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第4話 争奪戦




衝撃的な報道があった次の日、いつものように座敷で朝食を食べた後、九時過ぎからゆったり過ごしていた。


ずっとテレビを見ていたが、緊急の政府の発表が入った。


舌の根が乾かぬ内というか、再び、カナダ政府を通した日本政府からの緊急の発表だった。



突然の出来事に、少し腰を上げかけ、何事かと思い、じっくりと誠吾は発表を聞いていたが、昨日ほど重要な事ではないと思うが、その次ぐらいに重要な内容だった。



昨日、誠吾が思って考えていた、『実』の能力についての内容だった。



瞬間、誠吾は何故、今日になってこのような、緊急の発表がなされたのか、気になった。


真っ先に、能力の内容を気にすべきところだが、誠吾はこういったことは少しズレている。



とにもかくにも、自分の憶測にすぎないが、各国、各機関、主に国からであろうが、そこの主要機関から突き上げが激しく、断り切れなかったのだろう。


尋常じゃなかったのだろう。


能力の内容…詳細が知りたかったに違いない。



昨日、あれだけ報道しといて…と、言っていいのか分からないが、国としても一番知りたかったはずの、能力の内容の部分が曖昧だったため、気持ちを抑えきれなかったのだろう。



たぶん、カナダ政府としては、秘匿したかったに違いない。


その方が、政治に役立つし、国益につながるからだ。



しかし、逆に各国は、どうしても掲示して欲しかったのだろう。



能力に限らず、例の『声』の主の存在の正体にも迫りたかったに違いない。



各国は、どのような超常現象的な能力が身に付くと考えたのだろう。


その事はよく分かるし、国の安全を考えるなら納得できる話だ。



全ては誠吾自身の憶測にすぎないが、遠からず合っている、と思っている。



誠吾自身もずっと、実の能力の内容が知りたいと思っていた。



意識をテレビに向けると、不思議と緊急の発表の内容に、高揚している自分はいなかった。


昨日は確かに、些か気持ちが高揚し、ちょっとハイになっていたのに、今日になって急に冷めてしまった。


まあ、いつまでも『熱』を持っている訳ではないし、これが普通なのだろう。



色々と考えていたが、いよいよ実の能力の話題になってきたが、驚くほどあっさりと発表された。


誰もが熱望したに違いない、待ちに待った内容なのに、拍子抜けするぐらいさらりと…。



その内容というのが、誠吾自身も驚いたが『ありとあらゆる言語が話せる』というものだった。



具体的には、いや、まだ完全に把握しきれていないみたいだが、この地球上に存在する言語なら、理解し、その瞬間に話せるというものだ。


当然、教科書を見て勉強、言語を覚えるという手順は必要ない。


すっ飛ばしている。



掻い摘んで、誠吾なりに説明すると、この『ありとあらゆる言語が話せる』という実を食べた男性は五十代で、もう高齢の一歩手前だ。


これまで歩んできた人生は、カナダ国内に限られ、海外での生活は一切ない。


頭の出来は知らないが、少なくとも、母国語以外に話せる言語はなかったらしい。



詰まるところ、世間の一般人の如く、母国語オンリーの人生だった。



改めて確認するものでもないが、フランス語、ドイツ語、ポルトガル語、スペイン語、ロシア語、中国語、韓国語、ヒンディー語、日本語、などなど…。


話せることはなかった。



その男性が(ここで重要な事を一つ)、相手の容姿を見て、言語に当たりを付けて、こちらから話しかけるのではなく、まず『聞く』という手段を持って、その後に『瞬時』に話せるようになった、というものだ。


恐らく、というより、想像に難くないが、相手の『言語を聞く』というプロセスを経て、その瞬間に、その『言語の全てを理解する』マスターした、ということなのだろう。



もはや、これが本当の話なら、『凄い』としか言いようがない!


正直、羨ましい。



まあ、もっとも、可能性としては、その男性はとても頭がよく、あり得ないかもしれないが、全世界の言語をマスターしている、という事も考えられる事には考えられる。


それを証明…実の能力を証明する手立てが、誠吾自身にはないからだ。



今も研究を行っているであろう、カナダ政府なら、この話が本当なのか、ほぼ完全に信憑性が提示できるはずだ。



もっとあり得ない、ぶっ飛んだ能力だったのなら、この手の話は信じるしかないのだが、『信じ切る』という点に置いては、『微妙』だと言わざる負えない。


これがまだ『空を飛んだ』、『身一つで浮かんだ』となれば、誠吾も『ほぼ』信じただろう。



現代社会なら、映像でどうとでもなるが、その『どうとでもなる映像』をわざわざ、政府を返して全世界に発表はしまい…しないだろう。


昨日も思ったことだが、嘘は言わないだろう。



カナダ政府を通した日本政府の発表によると、更に細かい能力の調査が行われていると話していて、現地民、例えば少数民族の、少数言語、方言的な言い回しでも理解できるのか、失われた言語でも可能なのかどうか、等々といった事が試されるらしい。



