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黒緋の勾玉が血に染まるとき  作者: 弍口 いく
第1章 右目の悪魔
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第2話 無敵の魔力 その3

 仁南になはるかはクラス分け票を見上げていた。


「俺は特進科だから普通科のお前と同じクラスになれないのはわかってたけど、一人で大丈夫か?」

遥は心配そうに言った。


 仁南が悠輪寺ゆうりんじに来てアッという間に一週間が過ぎ、高校入学の日を迎えた。

 遥が朝、寺まで迎えに来てくれたので一緒に登校したが、目立つ遥と並んでいるのが居心地悪かった。


 周囲の生徒たち、特に女子が、チラチラとこちらを見てはヒソヒソ話をしているのがわかった。


 そこへもう一人、人目を惹く人物が現れた。

「コイツか、悠輪寺の居候は」

 ぶっきらぼうにそう言って仁南を見下ろしたのは、目つきが鋭くクールな感じの沢本侑斗(ゆきと)だった。


 身長は遥と同じくらいだが、制服の上からでも筋肉モリモリなのがわかる、ゴツイという言葉がピッタリのマッチョな体格だ。

 あの日、仁南は気絶したままだったので、侑斗とは初対面になる。


「侑斗と会うのは初めてだったな」

「ええ」

「こいつは沢本侑斗、俺とはハトコだ」

 少し声を潜めて、

「こいつも綾小路のハンターだよ」

「そうなんだ」


 侑斗は物珍しそうに仁南をじっと見つめていた。

(あたしが見える子だって知ってるんだ)

 侑斗もハンターなのだから、当然見える人なのだろうが、珍獣でも見ているような侑斗の眼差しに、仁南はなんだかいたたまれなくなった。


 それに気付いた遥は、仁南の頭にポンと手を置いた。

「大丈夫だ、愛想ないけど、イイ奴だから」


 入学早々イケメン二人に挟まれた仁南は、自分がこのポジションにいることが不自然で落ち着かなかった。

 周囲の視線が痛く刺さる。

 仁南はこれからの高校生活に一抹の不安を覚えた。



   *   *   *



「なあなあ、佐伯さんって綾小路君と同中なん?」

「ずいぶん親しそうやったけど、付き合ってんの?」

 教室に入ると仁南はたちまち数人の女子に囲まれた。


 不安は早くも的中した。静かに平和に、目立たないように過ごしたかった仁南だったが、それはもう無理そうだ。


「付き合ってないよ、ただの知り合い」

「そうは見えへんかったけどな、頭ポンポンされてたし」

「綾小路君と沢本君って、特進科のツートップやろ、顔良し頭良し、スポーツも万能らしいし、入学早々注目株やん、そんな二人とどういう知り合いなん?」

 などと、質問攻めに合う。


「二人は、あたしが今、お世話になってるお寺の親戚なのよ、それで親切にしてくれてるだけよ」

 最低限の説明にとどめた。


「そうなん? って、佐伯さん関西弁(ちゃ)うんやな、どこ出身」

「東京、家庭の事情で、悠輪寺って言うお寺で高校の三年間、居候させてもらうことになったの」

「そうなんや、親元離れてるんや、困ったことがあったらいつでも言うてや」


 みんなフレンドリーに接してくれるが、下心は透けていた。

(きっとハル君、ユキ君とお近づきになりたいんだろうな)



