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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

婚約破棄された女神です~悔しいので、元婚約者を地獄に叩き落してやろうと思います。 ふふふ、絶対に許さないんだから、覚悟しなさい~

作者: 暇潰し請負人

 その日、ワタクシ女神アリスタは朝からとてもウキウキしていました。


「今日は待ちに待ちに待ったデートの日~。うれしいなったら、うれしいな~。ルルル~」


 あまりにもうれしすぎて、鼻歌まで歌っちゃったりなんかしてしまいます。

 なぜワタクシがこんなにはしゃいでいるのですかって?

 そんなの決まっています。今日はワタクシの婚約者であるメトロとのデートの日だからです。


 しかも、「今日は大事な話があるから」って、言われてたりします。

 もうワタクシの期待は最高潮です。


 ワタクシの婚約者のメトロはとても素敵な方です。

 とても頭が良くて、運動もできて、背も高くカッコよくて、ワタクシに優しくて、仕事もできて、出世街道に乗ったエリートで……褒めるところだらけでとても言葉では言い表せません。


 メトロとワタクシは幼馴染です。

 小さい頃からワタクシと一緒に遊んでいました。

 花畑で一緒に追いかけっこをしたり、お昼寝とかもしました。

 最近だって、メトロはワタクシを食事に連れて行ってくれたり、劇を見に連れて行ってくれたりします。


 本当最高の彼氏です。


 周囲からは、「いつ、結婚するの?」何て言われたりもします。キャー、恥ずかしい。

 というか、そろそろ雰囲気的にプロポーズされる頃合いだとワタクシは思っていました。

 そして、「大事な話がある」というパワーワード。もしかして、今日のデートあたりで……。


 そんなことを想像すると、ウキウキが止まりません。


「姉ちゃん、はしゃぎすぎ」


 そんなワタクシを見て弟のリンドブルが呆れた顔をしています。


「そうかしら」


「言っておくけど、メトロってそんなにいい奴じゃないぜ。妙に出世欲が強くて、腹黒いし」


 リンドブルが何かメトロの悪口を言っています。

 リンドブルはどうやらあまりメトロのことをよく思っていないようです。

 よくワタクシにメトロの悪口を言ってきます。


 普段なら、メトロの悪口を言ったりしたらぶん殴ってやるところですが、今は大事なデートの前です。余計なことをしたくありません。


「ふん、お黙り!メトロがそんな方のわけないでしょう」

「ああ、そうかい。じゃあ、勝手にしなよ」


 短く姉弟で言い合っただけで終わりです。


「それじゃあ、出かけてくるからね」


 最後にそう言い残してワタクシは家を出ました。


★★★


「アリスタ。僕と別れてほしい」


 その言葉をメトロの口から聞いたワタクシは、最初メトロが何を言っているのか理解できませんでした。


「え、メトロ、今なんて」

「だから、別れようって言ったんだ。もう僕たちは赤の他人だよ」

「!!!」


 今度こそワタクシはメトロの言葉を理解しました。

 そして、そのままワタクシは絶望の谷へつき落されました。


「メトロ、そんな……どうしてですか」

「僕は真実の愛の相手を見つけたんだ。そして、その人と付き合うことにした。だから、君のことはもう愛せない。さようなら」

「メトロ、待って、待ってください」

「いい加減にしてくれ!」


 引き留めようとするワタクシの手を強引に振りほどくと、そう冷たく言い残し、メトロは去っていきました。


 残されたワタクシは、ただ呆然とするだけでした。


★★★


「姉ちゃん、いい加減に出てきなよ」

「うるさい!このバカ弟!ほっといてよ。いいから、ほっときなさいよ!」

「そうかよ!もう知らないからな!」


 ワタクシはリンドブルに部屋から出てくるように言われて、腹が立って怒鳴り散らします。


 あの日、メトロに別れを告げられて以来、ワタクシはずっと部屋に閉じこもっています。

 何をする気も起こりません。そんな気力もありません。


 だから、ワタクシのことを励ましに来てくれたリンドブルに対しても、リンドブルは何も悪くないのに、つい癇癪を起してしまい、怒鳴って追い返してしまったのです。

 姉として情けない話ですが、自分でも気持ちをどうしても抑えることができないのです。


 そうやって、ワタクシはどんどん孤独になっていき、ワタクシの心は闇に支配されていくのでした。

 