この男性の境遇には同情するが、一夜にして億万長者になっただろう。


実験には、一苦労も二苦労も三苦労もあろうが、能力の内容如何は関係なく、富と名声が集まってくるだろう。


具体的な方法は分からないが、そういうものだ。



今はまだ、実名…男性の本名は発表されていないが、身の安全を考えて発表しないのか、とにかく実名が世界に公表される日も近いのかもしれない。


ふとした事から洩れるかもしれない。


いや、洩れるだろう。


その時、世間ではどう対処するのか分からない。



まあ、誠吾には関係のない話だし、比較的、発表の内容はすんなり終わりそうなので、この後の、他に流れるであろうテレビ番組のコメントが気になるというか、再び、パニックを起こすだろうが、誠吾の中では能力の内容は理解した。



一言で言うなら『言語マスター』になった、という事だ。


通訳とか、まさにもってこいだ。


海外旅行もお手のもの。


旅先で、困ることはないだろう。


言語を教える『先生』も良いのかもしれない。


もっとも『教える』という手段も『マスター』しているのか、もしくは『個人の能力のまま』なのか、そこまでは分からないが…。




能力の話が一区切りついたのか、次に発表された内容も、少なからず興味深いものだった。



今回、発見された? と言っていいのか分からないが『実』を、カテゴリーという名で分類するそうだ。



その後の説明が分かりにくいが、能力の範囲。とりわけ能力の及ぼす空間、距離、対象、そんなものを踏まえて分類訳するそうだ。



この手の話がすんなり出てきたことに、誠吾は少なからず驚きを隠せない。


この手の話は、調査、議論、検討、結果、それらに時間がとにかくかかるのだ。


それと権力もいるだろう。



いざ、部類を決めたはいいが、それを『良し』としなければ意味はない。


詰まるところ、大衆に向けて『認知』させる必要がある。


なので権力、とりわけ国家並みの権力が必要なのだ。



例えるなら、世間の一般人が『法』を作っても、受け入れられない。


それがどんなに画期的な『法』であっても、一般人である以上、誰も受け入れてくれないのだ。



逆に、どんなに悪い法でも、権力を持った人が、もしくは複数人が『是』とすれば、それは『法』になり得る。


日本でいう国会議員(詰まるところ、国会議員は権力の塊だ)が、それを受け入れれば、世論に適用されるのだ。


国会議員から権力を奪えば、もはや何も残るまい。



なので、カナダ政府の発表にしても、国家という枠を超えた、とてつもない権力が作用しているのだろう。


で、なければ、『分類訳』なんて出来ない。


いや、分けるのは出来るが、『周知させる』ことは出来まい。



もしくは、今回のは『仮』で、とりあえず何かしらの『指標』が必要で、準備されたのだろうか?


今回の発表を乗り切れば、『代替え』いや、『本命』を検討し、そして『変わる案』を出すのだろうか?


『正式な指標』が今後、存在するのだろうか?