   *   *   *



「どうやった、クラスには馴染めそうか?」

 HRは終わり、仁南は靴を履き替えているときに会った真琴と一緒に帰ることにした。心配して待っていてくれたのかな、とも思った。


「紹介するわ、本間咲子、小中から一緒の友達」

 引き合わされたのはショーカットがよく似合う、明るい笑顔の普通の少女だった。

「サキって呼んで、ヨロシクな」

 咲子を見て仁南はホッとした。京都に来てから、やたら美男美女ばかりと遭遇したので、やっと普通の人と知り合えたことに安心した。


「佐伯仁南です、よろしくお願いします」

「サキは新聞部で情報通やし、顔も広いし、わからん事あったらなんでも聞きや」

 先輩の知人がいることは、仁南にとって心強い。


「ほな、あたしはバイトあるし、先に行くわ、バイバイ」

「バイバイ、また明日」


 先を急ぐ咲子を見送ってから、真琴と仁南はゆっくり校門に向かった。

「サキは頼りになるしな、この間、紹介した湖月こげつとおるの親戚やねん。サキにも澄と同じ湖月家の血が少し流れてるんや」

 澄も霊力が強くて見える人だと紹介されていた。


 真琴は少し声をひそめた。

「そのせいかサキは妖怪に耐性があるみたいで、長い間あたしと一緒にいても妖気の影響を受けへんみたい、けど、彼女はなにも知らんねん、あたしの正体も、流風や遥たち綾小路家の人間が妖怪退治してることも」


「妖気の影響って?」

「自分では気を付けてるつもりなんやけど、どうしても妖気が漏れてるみたいやねん」

「妖気が漏れたらどうなるの?」


「普通の人は長く傍にいると妖気にあてられて気分が悪くなるみたい、うちの祖父母は霊力が強くて浄化できるし、一緒に暮らしてても大丈夫みたいやけど……、流風や澄もそう、仁南もやろ?」

「浄化って、意識はしてないけど」

「けどアンタは相当強い霊力を持ってるで、ハルが妬むくらい」


「誰が妬んでるんだよ」

 校門に差し掛かったところで、遥が突然、後ろから割り込んだ。

「なんだよ、一緒に帰ろうって言ったのに」

 遥は馴れ馴れしく仁南の横にピッタリついた。


「なになに、あんたらもう付き合ってんの?」

 それを見て真琴は茶化した。

「違う!」

 きっぱり否定する仁南を遥は不服そうに見て、

「俺も悠輪寺に行くから……、和尚にも仁南のことヨロシクって頼まれてるからな」

 素っ気なく言った。

「それ、人選ミスやな」

「なんでだよ」


「真琴はこっち」

 いつの間にか追いついた澄が真琴に並びかけた。

 真琴の手を取り、恋人つなぎする。

「仁南ちゃんはハルに任せて」

 そう言って、口元から白い歯がこぼれる爽やかな笑顔を向けた。


「ほな仁南、また明日」

 手をつないで去っていく真琴と澄はとても絵になるカップル。

 仁南はポカンと見送りながら、

「あの二人って」

「ああ、付き合ってるよ」


「そうなんだ、紹介してくれた時はなにも言ってなかったけど」

「真琴はああ見えて超照れ屋だからな、中二の時に出会って、澄君のほうが一目惚れで押しまくったらしいよ」

「お似合いね」


「お前なぁ、この間もそうだったけど、なんで俺との関係を必死に否定するんだ?」

「事実じゃないから」

「でも普通の女子は、俺の彼女と思われたら、間違いでも喜ぶだろ」


(イケメン怖っ! 誰もが自分を好きになると自信満々なんだ、まあ、この顔面に見つめられたら……)

 仁南は赤くなる顔を見られるのが嫌で顔を背けた。


「普通じゃなくてゴメン」

 遥みたいにキラキラした人種とかかわるのは妄想の中だけでよかった。リアルな友達になれるなんて思っていなかったし、身近すぎると妄想しにくい。


「もしかして、俺、嫌われてる?」

「まさか、そうじゃないわよ、ただ、あたしとじゃ釣り合わないでしょ、真琴さんと澄君なら自然だけど」

「ああ、そっちか、自分に自信がないんだな」

 非難がましい目を向けながら、俯いた仁南の頭に手を置いた。


「だからそれは」

 仁南はその手を払いのけた。

「俺は人目なんか気にしない、せっかく友達になったんだ、お前もつまんないこと気にするなよ」


(わかってるわ、ハル君にとってあたしは利用価値がある存在だから友達になってくれたんでしょ。あたしから霊力をもらうために……)


 それがわかっている仁南は、ギュッと胸が痛んだ。


湖月澄が登場するのは『金色の絨毯敷きつめられる頃』の『第5章 湖月宮』からです。読んで頂けたら幸いです。

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