★★★


 しかし、どんな暗闇の世界にも光がさすことがあります。


 とうとうワタクシの心にも光が差す時が来ました。

 それはある一つの思い付きから始まりました。


 ある日、ワタクシはふと思いつきます。


 そうだ。もう一度メトロに会おう。会って真意を聞こう。真意を聞いて話し合えば、きっと分かり合えるはず。メトロももう一度ワタクシのことを見てくれるはず。

 そんなことを思いつきました。


 後で考えたらとんでもなく甘い考えだったのですが、ワラにも縋る思いだったその時のワタクシには、とても素晴らしい考えのように思えました。

 一度思いついたらワタクシはいてもたってもいられなくなりました。


「とにかくメトロに会わなくちゃ」


 ワタクシは着の身着のままで部屋を出ました。


★★★


「クレア、愛しているよ」

「まあ、メトロ様、うれしゅうございます」


 とあるレストランで、メトロがある女性にそんな甘い言葉をささやいているのを発見しました。


 ワタクシは家を出た後、メトロを追い求めてあちこち移動しました。

 そして辿り着いたのがこのレストランです。


 ワタクシはここでメトロが女性に愛を語っているのを見て、絶対に許せないと思いました。

 なぜなら、ここはワタクシとメトロの初めてのデートで食事をした思い出のレストランだったからです。


 よりにもよってそんな二人の大事な思い出の場所で、他の女に言い寄るなんて。

 千年の恋も一瞬で吹き飛びました。


 すっかり怒りの感情で脳みそを支配されたワタクシは、こっそりと二人に近づき、物陰に隠れて二人の会話を盗み聞きしました。


「クレア、結婚しよう」

「はい、喜んで」


 どうやら相手の女の名前はクレアというらしいです。


 うん?とワタクシは思いました。

 クレア。その名前には聞き覚えがあります。

 確かメトロの上司の主神プラトゥーン様の秘書官の娘の名前だったはず。


 ははああ~ん。

 ワタクシはすべてを悟りました。

 つまり、メトロはワタクシを捨ててでも、上司の娘と結婚して出世を狙っているようです。


 何が真実の愛を見つけただ!てめえの出世のために何年も付き合ってきたワタクシを捨てただけじゃねえか!本当、最低のクズ野郎だ!

 こんな奴のことを長年愛してきたなんて……。本当に自分が情けなくなってきます。


 ワタクシの注いできた愛を返せ!

 そう叫びたくなります。


 ふふふ、絶対に許さないんだから、覚悟しなさい。


 そう思ったワタクシは、自分にされた仕打ちへの復讐を誓うと、そのための方策を練るべく、一旦その場を立ち去るのでした。


★★★


 次の日からワタクシは行動を開始しました。


「絶対にメトロをギャフンと言わせてやるんだから!」


 メトロへの復讐の情念に燃えるワタクシはまず情報収集に努めることにします。


「ふふふ。これならワタクシだとバレませんね」


 ウィッグを被って、普段着ないような服を着て偵察に出掛けます。


「お前たち、メトロの弱みをつかんでくるんですよ」


 さらに、飼っている動物たちをも使ってメトロの弱みを握ろうとします。

 ワタクシ、こう見えても動物を育てるのが得意なのです。

 ワタクシが育てた動物たちも、ワタクシの言うことをよく聞いて、ワタクシに協力してくれます。


 しかし、敵もさるもの。


「メトロの奴、中々隙を見せないですね」


 そこは仕事ができる男メトロ。

 自分の弱みを見せるようなことは簡単にはしてくれません。

 まあ、簡単に行かないことは最初から分かっていたので、ワタクシもこの位であきらめるつもりは毛頭ありません。


 しかし、メトロの奴見せつけてくれます。


「クレア キスしようか」

「はい、メトロ様」


 メトロの奴、あれからもちょくちょくクレアをデートに誘っています。その上、ワタクシの前でキスなんかしてくれちゃいます。

 それも何度も、何度も。


 ムキー!!!悔しいです。

 ワタクシだって1回しかしてもらったことがないのに。

 それなのに、何度もあんな風に濃厚なキスをするだなんて!


 やはりワタクシはメトロにとってキープ。本命がダメだった時の予備の女に過ぎなかったのでしょうか?