少し話がそれたが、戻すと、今回はカテゴリーはいくつか、数値で分類されるそうだ。




カテゴリー0はといえば、能力の効果対象が、自身より一ミリも外に出ていない。


詰まるところ、能力の及ぶ影響が、自身内で留まる、ということらしい。




次に、カテゴリー1は少し範囲が伸び、身近な人を含めて、数メートル程度。


分かりやすく説明するなら、自身を中心とした、透明なドームを想像すれば理解しやすいだろう。


別に透明でなくてもいいが、想像するにはその方が良いと自分では思う。



カテゴリー1は自身から数メートルの球体が作られる、ということだ。


この球体の中なら、得た能力の効果範囲、対象となるらしい。




次に、カテゴリー2は更に広まり、ちょっとしたスポーツ競技が出来る広さらしい。


これまた分かりやすく説明するなら、目視出来る範囲ぐらい。


と、言ったら、遥か遠くの山々も対象になるかもしれないが、その遥か遠くにいる人(仮に)を認知できるか、ってことになる。


すなわち、『認知』も条件となるらしい。



なるほど、そうすれば確かにスポーツ競技が出来る範囲ぐらいだろう。


短くて数十メートル、長くて数百メートルだろう。


能力を得たその人自身の、とりわけ『視力』が影響を及ぼすかもしれない。


視力が悪ければ、認知力が落ちて、結果、能力の範囲が、同じ能力を得たとしても、効果範囲に差が出てくるかもしれない。




カテゴリー3クラスからは、一線を画すようになっていて、町一つ、県一つといった具合で、比較的効果範囲が伸びる。


ここまでくると、『認知』は関係ない。


対象となった範囲内の人間(人間である必要はないのかもしれないが…)無差別に効果対象となる。



ある意味、怖い。


いや、ある意味どころか、正直なところ怖い。


無差別テロを連想してしまう。




カテゴリー4クラスとなると、もはや笑うしかない。


なんと、効果範囲が『国』なのだ。


国家全体に影響を及ぼすことが出来る。


『効く』か『効かない』かそれは置いといて、その『対象となってしまう』という現実は、鳥肌ものだ。



もはや、何も出来ない。


逃げようとしても、何も出来はしない。


気付けば『何かをされて』いるだろう。




カテゴリー5は更に広がり、災害を超えるレベルだ。


そう、複数の国家が集まった『大陸』が対象となる。


詳しく言えば『大陸全体』だ。


この星の大陸の数は限られるが、もはや苦笑いするしかない。



事実上、地球に点在する国家で対処出来るのは、カテゴリー5までだろう。



なので、存在しないけど、ある(存在する)ということで、カテゴリー6なるものが、この上に存在する。



幻…まさに、幻といっていいのかもしれないが、人類では対処不能の『星』を指す。


そう、惑星、『地球』に及ぼす影響だ。



ここまでくると、能力に限りが出るだろう。


どんな能力だったら、地球全体に影響出来る?


ふと、自身で考えてみたが、思い付かなかった。



荒唐無稽で良いのなら、言うなら、大規模な、破壊的な災害だ。


もはやそれに近いものしかない。



他に、何が上げられる?


ここまでくると恐怖を超えて、物語を読んでいるみたいだ。


グルっと感情が一回りして、何も思わない。


それに近いものかもしれない。


諦めに似た『笑顔』。


それが一番自身ではシックリとくる。



カテゴリー6はいわばアンノウンで、Not measurable(ノット メジャラブル:測定不可能)なのだ。


それを意味する。



なので、事実上は、カテゴリー5までで、『実』が発見され次第、能力の解明と伴って、分類訳するらしい。


人類に対して、脅威度を測るのだろう。


誠吾も、その方が良い。



振り返るが、カテゴリー6はいわばアンノウンで、Not measurable(ノット メジャラブル:測定不可能)なのだ。


カテゴリー6は現れない方が人類の為だ。


その方が良い。


その『瞬間』が仮に来たならば、この地球上全てで、どこが対象でも『死神』が降臨するかもしれない。




今回発見された、『言語マスター』(誠吾が単にそう呼んでいるだけなのだが…)は驚くことに、予想に反して、カテゴリー0。


言語を理解する、理解出来る、という点において、自身の脳が対象となるからだ。



別段、会話しなくても問題はない。


会話の対象が自分の周りにいても、『会話する(話す)』という行為自体は、能力とは関係ない。


ここはよく考えられているのか、誤解しがちだが、『言語を理解する』のであって『言語を話す』能力ではない。



『言語を話す』能力になった場合、その能力が稼働している間、ずっとその人は『話を続けなければ』ならない。


どういう事かと言うと、電球のスイッチみたいなものだ。


能力…ここでは、仮に『言語を話す』とすれば、それが『ON』になっている間、ずっと『言語を話す』という能力が作動する。


つまり、ずっと『会話を続ける』という事になる。


こうなると、不便だ。



でも、『言語を理解する』能力の場合、理解だけが自分の中で流れる。


スイッチが『ON』だろうが『OFF』だろうが、『理解』だけが作動するのだ。



能力を切れば、理解出来ないし、『言葉』とはつまり、頭の中を『語った』ものだ。


『言語を理解』していなければ、話せはしない。



と、いう内容を延々と聞かされ、誠吾としては少し頭を捻っていたが、安心出来るのか、安心していいのか、人類初の能力者(これも誠吾自身が勝手呼んでいる…)はカテゴリー0に留まった。



ふと、思ったが、能力の発表する時、誰がするのだろう?


能力を発現した人が所属する国がその都度、コロコロ変わるのか。その為のシステムを、今後、数多くの国々で取り決めるのだろうか。



この発表を機に、人々の熱狂は爆発し、止まることを知らないだろう。



もはや、『一般人』である誠吾でさえ、容易に想像出来る。


熱狂というか、そんなレベルではない。


世界的に見ても、一色に染まるだろう。


身近な場所、スーパーマーケットやホームセンター、コンビニ、外食チェーン、どこもかしこも見られ、影響となり、日常的な風景となるだろう。



その事を考えるだけで、億劫となり、この期に及んでまだ、誠吾自身、『真剣に実を探そう』とは思っていなかった。



少なからず『実を探そう』とは思っているが、ふとした作業の合間や、車に乗って移動している途中で探すかもしれない。


その程度の労力なら、大したことはないし、大丈夫だろう。


価値がある、と思う。



日本国内で、『実』が何個あるのか、想像もしたくないけど、絶望的なことは間違いない。



それでも尚、人々は、日本人は『実』を求めるのだろう。


探索に、躍起になるはずだ。



これを機に、誠吾は勢いよく席を立って、声を高らかに上げて宣言する。


そう、右拳を天に突き上げて、こう叫ぶのだ。






「世界はまさに、トレジャーハンティングだ!!」




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