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黒緋の勾玉が血に染まるとき  作者: 弍口 いく
第3章 運命の人
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第2話 女難の因縁 その16

「昨日、お葬式やったらしいな、あたしは接点なかったし行ってへんけど」

 先日、事故死した史乃ふみのの葬儀のことだった。

「あたしも少し話したことはあるけど、親しくはなかったし」


 ここのところ弥生やよいは毎日、仁南になと一緒に昼休みを過ごしてくれていた。仁南があの事件に巻き込まれてから気遣ってくれている。


「お母さんのお墓参りに行った墓地で、石階段から落ちたんやて、打ち所が悪くて即死やったらしいな、妹さんが目撃してたらしい、大丈夫やろか、目の前でお姉さんが亡くなるなんて、トラウマになるやろな」

「可哀そうに」


「不慮の事故やねんけど、図書委員は妙なこと言われてしもてるんやで、中村君の失踪に続いて、仁南の事件、三和さんの事故、図書委員は呪われてるって」

「呪いって、なんの?」

「知らんけど、あたしらまで呪われてるとか言われたらかなんし」


 中村邦夫は妖怪の殺されたのだ。でも、三和文乃は不慮の事故だろう、どちらも呪いではないのに、変な噂が広がらなければいいと仁南も心配した。


「今回の事故、図書委員の呪いは関係ないみたいやで」

 突然、話に入って来たのは東雲しののめ紗和さわだった。

「紗和、アンタこのクラスやったな」

 旧知の弥生はテンション高めに挨拶した。


「紗和とは同中やねん、バレー部で一緒やったけどあたしは中学まで、うちの高校けっこうバレー部強いし、ついてけへんと思て」

「正解、中学の時みたいにぬるないし、虚弱な弥生は無理」

 紗和は170センチ越えの長身で、見るからにスポーツ選手の逞しい体格だ。

「言うてくれるやん」


「ここんとこ毎日来てるのは見ててんやけどな、こっちのクラスでお昼して大丈夫なんかなぁと思ててん」

 紗和の言葉を受けて、仁南も気にしていたことを言った。

「そうよ、今まで同じクラスの友達とお昼食べてたんでしょ、抜けて気まずくならない?」


「そんなんかまへん、クラスの友達には事情を話してあるし、わかってくれてる」

「相変わらず弥生は面倒見がエエなぁ」

「それよりなんやな、図書委員の呪いは関係ないって」

 紗和は椅子をくっつけた。


「バレー部の子に聞いてんけどな、その三和さんと同中やった子で、近所で変な噂が流れてるって」

「変な噂?」

「あれはただの事故やなかったんちゃうかって」


「その話、あたしも聞いた」

 紗和の言葉尻を耳にした女子が、いきなり加わった。

「なになに?」

 そしてもう一人、仁南たちの周りに人が集まる。こんな状況ははじめてなので仁南は面食らった。


「三和さんのお母さんって、お父さんの再婚相手で継母やねんて、実の娘とずいぶん差つけられていびられたらしいし、虐待され過ぎたんちゃうかって」

「その話、ママから聞いたことあるわ、ご近所の井戸端会議のネタになってたって、その継母って元々は不倫相手やったらしい、先妻の娘なんか邪魔やし殺したとか……」


「えーっ! それほんまなん」

「捜査とかされてんの?」

「ママ、警察に聞かれたって」

「刑事の聞き込みってやつ?」

「それそれ!」

 言い出しっぺの紗和はそっちのけで、後から加わった数人の女子たちが我先にと噂話が盛り上がった。


 弥生たちはその輪から弾き出されてしまった。

「ご近所のオバサンたちの噂話?」

 弥生は呆れ顔で紗和に尋ねた。

「噂がホンマやったら、図書委員は関係ないやろ」

 紗和は噂の真偽を測りかねていたが、

「そんなサスペンスドラマみたいなことあるかいな」

 弥生は歯牙にもかけなかった。


「とんでもない噂やな、残された家族が気の毒やわ」

「怖いわね、噂って」

 仁南はしみじみと言った。


「火のないところにも煙は立つって仁南の件でわかったし、紗和もあんまり真に受けんときや、紗和は昔から単純ですぐに信じてしまうしな」

「ま、確かに、佐伯さんのことも誤解してたみたやし、ゴメンな」

「あたしは別に」


「紗和とも話し合うかも、仁南、今異世界ものにハマってるんやで」

「そうなん、あたしも」

「紗和はこう見えても、けっこう夢見る乙女なんやで」

「こう見えてもって、どう見えてるんやな」

「雌ゴリラ」

「なんやて!」


 じゃれ合うのを見て、こんなふうに遠慮なく言い合える二人を仁南は羨ましく思った。



   *   *   *



(芙蓉が殺したのか?)