 都合が悪ければいつでも捨てられるような女だったのでしょうか?

 ワタクシはあんなにもメトロに愛を捧げたというのに。

 本当に悲しいです。


 でも、ワタクシは負けません!絶対にメトロのアホを地獄に叩き落してやります!


★★★


「あれ?あの人、またいる」


 メトロの弱みを握ろうと行動しているうちに、ワタクシはある男の存在に気が付きました。

 身を覆い隠すように灰色のローブを被っている男です。


 その男はメトロとクレアがデートしている時にはいつもいます。

 いつもいて、二人のことをじっと観察しています。

 まるで、二人のことを監視しているみたいに。

 はっ。ワタクシはそこでハタと気づきました。まさか、こいつも……。


 ワタクシは思い切って声をかけてみることにしました。


「あの、すみません。ちょっと聞いてもいいですか?あなたって、いつもあの二人のことを見ていますよね。何してるんですか?」

「うん?なんだ?突然。って、あんた、いつもあの二人を見ている姉ちゃんじゃないか」


 どうやら、その男もワタクシの存在に気が付いていたみたいです。

 そいつはワタクシのことを見ると、まるで値踏みでもするかのようにジロジロとワタクシのことを見回します。


「まあ、いい。別にいいじゃねえか。俺がここで何してたって」

「もしかして、あなた、あの二人のことを監視していたのではないですか?」


 はぐらかそうとするそいつに対して、ワタクシはズバリ言ってやりました。

 すると、そいつは驚いた顔になり、もう一度ワタクシの顔を見ました。


「だとしたら、どうなるんだ?」

「別にどうもしませんよ。ワタクシもあの二人に恨みがあり、あの二人のことを探っている身ですので。あなたもそうではないのですか?」

「ああ、そうだ。俺もあいつらのことを探っている」


 そう言うと、男は一度座り直して、ワタクシの正面を向きます。


「あんた、名前は?」

「アリスタです。あなたは?」

「クリントだ」


 男はそう名乗りました。


★★★


 クリント。


 どこかで聞いたことがある名前です。

 はて、どこで聞いたのでしょうか?

 ワタクシは頭の中で必死に思い出そうとします。


 あっ。ワタクシはすぐに思い出しました。


「クリント!?もしかして、クリント様?主神プラトゥーン様のご子息の?」

「ああ、そうだ。確かに俺はプラトゥーンの息子のクリントだ」


 やはり、そうでしたか。

 ワタクシは世事に疎い方ですが、クリントのことは知っています。


 正直、あまりいい噂は聞きません。

 奇抜な恰好をして、子分を率いてスレイプニルという8本脚の大きなお馬さんで天界中を爆走しまくっているとか、その子分たちと街中で夜中に大騒ぎしながら酒を飲んでいるとか、碌な話を聞きません。

