁南に向いた。


「彼はアイドルなんやで、汚い手を使って独り占めしようなんて、許さへんで」

 入学早々、遥はアイドルに祭り上げられたのかと仁南は感心した。


「佐伯さんはそんな子じゃないよ!」

 邦夫の言葉に、

「なになに、この女に気があんの?」

「もしかして、イイとこ見せようとしてるとか?」

「キモっ、でも、この二人やったらお似合いやん」


 バカにして冷笑する女子たちに、邦夫は言い返す言葉が見つからずに唇を噛んだ。


「はいはい、わかった、もうわかったわよ」

 見かねた仁南は、開き直って、

「あなた、名前は?」

 リーダー格の女子に目を向けた。

「岩井明美だけど」


「じゃあ、岩井さんに忠告されたから、アイドル綾小路君はあたしに関わらないでって、彼に言うわ」

「なんやて!」


「綾小路君も感謝するんじゃない? 自分のことをそれほど慕ってくれる人がいるんですものね」

「ちょ、ちょっと待って、それ本気?」


「当然でしょ、あ、岩井さん一人じゃ不公平ね、あなたたちの名前も教えてよ」

 仁南は後ろに控える数人を見渡した。

「あたしは関係ないし」

「あたしも」

 みんな急に弱腰で、ハラハラと去っていく。


「そんなこと告げ口されたら、綾小路君になんて思われるか……もうエエわ! この話はなかったことにして!」

「いいの?」

「綾小路君にはなにも言わんといてや!」

 最後に岩井も退散した。


「すごいね、君」

 アッという間に彼女たちを蹴散らした仁南に、邦夫は称賛のまなざしを向けた。

「あんな人たちに舐められて黙ってるもんですか、あたしをただの地味女と思って見くびっていたのね」


 大人しそうな見た目とは裏腹、仁南は気の強い女である。そうでなければ、見えるが故にあやかしたちに纏わりつかれて、正気を保てるわけがない。


「あたしはイジメられっ子タイプじゃないから、いざとなったらちゃんと反撃する根性はあるのよ」

「僕は役立たずだったね」

 面目ないとばかりに肩を落とす邦夫に、仁南は笑顔を向けた。


「ありがとう、助けに来てくれて、でも、そのせいで嫌なこと言われちゃったわね、ゴメンなさい」

「大丈夫だよ、慣れてるから」

「そんなのに慣れちゃダメよ」

「俺も君くらい勇気があれば……」

「えっ?」


「俺は……」

 邦夫が言いかけた時、チャイムが鳴った。

「あ、予鈴だ」

「急ぎましょ」

 二人は会話を中断して、その場を後にした。





(僕はなにを言いかけたんだ……)

 教室に戻った邦夫は自己嫌悪に陥った。


(僕はイジメにあっていた、って打ち明けるつもりだったのか? 同情を買おうとしていたのか? 佐伯さんなら同情してくれると思ったのか?)

 邦夫は悶々とするあまり、教師の言葉がまったく耳に入らなかった。


 邦夫が親元を離れてこちらへ来たのは、中学時代にひどいイジメを受けたことに起因する。精神的ダメージは深刻で不登校になった。

 地元にいると苛めた生徒に会うかもしれないと、家から出られなくなるまで追い詰められていたので、遠く離れた親戚の家に逃げてきたのだった。


(こんなこと、誰にも言えない。知られたらまたイジメられるかも知れない。同情されるどころか、軽蔑される。危ないところだった、口走らなくてよかった)

邦夫は予鈴に感謝した。


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