 遥は後悔の念に震えていた。

 史乃の死の真相が気になって頭から離れない。


(もし芙蓉が手にかけたのなら、三和の死は俺のせいだ。しかし、違和感が拭えない、芙蓉があんな方法で殺すのだろうか? 妹も一緒だったと聞くし、ただの事故だったんだろうか)


 遥は非常階段の裏側で、座り込んでいた。

 そこは死角になっていて格好の隠れ場所、もう、史乃に尾行されることはないし、誰も来ないだろうと思っていたのだが。


「ハル君」

 仁南が顔を覗かせた。

「なんでココがわかった?」

「なんとなく、ハル君の居場所はわかるの」

「お前から会いに来るなんて珍しいな、学校では避けてるだろ」


「それはハル君といたら目立つから、あたしはひっそり過ごしたいのよ、でもハル君、ここ二、三日元気ないし……三和さんが亡くなってから」

 史乃の事故死以来、遥が沈んでいるのは目に見えていた。仁南は史乃の死にショックを受けているのだと思っていた。


 仁南は遥の隣に座った。

「一緒に帰ったこともあったじゃない、ハル君は同じクラスだし、彼女のこと気になってたから、ショックを受けてるんじゃないの?」

「はあ? なんで俺が」


「彼女、頭も良くて同じ特進だから話も合ったんじゃない? それにすごく可愛かったし」

 彼女が遥狙いだったのは見え見えだった。遥もあんな可愛い子にモーションかけられてまんざらでもなかったのではないかと仁南は思っていた。


「もしかしてヤキモチ焼いてたのか?」

「違っ!」

「勝手に勘違いするなよ、アイツに興味なんか欠片もなかった」

 それどころか、近寄りたくない相手だった。

「お前も苦手なタイプだったろ」


「正直そうだけど、でも、知っている人が突然亡くなるなんて、ショックよ、それに、変な噂流れてるし、気の毒で」

「ああ、みんな噂好きだな」

 遥も仁南が聞かされたような話は耳にしていた。


 仁南は史乃が黒幕であることは知らない、今更明かす必要もないだろうと遥は口を噤むことにした。知ったら傷つくだろうし。

 芙蓉の仕業か、不慮の事故かはわからないが、どちらにせよ当面、仁南を脅かす危険は去った。


(どちらにせよ、芙蓉に頼んだ時点で罪は犯しているんだ。俺が仁南のために主義に反することをしたことを仁南は知らない、知られてはいけない。俺もいつか、今回のことで報いを受けることがあるかも知れない、仁南に火の粉がかからなければいいけど)


 それだけではない、この先も彼女が妖怪に狙われることにはかわりないし、芙蓉も黒緋くろあけ勾玉まがたまを手に入れようとしている。自分は仁南を護れるのか? と自問しながら、遥は思わず仁南の手を取って引き寄せた。


 ギュッと抱きしめるのはいつものこと、仁南から霊力を貰う儀式のようなものだから、彼女も慣れているはず……なのに、仁南の身体が小刻みに震えていることに遥は気付いた。


「仁南?」

 呼びかけに顔を上げた仁南は血の気がなく真っ青だった。必死で平気な顔をしようとしているが、高い心拍数が動揺を現していた。


(ああそうか、まだダメなんた、あの時の恐怖が消えてないんだ)

 慌てて、抱き寄せていた手を緩めて、彼女の体を離した。


 予鈴が聞こえた。


「行かなきゃ」

 仁南は俯きなが震える声で言った。遥に気付かれたのはわかったが、身体が拒絶反応を起こしてしまうのは止められなかった。

 でも、嫌がっていると思われたくはない、必死で笑みを浮かべて上を向いた。


 その作り笑いを見て、遥は胸が締め付けられた。

「終わったら、正面玄関で待ってろよ、今日からまた送ってくから」

「本家の用事は?」

「もういいんだ」

(今は、お前の傍にいたい)


「そう」

 和らいだ仁南の表情を見て、一緒にいることを嫌がっているわけじゃないんだと、遥はホッとした。

 仁南の様子に一喜一憂する自分が滑稽だった。


「運命の人なのか?」

 遥は思わず呟いた。

「なに?」


 聞き取れずに小首を傾げた仁南を見て、彼女はどう感じているんだろうと遥は気になったが、

(今は聞けない、俺にはまだやらなければならないことがあるし、それによって命を落とすことになるかも知れないし)


 遥の脳裏に芙蓉の顔が浮かんだ。

 美しい人間の姿の時の芙蓉、しかし、醜悪で凶暴な鬼の姿もダブって見えた。


(もし、返り討ちに遭うようなら、俺はお前にとっての運命の人じゃなかったってことだから)


   第2話 女難の因縁 おしまい


ここまで読んでいただきありがとうございます。

まだ続きますが、頑張って完結させますので、最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。


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