 まあ、言ってみれば破落戸ごろつきです。

 ローブに隠れてはっきりとわかりませんが、今の格好も派手なようですしね。


 天界の大うつけもの、などとも呼ばれているようです。

 だから、父上のプラトゥーン様もとっくにクリントのことを見放していて、弟の方をかわいがっているらしいです。

 父君のプラトゥーン様は素晴らしい方なのに、どうしてこんなうつけものが生まれてしまったのでしょうか。


 まあ、とにかく碌でもない男なのは間違いないです。

 それにこういうチャラチャラした男は一番嫌いなタイプでもあります。

 だから、話が終わったら二度とかかわらないようにしよう。そう思いました。


 しかし、それでも主神様のご子息です。ワタクシとは身分が違います。

 知ってしまった以上はご挨拶しないわけには行けません。


「これは、失礼しました。プラトゥーン様のご子息にご無礼なことを」


 しかし、クリントはそれに対して手をひらひらと振ります。


「そんな堅苦しい話し方はよしてくれ。俺はそういうの苦手なんだ。後、俺のことはクリントと呼び捨てでいい」

「わかりました。クリント」

「それで、アリスタさん」

「アリスタです。ワタクシもあなたのことを呼び捨てにするのだから、ワタクシのことも呼び捨てにしてください」

「わかった。それで、アリスタ。お前って、もしかしてリンドブルの姉のアリスタか?」

「はい、そうですけど。弟のことを知っているのですか?」

「ああ。何せ俺の子分だからな。この前も俺の後ろに乗って、スレイプニルで親父の神殿の回りを爆走してやったぜ!」

「まあ、そんなことが」


 まさか、リンドブルの奴。

 よりにもよって、こんな破落戸と付き合っているだなんて。

 これは後で注意してやらなければと思いました。


「ところで、アリスタ。お前もここにあいつらを監視に来ているのか」

「はい」

「よかったら、その辺の事情を話してくれないか」

「わかりました」


 ワタクシはメトロにされた仕打ちについて話し始めました。


★★★


「なるほど、お前も大変だったんだな」


 ワタクシの話を聞いたクリントはうんうん頷いています。

 クリントは真剣かつ真面目にワタクシの話を聞いてくれました。

 あれ?もしかして、この人。実はいい人?

 真剣に話を聞いてくれるクリントを見て、ワタクシはそう感じました。


「じゃあ、次は俺の話を聞いてくれよ」


 今度はクリントが自分のことを話し始めます。


「俺さあ、クレアの奴と付き合っていたんだ。割とうまくやれていたんだ。少なくとも俺はそう思っていた。だけど……」


 そこでクリントは一瞬言葉を詰まらせました。多分言いにくかったのだと思います。

 しかし、意を決したかのような顔になると、続きを話し始めます。


「だけど、あいつ突然こんなこと言いだしやがった。『主神様の息子だからと思ってあんたに近づいたけど、あんた全然ダメじゃない。もう愛想が尽きた。他にいい人見つけたから分かれて』そんなことを言われた」

「へえ、クリントにもそんなことがあったんですか」


 クリントの話を聞いたワタクシは思いました。

 ああ。あのくそ女もメトロの同類か、と。


 そう考えたら、あの二人はお似合いのカップルなのだと思う。

 だからと言って、あいつらのことを許す気持ちは全く沸かなかったですが。


 しかし、クリントもワタクシと同じ目に遭っていたとは……。

 彼のことを最初に知ったときは、碌でもないやつだからここで別れたら二度とかかわらないことにしよう。そう思っていましたが、ちょっとだけ親近感が沸いてきました。

 だから。


「なあ、好きなのにフラれた者同士、一緒に見返してやらないか」


 そう誘われた時、つい。


「はい、いいですよ」


 そう返事をしていました。


 本当なぜなのでしょうか。


★★★


 あの日以来、ワタクシはよくクリントと会っています。

 何度も会っているうちにワタクシのクリントに対する印象が少しずつ変わってきました。


「こいつ、思ったより頭良くないですか。それに面倒見もいいし」


 そうなんです。

 人は見かけによらないと言いますが、クリントって思っていたよりもずっと頭が良いのです。切れ者なのです。


 例えば、クリントには大勢子分がいて、そいつらが、時には20名くらい、一度に話しかけてくることがよくあるのですが、それらをすべて聞いて、話を把握してしまいます。


「○○は、大変だったな」

「××、すごいじゃないか」


 そうやって、ちゃんと会話を成立させてしまいます。

 ワタクシなど一人でも手いっぱいだというのに……とても信じられません。


「どうやったら、そんなことができるのですか」


 ワタクシが聞いてみると、クリントはこともなげに答えました。


「え?ちょっと注意して聞いてりゃあ、これくらい誰でもできるだろうが」


 それを聞いて、ワタクシはこいつ本当に頭がいいんだな、と思いました。


 また子分たちの面倒見もよいです。

 何か問題を抱えた子分がいると聞くと、その人の所へ必ず行き、何十分でも時には何時間でも話を聞いてやります。

 聞いたからと言って必ずしも問題が解決するとは限らないのですが、問題を抱えている人にとっては、話を聞いてもらえるだけでも味方が増えたような気がして、心が軽くなるものです。

 それに、クリント自身、他人の話を聞くのがものすごく上手なのです。


「ありがとう。話を聞いてくれて本当にありがとう」


 クリントに話を聞いてもらった者は、一様に涙を流しながらそうお礼を述べるのです。

 だから、妙なカリスマ性を発揮して、子分連中には非常に慕われています。


 それにクリントのカリスマ性は彼らに対してだけ発揮されるものではありません。


「よし、いい子だな」

「キュルキュル」

「ピーピー」


 ワタクシの飼っている小動物たちがクリントに懐いています。


 うそ?この子たち、ワタクシ以外にはせいぜい家族くらいにしか懐かなかったのに。それ以外の者には敵意丸出しだったのに。それがクリントにはあっさり懐いてしまうだなんて。


