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黒緋の勾玉が血に染まるとき  作者: 弍口 いく
第1章 右目の悪魔
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第2話 無敵の魔力 その2

「彼女を知ってるんですか?」

 芙蓉ふようの名前を聞いて、急に表情を険しくした珠蓮じゅれんに、仁南になは恐る恐る聞いた。


「ああ」

 珠蓮は表情を硬くしたまた素っ気なくそう返した。

 それ以上、話す気はないことが、凍り付いた表情からわかった仁南はガッカリした。みんな秘密を抱えているが、新参者には打ち明けてくれない。


「あいつと遭遇してよく無事だったな」

「ええ」

 仁南は拉致されて吸血鬼の屋敷に連れていかれた出来事を完結に話した。


「クソっ! 俺が見当違いのところを捜してる間に、そんなことがあったのか!」

 珠蓮は悔しそうに拳を握りしめた。

「お前、来た早々、えらいことに巻き込まれたんだな」

「そうなんですよ、ハル君がいなければ殺されてました」

 遥との大接近、何度も抱きしめられたことを思い出して、自然と顔が赤らんだ。


「で、ハルに惚れたのか?」

 見透かされて、仁南はさらに真っ赤になった。

「そんなことは……会ったばかりだし」

「出会いが強烈だったみたいだけど、でもそれって、吊り橋効果だからな、スリルのドキドキを、恋愛のドキドキと勘違いするってやつ」


 確かにそれは的を射ていると仁南は思った。鬼に拉致され、吸血鬼の屋敷に連れていかれて、いつ殺されるとか、心臓が口から飛び出すくらいドキドキの連続だったあの日、ずっと遥と一緒だったのだ。


「ハルはやめとけよ、お勧めできない」

「ハル君をよく知ってるんですか?」


「ああ、ガキの頃からな、と言っても会ったのは三年ぶりだ、ずいぶんデカくなったけど、甘えん坊でヘタレなとこは相変わらずだ」

「甘えん坊って」

 あの時は男らしくて頼りになったけど、と仁南は否定したかったが。


「あいつ、母親にくっついてロスに行ってたんだよ」

「ロスって、アメリカのロスアンゼルス?」

「母親のまどかも若い頃ハンターだったからよく知ってる、引退してから医者になって、今では世界的にも有名な外科医で、ロスの病院に招かれたんだ、マザコンのハルはついて行ったってわけ」


「そうなんだ」

「まあ、当時、色々あってへこんでたからな、逃避したんだよ、根性なしが、やたら身長ばかり伸びて、俺、すっかり抜かされて見下ろされるのがムカつく」

 遥のことは聞いてもいないのによくしゃべるんだな、と思いながら仁南は彼のことを少し知れて嬉しかった。


 その後も遥とは顔を合わせているので意識せずにはいられないが、

「ハル君とどうこうなれるなんて思ってないから大丈夫ですよ、重賢じゅうけんさんに頼まれてるからだってわかってます、でなきゃあたしなんか相手にしませんよ」


 仁南が悠輪寺ゆうりんじに来て、あっという間に三日が過ぎていた。


 この三日、遥は重賢の言いつけを守ってか、毎日、寺に来ては仁南の世話を焼いた、と言うより、引っ越し荷物片付けの邪魔をした。

「重賢もなんでハルに頼んだんだ、あんな頼りない奴に」

 珠蓮は不服そうに吐息を漏らした。


 そして息をついてから、いつになく口がよく回っている自分に気付いて不思議に思った。初対面の少女とこんなに長話をするなんて普段の自分ならあり得ない、聞かせなくていいことまでしゃべりそうになってしまった。


(ああ、きっと波長が合うんだ)

 そう思い至ったとき、無意識に手を伸ばし、仁南の頬に触れていた。

 指先から温かいものが流れ込む感触、これはなんだろう? と珠蓮は首を傾げた。


「えっ?」

 いきなり頬に触れられて、仁南は驚いたが、不快感はなかった。

 珠蓮は仁南をまっすぐ見つめ、ハッと我に返った。


「あ、ゴメン」

 手を引っ込めたが、その時、

「お前の右目」

 違和感を覚えた珠蓮は、顔を近付けた。


 遥ほどではないが、珠蓮もなかなかのイイ男、仁南はたちまち真っ赤になった。


「なにかが……」

 仁南の反応など気にせずに、珠蓮は接近して右目を覗き込んだ。

(これって、キスする距離じゃない!)

 仁南はドキドキしながら珠蓮を見上げた。


 しかしすぐに、彼が右目の異様さに気付いたとわかった仁南は、いたたまれなくなって俯いた。


 冴夜さよに〝右目に無敵の魔力が宿っている″と言われたことは、さっきは省略した。もちろん、悪魔が宿っていると思っていることも話していない。だが珠蓮は見抜いたようだ。


「そう言えば、理煌りおは魔石を体内に取り込んでいるから、人間なのに単独でここへ入れるんだ、お前もその口かな」

「魔石?」


「お前の目になにかが潜んでいる」

 それが何なのか、この時の珠蓮にはわからなかった。もちろん仁南自身も。


「理煌って誰です?」

「真琴とは会っただろ、アイツの友達だよ、今はバイオリンの修行でドイツに留学中」

「その人もあたしの右目みたいに悪魔を潜ませているんですか?」

「悪魔? そんなとこに悪魔は入らないだろう」

 珠蓮はバカにしたように笑い飛ばした。


(右目の異物が関係しているのかも知れないが、冷酷無比な吸血鬼や鬼が仁南を餌食にしなかったことは不可解だ。霊力の強い彼女はこの上ないご馳走のはず、芙蓉が逃がすなんて考えられない)

 珠蓮は思った。


(なにか訳があるんだろう。だとしたら、またこの子に会いに来るかも知れない、この子の傍にいれば芙蓉と会うチャンスがあるのかも)


名前だけ登場した〝理煌〟は、『金色の絨毯敷きつめられる頃』の『第3章 琥珀』からシリーズに登場します。読んでいただけたら嬉しいです。

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