フリーターの残骸はコンビニに向かう。
残骸・・それはクズだ。残骸・・それは私だ。残骸・・それは罪だ。残骸・・それは悪だ。
きっかけは単純だった。昨日今日の発端ではない。がめつい意志がそうさせた。私は人間なのだろうか。人間だったらこんな風ではない。感情がある。心がある。でも私には心が無い。どこがそうさせたのだろうか。私には目指すものが無い。着火点が無い。でも行きたいんだ。矛盾してる。何処かで認められたいんだ。グダグダと悩んでしまっている。ゆらゆらと定まりのない・・。だらだら悩んでしまっては道理が無い。一旦外に出かけよう。暑い日差しを浴びるように突き刺す紫外線が眼を閉じさせた。
外に出てしまっては、こうはいけない。暑すぎる。近くのコンビニに退避するんだ。
コンビニのアイスが目に付く。嗚呼!アイスがある。今の私にはうってつけだ。アイスがあるだけでこうも救われる気持ちになるのだろうか。メシアだろうか。何でも良い。私は飛びついてみせた。そうしたら、勢い余って足が縺れてしまった。その拍子に転びそうになってしまった。っと危ない。しかし転ばなかった。何故だろう。手が、繋がっている。如何して?目の前にはコンビニの店員さんが居た。店員さんの手を握っているではないか。「ああ、ごめんなさい!」「あなたでしたか!」「え?」「いや、いつも来てくださるので顔を憶えていたんですよ。で、転びそうな人が居たから助けたら、いつもの常連さんだと思ってね。」
私は逃げ方が分からなかった。
「え?凄くよく見てくれてるんですね。」「ああ、まあ気持ち悪がられるかもしれないけど、よく来るなと思っていたので…。」彼は、凄く申し訳ないという風に困った感じで声を少々震わせながら言った。「ああ、やっぱりちょっと気持ち悪いですよね。困らせてしまったかな…。」モハヤ独り言のレベルで彼はぼそぼそと言った。「あ、いやそんなことはないですよ。ただ覚えてもらってたんだという驚きがあったので、なんというか…。」なんというか何なのだと自問自答しながら気まずい空気が流れてしまった。どうしようか。途端にふふっとお互いに見合わせて笑ってしまった。この現状回避の笑いに救われた。「あぁ、よかった。なんかお客さんに嫌われてしまったかなって思いまして。あーだい、じょうぶでしたか。今更ですけど転ばなくて良かったです。それじゃあ僕はレジに戻りますんで、お客さんはゆっくりしてってください。」これは一体どうしたらいいのだろうか。勿論、自分の好きにすればいいのだろうとは判ってはいたが、名前でも言えればよかった。タイミングを図っていたら会話が終わってしまった。普通の店員と客の関係に戻ってしまった。
私は逃げ方が分からなかった。今更どうでもいい過去が思い出される。挨拶なんてしたくない。もう要らない。こんなもの捨ててしまえ、過去なんて要らない。ゴミ箱に捨てようとしたが、どうにもならなかった。アイスの捨て方じゃああるまいし。ネームプレートで店員さんの名前は知っていたが、それだけじゃ進まない。のは分かっていたがこんな時どうすればいいのか分からなかった。常連さんということは、週3は来ていることになる。日によっては毎日来ることだってある。普通の店員と客の関係か…。前まではそれでもよかったが、満足できなくなっていた。私は如何したっていうのだ。恐怖からくるものか分からないが、びくびくと怯えていた。
アイスの種類は沢山あった。単純なチョコアイス、チョコミント、カップの生産地に拘ったソフトクリーム、氷で出来たザクザクする食感のするアイス…。しかし彼女はもうどうでも良くなってしまった。そんなもの最初から極まっている。そもそもコンビニに来る前から決まっていた。あの、ナッツがたくさん散らばったチョコでコーティングされたアイス…。もう目の中に入ってはいたが、わざわざそらすことに尽力した。
店内…。そろそろと見まわしているとこんな風になっているんだと感心したが、何をどう感心したのか思い出せなくなっていた。慣れたくない。なれたくない。人間になんて慣れたくない。私は如何生きればいいのか分からなかった。私はずっと人間の間々なのか。私は…。こんな時によりによって凝んな事ばかりが思い出される。みんなと一緒になんてなりたくない。でもどうしようもなく私は人間であり続けるしかない。この矛盾を如何しようか。辞めたい。もうこんな時期じゃないか、溶けてなくなりたい。もうしんどい。こころが…居たい…。私はくだらない事ばかりをこねくり回して脳内を巡回していた。嗚呼!店員さん助けてください!私は如何したって言うのでしょうか。私の名前は知らないくせして優しくしないでください。ピアノでも弾きたい。こまごまとした情景が走っては消える。ピアノでも弾けば、心が現れるかしら。この際何でも好い。心が羨ましかった。妬ましかった。普通が羨ましかった。でも天才が羨ましかった。何でもない自分を見つめて何だか泣きそうになってしまった。くだらなさ過ぎて、何にも無さ過ぎて、壊す価値も無くて、何にも無くて、ただ怯えるだけであった。私は、生きる価値なんてあるのだろうか。私は死んだって変わりはないんじゃないか。この世の中に何の影響があるのだろうか。いっそ殺しでもしようか。そうしたら何かを感じることも出来るかもしれない。何かを、得たところでどうもないのだが、私が生きるよりはましなことじゃないか。詰まらない。
レジにやってきた。何時もの代わり映えしない会話が繰り広げられることもないんだろう。嗚呼。私は丁寧に「ありがとうございます。」と言って消えるのだろう。隠していた人間という劣等感がどうしようもなく募ってしまった。「あ、お客さんってなんて呼べば良いですか。」嘘だろう、幻聴か何かだろう。でも応えが返ってない…。視線を感じる。わ、私?見上げると不安そうな人間…「浅川」さんが見ていた。
「え?」「ああ、だからお客さんってなんてお呼びすればいいのかなって、僕お客さんの名前知らないなって…。あ…迷惑でしたか?やっぱり聞かなかったことにしてください。はい、どうぞ。」渡されたアイスをじっと見る。「鈴木です。」「鈴木って言います。浅川さんでいいんですよね。」「あ~よかった。迷惑じゃなかったですか?」「いえ、迷惑だなんてとんでもないです。」こうやって人様のご機嫌を取ることには長けているんだから。でも、確かにうれしかった。「そう、浅川。ネームプレートで分かりますよね。良かった、勇気出して聞いてみて。断られたらどうしようかと思いましたよ。」ふっと彼が笑うと自然と笑ってしまった。浅川さんか…。私は人間じゃないのかもしれない。そんな空想を片手に私は店を出た。浅川さんと少々会話して、店を出た。
いや、何だって私は人間なのだ。人間なのだ。う、うれしい?初めて感情を持ったみたいにドキドキとした。