 とても信じられませんでした。


 動物というのは割と善悪に敏感なのです。心の奥底に邪悪な思いを抱えた人には中々懐かないものなのです。

 それがあっさりと懐くということは……あれ?クリントって、見かけによらず実はいい奴なのかも。


 ワタクシはちょっとだけクリントを見直しました。

 でも、ほんのちょっとだけですからね。


★★★


「姉ちゃん、クリントとつき合っているんだって?」


 そんなある日、ワタクシは弟のリンドブルにそんなことを言われました。


 クリントとつき合っている?このワタクシが?

 何の冗談でしょうか?

 ワタクシは慌てて否定します。


「ちょっと、リンドブル。あんた、突然何言いだすのよ!」

「え、違うの?」

「そうよ。ワタクシ、クリントなんかと付き合ってないわよ」

「そうなの?でも、皆言ってたぜ」

「なにを?」

「クリント、姉ちゃんにとても優しくしているし、姉ちゃんも満更でもなさそうだって。だから、みんなつき合っているに違いないって」


 何ということでしょうか。ワタクシたちが周囲からそんな風に見られていただなんて。


 確かにクリントは優しいです。


「アリスタ、お菓子食うか?」

「アリスタ、このお茶飲みなよ」


 そうワタクシに色々と世話を焼いてくれます。

 優しいのは間違いないのですが、何というか、恋人に対するものではないと思います。

 どこかよそよそしい感じがしますし。


 それにワタクシも満更でもないと言われているようですが、それだって優しくされたことへのお礼を述べているだけです。

 特別な感情を抱いているわけではないはずです。……多分。


 そうリンドブルに反論してやると、リンドブルはせせら笑いました。


「姉ちゃんて、思っていたよりも子供なんだな。相手の気持ちにも自分の気持ちにも正面から向き合えないなんて」


 まあ、このバカ弟は姉に対して何ということを言うのでしょうか。


「お黙り!」


 ワタクシはリンドブルの奴を一発ひっぱたいてやりました。


「姉ちゃんのバ~カ!」


 そう言い残すと、リンドブルはさっさとワタクシの前から逃げ出しました。


「本当にあいつは……」


 その後はしばらくの間ワタクシの怒りは収まりませんでしたが、そのうちに冷静になってくるとワタクシはある事実に気が付きました。


 あれ?ワタクシ、あの破落戸の女だと言われたのに、全然嫌な気がしなかった。


 本当、ワタクシはどうしてしまったのでしょうか。


★★★


「なあ、アリスタ。お前の動物たちを貸してくれないか」

「ワタクシの動物たちをですか?」

「そうだ。実はあの男の弱みをつかめるかもしれない」

「まあ」


 ワタクシはいよいよその時が来たと思いました。

 クリントと知り合ってから結構経ちましたが、今まで調査にさほどの進展はありませんでした。

 それだけメトロが尻尾を見せない抜け目のないやつだというわけだったのですが、とうとうその尻尾をつかむ時が来たようです。


「それで、何をするつもりですか」

「俗に『将を射んと欲すれば、まず馬を射よ』って、言うだろ?けれども、今回はその逆をやってみようと思う。つまり、今回は『馬を射るため、まず将を狙え』ということだ」

「それは、どういう意味ですか」

「まあ、簡単に言うと、メトロは隙のないやつだが、その上司はそうでもないということさ」


 クリントはそう言いながら、クククと不敵に笑います。


「ということで、メトロをたたくためにその上司をつぶすことにした。そのためには……。アリスタ、お前の力が必要だ。協力してくれるな?」


 最後はワタクシの肩に手を置きながら、クリントがワタクシにそう頼んできました。

 それに対するワタクシの返事はもちろん決まっています。


「もちろん、喜んで協力させてもらいます」

「よし、それじゃあ俺とお前の力を合わせて、あいつらに目にものを見せてやろうぜ!」

「はい!」


 こうして、ワタクシたちはメトロたちを地獄へ叩き落すべく、行動を開始したのでした。


★★★


 天界会議。

 半年に1回行われる天界の神々による会議です。

 この会議では天界のこれからの方針や事業の承認や報告などが行われています。


 今、この議場ではある事業計画の予算が承認されようとしていました。


「それでは、この事業について質問のある方はいないですね?それでは、この事業の予算の承認に賛成の方は挙手を……」


 進行役がそうやって議事を進行し、今まさに決が採られようとしたまさにその時。


「異議あり!」


 と、誰かが叫び、議場に入ってきました。


「クリント!」


 議長であるプラトゥーン様が、入ってきた人物をにらみながら、苦々しそうに叫びます。


 そう。議場に乱入したのは、誰あろうクリントでした。

 ただ、入ってきたのはクリントだけではありません。

 何人かの子分が付き従っています。もちろん、子分ではありませんが、ワタクシもいます。


「クリント、貴様、何用で入ってきた!」

「何を言うんだ、オヤジ。議事に対して意見があるから入ってきたんだろうが。それに俺は一応評議員の資格を持っているから発言権はある。まあ、今まで一回も来たことはないけどな」


 そこまで言うと、クリントはワタクシたちを引き連れて自分の席に向かいます。


 そこは碌に使われていないせいでちょっと埃をかぶっていましたが、十分な広さのある席でした。

 評議員には、時には役員や従者を引き連れてくることもあるので、広いスペースが与えられています。

 ワタクシたちはクリントに促されその席に着きます。そして、席に着くなり、クリントはこう宣言します。


「さて、それではこの事業計画の不審な点について説明させてもらおうか」


★★★


「まず、これを見てくれ。アリスタ」

「はい」


 クリントに言われたワタクシは彼に一枚の写真を渡します。

 その写真にはこの計画の提案者であるプラトゥーン様の秘書菅イーサンと、彼はメトロの上司でありクレアのお父さんでもあります、計画を請け負う業者が会って、お金のやり取りをする様子が写っていました。

