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黒緋の勾玉が血に染まるとき  作者: 弍口 いく
第1章 右目の悪魔
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第2話 無敵の魔力 その4

 重賢じゅうけんに封印の護符を作ってもらった侑斗ゆきとは、流風るかとともに、学校が終わるとすぐ、封印から解放された妖怪の探索を始めた。


 その妖怪とは寄蟻やどりぎの女王蟻だった。

 三百年程前、綾小路の退治屋に捕獲され封印されたが、落雷で祠が倒壊し、解き放たれてしまった。


 寄蟻は女王を核として、数万の働き蟻が行動を共にする。女王は人間に寄生してその体内に身を隠す。そして他の人間を喰って妖力を増強させ、やがて宿主の体内で産卵して働き蟻を増やしてから、宿主を殺して出てくる、そんな恐ろしい妖怪だった。


「ハルはなにしてんのや、狩りの仕事そっちのけで」

 侑斗はぼやいた。

仁南になに夢中」

 流風は素っ気なく言った。


「はあ? 見える子らしいけど、見た目は普通やん」

 と言いながら、侑斗は美しい流風の横顔に目をやった。髪を耳にかける何気ない仕草にも心奪われる美少女ぶり、こんな子だったら夢中になるのもわかるけど……と、任務中なのを忘れてしばし見とれてしまった。


 流風は侑斗の視線には気付いていたが、気にせずに続けた。

重賢じゅうけんさんに、お世話係に任命されたから付きっきり」

「なんでアイツなんや?」

「波長が合うとか」

「なんやそれ?」


 二人はもう一度、倒壊した祠に来ていた。

 なにか見落としはないか、手掛かりは残っていないかと、念入りに調べに来たのだ。


「別にハルがいなくても大丈夫」

「この状況、捜索人数は多いほうがエエやろ、どこに潜んでるのかわからんし」

 不服そうな侑斗をよそに、流風は壊れた祠をもう一度確かめた。


「やはり痕跡はない」

「手がかりなしか、もう遠くへ逃げたかな」

「それはない、三百年の封印で弱ってるから」


「妖力を取り戻そうと、人を襲うってことか」

 侑斗は最悪の事態を危惧したが、流風はそれよりも、

「その時がチャンス、妖気が漏れるからキャッチできる」

「犠牲者が出なけりゃ、探せへんってわけか、厄介やな」


「最小限の犠牲者で済ませるしかないな」

 二人は表情を厳しくした。



   *   *   *



「図書委員に選ばれた皆さん、一年間、よろしくお願いします」

 担当教師の挨拶が終わり、当番が決められた。


 仁南は図書委員に立候補した。

 本を読むのが好きだった、主に漫画だが普通の小説も読むし、こういう集まりに参加すれば、趣味が合う人と知り合えると思っての立候補だった。


「一回目は君とだね、僕は1-1の中村邦夫、ヨロシク」

 委員は各クラスから一名、放課後二名ずつ図書室での受付などをするのだが、当番は月に二回程度、くじ引きで、同学年の中村邦夫とペアに決まった。


「1組って特進クラスでしょ、頭いいのね」

 邦夫は黒縁眼鏡をかけた、見るからに勉強できますって感じの真面目そうな少年だった。

「そんなことないよ」

 遥と同じクラス、でも彼と違って謙虚、普通の人なんだと仁南はホッとした。


「佐伯さんは関西弁じゃないんだね」

「そう言うあなたも」

「家庭の事情で横浜から来たんだ、親戚の家でお世話になってる」

「あたしも家庭の事情で東京から来たのよ」

「そうなんだ、こっちの生活には慣れた?」


「まだまだ、土地勘もないし、関西弁にも慣れないわ」

「わかる」

 邦夫の穏やかな笑みを見て、仁南はこういう普通の生徒のほうが違和感なく話せるので楽だと思った。


「友達とかできた?」

 そう聞かれて、彼は遥たちとの関係を知らないんだと安堵した。


「まあ、なんとか……でも図書委員になったのは、趣味の合う友達ができればなって思ったからなの、って言っても、ほんとは漫画好きなんだけどね」

「同じだ、文学も読むけど、やっぱ漫画が一番、じゃあさ、友達になろうよ」

「もちろん、ヨロシクね」

 しかし……。


「遅い!」

 正面玄関まで来ると、遥が仁王立ちしていた。


「待ってたの?」

「なにその薄い反応、そこは感激するとこだろ、俺がわざわざ待っててやったんだぞ」

 入学式からずっと、遥は仁南を悠輪寺まで送ってくれている。断っても、重賢に頼まれていると却下される。


「今日は委員会だから遅くなるって言ったのに」

 遥は邦夫をチラッと見てから、聞かれないよう耳打ちした。

「妙な妖怪がうろついてるらしいんだ、お前、狙われやすいから」


 そんな二人を意外そうに見ている邦夫に、遥はまだいたのか? という顔を向けた。その視線を感じて、いたたまれなくなった邦夫は、

「じゃあ佐伯さん、当番の日、ヨロシクね」

 邦夫は逃げるようにその場から立ち去った。





 遥のほうは睨んだつもりはなかったのだが、邦夫は彼の視線が痛く突き刺さった。まるで、お前みたいなやつが、俺の友達と喋ってるんじゃないよ! と言われたような被害妄想に陥った。


「なんだ、ちゃんと友達いるじゃないか、それも極上の」

 校門に向かいながら邦夫は独り言ちた。


 同じクラスの綾小路遥のことはよく知っていた。

 まだ入学したばかりだが、すでに目立っているクラスカースト最上位のグループ。あんな風になりたかった憧れの存在でもある。


「僕なんかお呼びじゃないだろ」

 


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