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黒緋の勾玉が血に染まるとき  作者: 弍口 いく
第1章 右目の悪魔
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第2話 無敵の魔力 その5

 邦夫くにおが足早に出た校門に、仁南になはるかもゆっくり向かっていた。

「当番って、なんだよ」

 馴れ馴れしく顔を近付ける遥に、仁南は顔を背けた。


 初めて会ったあの日も、引き寄せられ抱きしめられ、心臓が破裂するかと思う目に遭わされたことを思い出し、またドキドキが止まらない。

 遥はそんな仁南の反応を面白がっているように見える。


「放課後に図書室で受付とかするのよ」

「完全下校時間までか?」

「そう」

「どうやって時間つぶすかな」

「待っててくれなくていいわよ」


「なんだよ、嫌なのか?」

 非難がましく言う遥に、仁南は少々困り気味。

「嫌って言うか……、ほら、なんかさぁ、冷ややかな視線を感じるから」

「気のせいだろ」

 明らかに気のせいではない。周囲の特に女子生徒は、二人を見てヒソヒソ話をしている。


「違ーう! あたしとハル君じゃ釣り合わないからよ、一緒にいるのが不自然なのよ、中村君だって驚いてたでしょ」

「まだ言ってるのか、釣り合うもなにも、行き先が同じだから一緒に帰ってるだけだろ」


「そうなんだけど、でもね、このパターンは少女漫画のセオリーでは、誤解されて妬まれたヒロインが意地悪されるのよ、上履きを隠されるとか、机に落書きされるとか」


 仁南は妄想の世界にトリップをはじめた。

「イジメはエスカレートして、可愛そうなヒロインは、悩んで、でも、彼のそばにいたいし、どうしたらいいかわからなくて……」


「お前、俺のそばにいたいのか?」

 ハルに突っ込まれてハッと我に返り、仁南は耳まで真っ赤になった。


「そんなイジメは起きないから心配するな、真琴の友達に手出しするやつなんかいないよ」

「真琴さんって、スケバンなの?」

「いつの時代の話だ、って、また妄想の世界か? そんなマンガありそうだもんな」


 遥はため息交じりに、

「お前さぁ、自分を低く見過ぎなんじゃない? 中村だってお前と一緒に帰りたそうにしてたじゃないか」

「お近づきの挨拶してただけよ」

「そうか?」

 遥は悪戯な笑みを浮かべながら、また仁南に顔を近づけた。


「ストップ!」

 今度は両手を顔の前に掲げてのけ反った。

「あなた、自分の顔がどれだけの破壊力を持ってるか知らないの?」

「知ってるよ、俺、モテるもん」


 やっぱりからかってるんだ、と仁南はゲッソリした。

「あたしで遊ばないで」



   *   *   *



 急な残業ですっかり遅くなってしまった若いサラリーマン佐藤恭介は、疲れながら家路を急いでいた。


(なんであんな先輩の尻拭いせなアカンねん!)

 恭介は心の中でぼやいた。予定外の残業は先輩のミス、もともと仕事ができない先輩のうっかりミスなのに、引継ぎが悪かったとか、聞いてないとか、ミスの原因をかぶせられた。


 手柄は横取り、ミスは押し付けられる。パワハラ通り越して陰湿なイジメだ。そしてそれに気付かない無能な上司。移動願いはずっと出しているが、なかなか通らない。そりゃそうだろう、まともに仕事ができる自分が抜ければ、業務が回らないんだから。

 転職の二文字がちらつく。


(それよりも今はクタクタだ、お腹もすいたし……冷蔵庫になにかあっただろうか? コンビニ寄ってくか)

 などと考えながら、夜道を足早に歩いていると。


<そいつら、消してやろうか?>

 闇の中から声がした。

「やべぇ、疲れすぎて幻聴が……、いよいよ限界か」

 恭介は頭を振った。

<消してやろうか?>

 しかし再び聞こえる。


「出来るならそうしてほしいよ、まったく」

 幻聴と思いながらも返事をした。

<では叶えよう、契約成立だ>

「えっ?」


 急に目の前が真っ暗になった。

 街灯は明るかったはず、まだ開いている店のネオンも灯っていたはず、なのに、停電か? 一瞬の間にいろんな考えが浮かんだが、どれも違っていた。


 恭介の顔を、黒い影が覆っていた。

「うぐっ」

 息が出来なくなった。なにが起きたのかわからない、恐怖でパニックに陥りながら、彼は膝を折った。


 黒い影は彼の口をこじ開けて捩じり込んだ。

 悲鳴を上げることすらできない。

 恭介の四肢が痙攣する。


 そのまま地面に倒れるかと思ったが、ほどなく立ち上がり、何事もなかったようにまた歩き出した。


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