 この写真はワタクシの動物たちが隠し撮りしてきたものです。


「なんだ?それは?」


 議場が騒然となります。


「見ての通り、イーサンが業者と会って金をもらっている写真だ」


 議場がさらにざわつきます。


「金?それではこの事業にはワイロのやり取りがあるというのか」

「不正だ!不正だ!」


 議場の各所からは罵声まで飛び交っています。


 ワタクシは議場の一角を見ます。

 そこにはメトロと上司でクレアの父親のイーサンが顔を青くしてプルプル震えているのが確認できます。

 自分たちの悪事が露見して、やばいことになったと思っているに違いありません。


 うん。いい気味です。とても気分がいいです。


 それでも、連中は何とかしようと反論してきます。


「そんな写真1枚で証拠になるものか!」

「そうだ。その通りだ」


 イーサンとメトロが、今度は顔を真っ赤にしながらそう怒鳴ってきますが、それに対して、クリントは彼らをあざ笑いながら、きっぱりと言います。

 今日のクリント。ものすごくカッコいいです。


「写真だけでは足りないか。それではこれならどうだ!」


 そう言って、今度は資料の束を突きつけてやります。

 それはイーサンやメトロがやった不正の経過が書かれた資料でした。

 ちなみに、この資料もワタクシの動物たちがイーサンの部屋からこっそりいただいてきたものです。

 さすがはワタクシの動物たちです。大活躍です。これは後でご褒美をやらねば、と思いました。


 その資料を見て、イーサンとメトロの顔色が赤から青へ再び変化します。

 その変わりっぷりは見事と言うほかなく、見ていてとても面白かったです。


「さて、まだ何か言いたいことはあるか?」


 クリントに追い詰められたメトロたちがすがるようにプラトゥーン様を見ます。


 実はこの不正にはプラトゥーン様もかかわっています。

 入手した資料とかに一切名前は出てきませんが、状況証拠的にはかかわっているのは間違いないです。


 プラトゥーン様は公正明大な方として知られています。誰にも公平で優しい方であると皆が思っています。

 ワタクシもずっと尊敬していました。

 それがこんな汚い案件にかかわっていただなんて……正直ショックでした。


 それは、ともかく。


 二人にすがられたプラトゥーン様は、二人のことをあっさりとつき放します。

 この件で自分には決して火の粉が飛んでこないことが分かっているのでしょう。

 余裕の表情で二人にこう言います。


「イーサンにメトロ。君たちには期待していたのに……非常に残念だよ」


 用済みになった二人をあっさりと切り捨てます。


「「そんな、プラトゥーン様……」」


 絶望した顔で二人がプラトゥーンの顔を見ますが、プラトゥーンには一切取り合う気がないようです。


「おい、衛兵。さっさとそいつらをつまみ出せ」

「はっ」


 プラトゥーンの命を受けた衛兵に二人は連れて行かれました。

 これで、メトロは失脚し、クレアにも塁が及ぶでしょう。


 これにてお仕置き完了です。


★★★


「なあ、アリスタ。僕たちもう一度やり直さないか?」


 議場での一件の後しばらくして、汚職事件で免職になったメトロが、ワタクシの所へやってきて、そんなことを言い出しました。

 捨てた女によくもまあそんなことを言えるものだと呆れました。


 見ると、メトロはボロボロです。

 髪はぼさぼさ、服はよれよれ。あの仕事ができる感じがしたメトロは一体どこへ行ってしまったのでしょうかという感じです。


 あのメトロがこんなにひどい有様になるなんて……メッチャすっきりしました。

 心が雲一つないさわやかな青空になりました。

 ああ、これでようやくこのくそ野郎を地獄に叩き落すことができた。

 それを実感しました。


 復縁の申し出?そんなもの、もちろんお断りに決まっています。


「はあ?あんた、舐めてるの?真実の愛を見つけたとか言っていたじゃない。その子と仲良くやればいいでしょ」

「いや、もうクレアとは別れたんだ。それで、その後考えたんだ。やっぱり、真実の愛は君との間にあったんだ、と。だから……」


 まあ、なんて白々しいことを言うのでしょうか!

 あれだけワタクシのことをてひどくフッておいて、今更真実の愛がどうだなんて!

 どうせ、また都合よくワタクシを利用しようとしているだけに決まっています。


「さっさと帰ってください!あんたの顔なんて、二度と見たくない!」

「そんなこと言わずに」

「さっさと帰れや!このゴミくずが!」


 ゴフ。

 最後は腹キックをくらわして追い返してやりました。


 ああ、本当最高の気分です。


 ちなみに、その後二度とメトロはワタクシの前に現れませんでした。


★★★


「何だ。あいつもお前の所へ来たのか」


 ワタクシの話を聞いたクリントが、ガハハと大笑いしています。


 クリントが大笑いをするのも無理はありません。

 というのも、クリントの所にも来たそうです。

 クレアのアホが。


「クレアの奴も俺に、真実の愛が~とか白々しいことをぬかしてきたから、ちゃんとお断りしてやったぜ。しかし、揃いも揃って同じことを言うとは、あいつら本当にお似合いの奴らだったんだな」

「そうですね。ふふふ」


 その後、ワタクシたちは大爆笑しました。


 しばらくそれが続いた後、クリントが急に真面目な顔になります。

 急に何だろうと思っていると、クリントがこんなことを言い始めました。


「なあ、アリスタ。大事な話があるんだ」

「大事な話?何ですか?」

「俺と一緒にならないか?」

「え?」


 それはプロポーズでした。


「一緒にならないかって……そんな急に言われても」

「急なのはわかっている。でも、君のことが好きなんだ」


 君のことが好き。


 普段おちゃらけた感じのクリントに真面目な顔でそう言われて、ワタクシはドギマギしました。

 何だろう。心が温かくなる感じがしました。

 嬉しさがこみあげてくるのを感じました。

 そして、気が付きました。


 ああ、ワタクシはこの人のことが好きなんだな、と。


 そのことに気が付いてしまったワタクシの返事は決まっています。


「はい、喜んで」


 ワタクシはクリントのプロポーズを受け入れました。


「そうか。よかった」

「ただし、一つだけワタクシのお願いを聞いてください」


 喜ぶクリントに対して、ワタクシは一つだけお願いをしました。

 それはワタクシが一つだけクリントに対して不満に思っていることです。


「もうちょっと真面目に生きてください。クリントって能力も高くて優秀なはずなのに碌に働きもせず、遊び惚けてばっかりで、将来に不安とかはないんですか?ワタクシは不安です。ワタクシと一緒になりたいというのなら、その辺はっきりしてください。ワタクシは真面目なクリントと一緒になりたいです」


 ワタクシの話を聞いたクリントは、ふむと、頷きます。


「そうか。まだお前には俺がこうやって遊び惚けている理由を話していなかったな」

「え?クリントが遊んでいるのには理由があるのですか?」

「ああ。じゃあ、一緒になる前にそのことについて話しておこうか」


 そう言うと、クリントは自分が遊んでいる理由について話し始めました。


★★★


「お前、俺のオヤジのことをどう思う?」

「プラトゥーン様ですか?以前は立派な方だと思っていたのですが、あんな案件にかかわっていたのを知ってしまうと……」


 それ以上言ってしまうと、ちょっとまずい気がしたので、ワタクシの口からはそれ以上の言葉を出せませんでした。


「別に俺に遠慮する必要はないんだぜ。この前の件で、オヤジのこと、あまりよく思っていないんだろ?」

「ええ、まあ」

「でも、あの程度の悪事、親父の中ではまだマシな方なんだ」

「マシ?それって」

「まあ、聞いてくれ」


 そう言うと、ワタクシに手をぎゅっと握ってきました。


「うちのオヤジってさあ。普段善人面しているが、裏では相当あくどいことをしているんだぜ。自分の気に入らない神を追い出したり、失脚させたりなんてのは日常茶飯事さ」

「まあ、それは……」

「それだけじゃない。最悪なのはオヤジは楽しみながら色々な世界の生物たちを虐殺しているんだ」

「虐殺ですか?」

「そうだ」


 クリントは大きく頷きます。


「ある程度世界を繁栄させてから、繫栄している生物たちを世界ごと滅ぼす。あいつはそんなことをやっている。オヤジには同好の士もいて、そいつらと一緒にどれだけ世界を繁栄させてから滅ぼすことができるかというゲームをして楽しんでいる。俺はいい加減にしろと言ってやったが、『親のやることに子供が口出しするな!』と、一蹴されてしまった。俺は自分が何と無力なのだろうと悟り、悔しかった」

「それは、ひどい!そんなことを神がするのが許されてもいいのでしょうか?」

「いいわけがない。だから、俺はオヤジを止めたい。しかし、オヤジは見ての通り手強い相手だ。だから、遊び惚けて、バカのふりをして、オヤジを油断させようとしている」


 ワタクシの手を握るクリントの力が強くなります。


「そして、オヤジを倒すためには仲間も必要だ。だから、たくさん味方を集めている。それにパートナーも」


 クリントがワタクシのことをじっと見てきます。

 その瞳は子供のように純粋で、輝いて見えました。


「だから、アリスタ。もう一度聞く。俺と結婚してくれないか?結婚して俺を支えてくれないか?大変なことに巻き込んでしまうことになるけど、こんなことを頼めるのは君しかいないんだ」


 君しかいない。


 その言葉はワタクシのハートを見事にわしづかみにしました。

 このクリントの言葉に対するワタクシの返事は決まっています。


「もちろんです。ワタクシはどこまでもあなたについて行きます」

「ああ、アリスタ」


 クリントはその大きな腕でワタクシを抱きかかえると、ワタクシの唇にそっとキスをしてきました。


「クリント、大好きです」


 それに応え、ワタクシも精いっぱい腕を伸ばしてクリントに抱き着き、キスを受け入れました。


★★★


 こうして、ワタクシたちは夫婦になりました。

 メトロのせいでワタクシの人生、いろいろ軌道修正を迫られましたが、結果的にこうやって大好きなクリントと一緒になれて、良かったです。

拙作をお読みいただきありがとうございます。

どうでしょうか?楽しんでいただけたでしょうか?

もし、楽しんでいただけていたのなら幸いです。


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 作者のモチベーションが上がるので、作者非常にうれしいです。

 ぜひお願いします。


 それと宣伝です。

 アリスタとクリントの孫のヴィクトリアが活躍する拙作、「今ならもれなく女神がついてきます~一族から追放され元婚約者と駆け落ちした俺。 食うためにダンジョンに挑み最強の力を得たまではよかったが、 なぜかおまけで女神を押し付けられる~」は、現在絶賛連載中です。

 この作品を気に入っていただけた読者の皆様なら楽しんでいただける内容となっておりますので、まだ読んだことがない方は是非読んでみてください。

 作者のページから行けば、該当作品にたどり着けます。


 なお、5章ではアリスタも登場します。そのうちクリントも登場予定です。

 ぜひ読んでみてください。

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